緊急声明「外務省がバングラデシュ・マタバリ石炭火力フェーズ2の事前調査を決定~気候危機や電力供給過剰を無視した判断に抗議」を発表
外務省がバングラデシュのマタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業フェーズ2のフィージビリティ調査を支援するために、国際協力機構(JICA)による協力準備調査の実施を決定したことを受け、当センターを含む環境NGOが以下の共同声明を発表しました。
2020年6月22日
緊急声明:外務省がバングラデシュ・マタバリ石炭火力フェーズ2の事前調査を決定~気候危機や電力供給過剰を無視した判断に抗議
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
国際環境NGO 350.org Japan
外務省がバングラデシュのマタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業フェーズ2のフィージビリティ調査を支援するために、国際協力機構(JICA)による協力準備調査の実施を決定していたことが明らかとなりました*1。私たち環境NGOは、これまでにも公的支援を止めるように求めてきましたが、今回改めて、以下の理由から、本決定に対して遺憾の意を表明するとともに、この決定の撤回を求めます。
1. 日本政府の「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(2019年6月閣議決定)」では、「海外におけるエネルギーインフラ輸出を、パリ協定の長期目標と整合的に世界のCO2排出削減に貢献するために推進していく」としています。フェーズ2は新規に石炭火力発電所を建設する事業ですが、パリ協定の長期目標と整合的であるとする根拠が示されていません。
2. 日本政府のエネルギー基本計画(2018年7月閣議決定)では「エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り(支援を行う)」としています。しかし、バングラデシュにおいては、石炭火力発電よりも太陽光発電の建設コストの方が安く、本事業が経済的に妥当だとする根拠が示されていません。
3. バングラデシュの電力エネルギー資源鉱物省の報告書「Revisiting PSMP 2016(2018年11月発表)*2」によれば、今後、供給予備率は最大で69%になることが想定されており、想定供給予備率は目標供給予備率を2041年まで一貫して上回っていることから、当面、新規の大規模発電所を建設するニーズは低いにも関わらず、本事業の必要性・妥当性を示す根拠が示されていません。
4. JICA環境社会配慮ガイドラインでは「補償は、可能な限り再取得価格に基づき、事前に行われなければならない。相手国等は、移転住民が以前の生活水準や収入機会、生産水準において改善又は少なくとも回復できるように努めなければならない」としています。しかし、現在、JICAが支援中の同発電所のフェーズ1事業では、補償支払の遅延や代替住宅提供の遅延などにより、この要件を満たしていません。また、灌漑用水路や水門の破壊に伴う浸水害の悪化、コミュニティ道路の破損、交通事故の増加、河川への土砂流入・堆積の問題が生じ、地元住民の生活に多大な負の影響を及ぼしています。地元住民はこれらの問題解決を実施機関及びJICAに繰り返し求めてきましたが、改善のスピードは極めて遅い状況です。フェーズ2ではフェーズ1で収用した土地を利用することになるため、ガイドラインの要件を満たしていることが必要ですが、その根拠は示されていません。
外務省は必要性・妥当性等の問題について、第50回開発協力適正会議の中で、協力準備調査の中で確認していくと回答しています*3。しかし、個別案件のフィージビリティを確認する前に一定の根拠は示されるべきであり、限られたODA予算の中で、より妥当性・実現性の高い事業に調査予算が振り向けられるべきです。したがって、マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業フェーズ2のJICAによる協力準備調査は行うべきではないと考えます。
また、今般、日本政府のいわゆる「石炭火力輸出4要件」に係る見直し議論が関係省庁間で行なわれている最中に新たな石炭火力発電所の建設に繋がる公的援助が決定されたことは、同議論を形骸化させるものであり、強く抗議します。
本件に関する連絡先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝
tanabe@jacses.org
*1: 6月19日に外務省に確認済
*2: Revisiting PSMP 2016 (PDF)
*3: 第50回開発協力適正会議