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プレスリリース「東京海上・MS&AD・SOMPO等による豪州イクシスLNG事業の保険引受が判明~今後の拡張事業の保険を引き受ける可能性も~」を発表

投稿日:2022年10月05日

2022年10月5日

プレスリリース:
東京海上・MS&AD・SOMPO等による豪州イクシスLNG事業の保険引受実態が判明
~今後、拡張事業の保険を引き受ける可能性も~

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)

2022年10月5日ーフランスの環境NGOであるReclaim Financeの報告書「Ichthys Liquified Natural Gas Risky support from the insurance industry(※1)」によると、日本の損害保険会社である東京海上・MS&AD・SOMPOは、2012年から2017年の間に、オーストラリアで最も二酸化炭素排出係数が高い事業である(※2)、イクシスLNG事業(フェーズ1)の保険引受を行っており、現在計画されているの拡張事業「2C」についても保険を引き受ける余地を残していることが明らかになった。

Reclaim Financeが入手した西オーストラリア州の裁判所資料(※3)によると、2012年から2017年に行われたフェーズ1の保険引受者は、日本の東京海上・MS&AD・SOMPO以外に、AAI(Suncorpの子会社)、AIG、アリアンツ、XL(現:AXA XL)、チャブ、HDI Global、ミュンヘン再保険、SCOR、スイス再保険、チューリッヒ、Helvetia、ロイズ保険組合に加盟する複数の保険会社である。

イクシスLNG事業は、日本のINPEX(66%)およびフランスの石油・ガス会社であるTotalEnergies(26%)等が主導するコンソーシアムによって、オーストラリア北西岸の沖合210kmの海域に位置する海洋ガス田から14兆ft3以上のガスを採掘し、ダーウィンに建設した陸上LNG設備を通じて、900万mtpaのLNGを生産する事業であり、その量はオーストラリアの年間LNG生産量の約10%を占めている。膨大の量のガスを抽出・輸送・LNGに変換させるために、世界最大の半潜水型のプロダクション基盤や、南半球で最も長い約890kmの海底パイプライン(※4)等、超大型設備を含む大規模なインフラが建設されている。

2012年から2017年にかけて、上記保険会社の支援により、本事業の陸上設備(フェーズ1)の建設が行われた。2018年からLNGの生産を開始し、2025年までにフェーズ2が稼働する予定である。しかし、フェーズ2がいまだに始まっていないにも関わらず、INPEXとTotalEnergiesはすでに「2C」という3番目の拡張事業を計画している。

2C拡張事業によって、2061年までに新たに数十以上のガス田が採掘され、3兆ft3ものガスが抽出される。この拡張により、イクシスLNGの二酸化炭素排出量は30%増加し、総排出量は590Mtとなり(※5)、その量は現在のオーストラリアの年間Co2排出量総量に及ぶと予測されている(※6)。2C拡張計画は2060年までにLNGの生産拡大を行う予定だが、IEAの「Net Zero by 2050」のシナリオによると、2020年から2050年にかけて、天然ガス由来の二酸化炭素排出量を92%減少させる必要があり、そのためには、削減対策が講じられていないガスの供給を87%減少させなければならない試算である。しかし、イクシスLNGの2C拡張事業によって、2030年以降のガス供給は35%増加する予測である。

オーストラリアは2030年までに温室効果ガスを2005年比で43%削減し、2050年までにネットゼロを達成する目標を掲げているが、本拡張事業は今後40年にわたってカーボン排出をロックインさせ、LNGの拡張計画は将来的にオーストラリアに座礁資産をもたらすリスクになりかねない(※7)。

また、本事業のパイプラインは保護区であるオーシャニック・ショールズ海洋公園に跨る地帯に位置するため(※8)、ガス流出が発生した場合、周辺地域に生息する危急種や、アカウミガメやヒメウミガメといった絶滅危惧種、そしてイルカやザトウクジラを含む26種の鯨類に被害が及ぶ恐れがあり、今後の拡張事業によってガス流出の危険性はさらに高くなる。

保険会社が2C拡張事業を支援することは、各社が発している気候変動・生物多様性に関するコミットメントの内容と整合しない。イクシスLNG事業フェーズ1の保険引受者である11社は、いずれもすでにNZIAに加盟しており「2050年までに保険引受ポートフォリオのネットゼロを達成する(※9)」との約束をしている。また、NZIAの加盟企業は国連主導のRace to Zeroの新基準(※10)に従う必要があり、「新規化石燃料資産の開発、融資、及び促進を制限する」必要がある。

しかし、ファーズ1事業の保険を引き受けた会社の中で、新規の石油・ガス事業に対して保険引受に制限を設けている会社はアリアンツ、アクサ、SCOR、スイス再保険、チューリッヒの5社しかない。その5社に関しても、LNGを保険引受ポートフォリオから排除する方針の策定には至っていない。 そんな中、東京海上、MS&AD、SOMPO、AIG、チャブ、ロイズ保険組合に関しては、非在来型ガスを制限する方針すら掲げていない状態である。

今回、Reclaim Financeを含む19のNGOは、以前イクシスLNGの保険を引き受けた15社に対し、2C拡張事業への不支援表明をするよう要請した。その結果、フェーズ1事業の引受者でありAAIの親会社であるSuncorpだけが、2C拡張事業の保険は引き受けないと回答した。チューリッヒとHDI Globalは、今後拡張事業に保険引受を行う予定はないと回答し、東京海上、SOMPO、アリアンツ、アクサ、ミュンヘン再保険、SCOR、スイス再保険の7社は個別事業について回答できないとしてコメントを拒否した。アクサは今回の拡張事業について、自社の方針によって排除されることはないと回答し、今後保険を引き受ける可能性を残している。MS&ADについては関与が判明するのが遅れたため、事前質問が実施できていない状況である。

本報告書において、Reclaim Financeは各保険会社に対し、イクシスLNG2C拡張事業を含む新規の化石燃料事業の保険/再保険を引き受けないよう要請している。

注:
※1:https://reclaimfinance.org/site/en/2022/10/05/will-major-insurers-rule-out-support-for-ichthys-lngs-expansion/
※2:
https://www.boilingcold.com.au/ichthys-flaring-casts-doubt-on-carbon-neutral-lng-cargo/
※3:http://www6.austlii.edu.au/cgi-bin/viewdoc/au/cases/wa/WASC/2021/471.html?context=1;query=SCOR;mask_path=
※4:https://www.inpex.com.au/projects/ichthys-lng/
※5:Rystad Energyによるデータ。
※6:https://ourworldindata.org/explorers/co2?facet=none&country=~AUS&Gas=All+GHGs+%28CO%E2%82%82eq%29&Accounting=Production-based&Fuel=Total&Count=Per+country
※7:https://www.dcceew.gov.au/about/news/australia-submits-new-emissions-target-to-unfccc
※8:https://docs.nopsema.gov.au/A469355
※9:https://www.unepfi.org/net-zero-insurance/
※10:国連主導のRace to Zeroキャンペーンによって、Race to Zeroの基準が定められた。NZIAに加盟する企業は、基準に従うようコミットメントすることが求められる。新基準の内容については以下のURLを参照。https://climatechampions.unfccc.int/wp-content/uploads/2022/06/Race-to-Zero-Criteria-3.0-4.pdf

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝、tanabe@jacses.org

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