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JACSES ブリーフィング・ペーパー・シリーズ
持続可能な開発と国際援助 No.2(1995年8-9月号)

多国間開発銀行(MDB)に関する
ドナー国の責任と政策決定システム
アメリカにおける取り組みの事例を中心に

発行:「環境・持続社会」研究センター


 多国間開発銀行(Multilateral Development Bank: 以下MDB)の改革をめぐるこの数年間の議論のなかで、重要な焦点のひとつとなっているのが、意思決定の透明性やアカウンタビリティー(公に対する責任、信頼)の問題である。
 世界銀行をはじめとするMDBでは、総務会が最高の意思決定機関とされている。しかし実際には、いくつかの例外を除いて、各加盟国の総務は権限をその国の代表理事に委任することができることになっている。注1したがってMDBの業務の方向性、政策、個々のプロジェクトへの融資承認などの実質的な意思決定は、理事会にすべてゆだねられている、といってもよい。
 MDBの理事会は通常、加盟国の出資比率によって投票権の重さが決められている。したがって、アメリカや日本といった出資額でトップの位置を占める国の理事がどのような意思表明と投票行動を行うかが、世界銀行(以下、世銀)やアジア開発銀行の援助の方向性や融資プロジェクトの「質」を大きく左右することになる。注2つまり、MDBの意思決定の透明性やアカウンタビリティーのあり方は、ドナー国(拠出国)自身の政策、意思決定の透明性、市民の参加などと密接に関連している問題でもある。

 ドナ−国においてMDBに関する政策はどのように決定されているのか。ドナー国としてのアカウンタビリティーを維持するために、代表理事や担当政府機関の責任と義務がどのように法的に規定されているのか。さらに議会やNGOがどのような役割を果たしているのか。
 本号では、世銀の最大出資国であり、MDBの改革に積極的な立場をとるアメリカを事例として、ドナ−国の政策決定システムとそれを支持する法的措置を紹介する。

I. MDB改革に向けたアメリカ連邦議会の
取組みと法的措置

 アメリカの連邦議会がMDBの貸付と政策について本格的に注意を向けるようになったのは、1980年代に入ってからである。注3 この頃、世銀の援助受け入れ国で起きつつある重大な環境被害や社会経済的な問題が、連邦議会の公聴会を通じてつぎつぎと明るみに出された。特に環境NGO(非政府組織)や専門家は、援助対象国のNGOや住民とのネットワーク、あるいは自らの調査活動を通じて得た具体的な情報と専門的な分析に基づいた証言を行い、当時の議会に大きなショックを与えた。
 そのなかで最も象徴的な例が、≪ポロノロエステ・プロジェクト≫というブラジル北西部の開発計画に関するものである。注41983年の下院「国際開発機関小委員会」での公聴会に端を切った証言の数々は、世銀の融資・貸付のありかたをめぐり、アメリカ連邦議会で大きな議論を巻き起こした。このプロジェクトへの貸付を疑問視する声がアメリカ議員の間に高まり、世銀に対する国際的なキャンペーンにもつながった。そして1986年3月、世銀はついにこのプロジェクトへの融資の停止に踏み切った。注5

 アメリカ連邦議会での公聴会と審議は、単に特定のプロジェクトの問題にとどまらない。貸付業務に関わる基本的な政策――環境、情報公開、強制移転などの問題をさまざまな角度から検討し、MDBに対してのアメリカの資金拠出が果たして妥当であるかどうか、つまり国民の税金が妥当な目的の下に正しく使われているかどうかが検討される。

  1. 多国間開発銀行に関連する委員会とその役割
 アメリカ連邦議会でのMDBに関する審議は、おもに承認委員会(authorizing committees )と歳出委員会( appropriating committees)の2種類の委員会のもとで行われる。
 承認委員会としては上院は「外交委員会」、下院は「銀行・都市問題委員会」の下の「国際開発・金融・貿易・通貨政策小委員会」がそれに該当する。これら二つの委員会は、MDBの活動へのアメリカの参加と年度ごとの歳出を承認する法の立法を担当する。一方、MDBに対する歳出の審議は、上院と下院ともに「歳出委員会」の下の「海外活動・輸出金融および関連プログラム小委員会」が担当する。

 これまで連邦議会で採決、承認されてきたMDBに関する法律、立法措置の種類は、おもに以下の三つに大別される。
1)MDBに対するアメリカ政府の基本的姿勢と政策ガイドライン
2)実際にMDBの業務、政策決定にかかわるアメリカ代表理事や財務省の義務と役割
3)MDBへの拠出の際の条件、あるいは拠出そのものの中止
 たとえば1)の政策ガイドラインについては、1988年の「海外活動・輸出金融および関連プログラム 歳出法」には以下のように政策が明文化されている。「米国の援助の目的は自然資源の持続可能な利用、環境、パブリック・ヘルス、途上国の先住民族の人々の地位の保護を促進することである」。
 代表理事や財務省の義務を規定した法律については、たとえば1993年の「国際開発および債務救済法」では、以下のことを財務省長官が理事に対して指示することを要求している。「彼、あるいは彼女の発言権と投票を行使し、世銀がプロジェクト実施における住民、NGOの参加促進、プロジェクト評価の基準の改善、債務削減などの改善措置を実行するよう促すこと」注6 。 

2. アメリカ連邦議会における取組みの歴史
(Statement of Bruce Rich before the House Committee on Banking and Financial Services, Subcommittee on Domestic and International Monetary Policy concerning the World Bank: Effectiveness and Needed Reforms, March 27, 1995より)

   以下に、アメリカの議会においてMDB関連の立法措置がどのような経緯で策定されるに至ったかを簡単に紹介する。連邦議会下院「銀行金融サービス委員会」のもとの「国内および国際金融政策小委員会」の公聴会(1995年3月開催)における、ブルース・リッチ氏(環境防衛基金)の証言の一部を抜粋・要約した。注7

1)連邦議会による19項目の勧告
 1983 年に至るまでまで、世界銀行やその他の多国間開発銀行(MDB)の融資が環境に与える影響を、連邦議会が綿密に調査、吟味したことはなかった。また、不当な扱いを受けたり貧困な状況にある人々─例えば先住民族や部族民─に対してMDBの融資プロジェクトが与えている社会的影響についてはほとんど注目されなかった。
 たとえば、1983 年から84 年にかけて「国内および国際金融政策小委員会」 は、MDBによるプロジェクトの環境、先住民族、そしてパブリック・ヘルスに対する影響に関し、5回の公聴会を開いた。これらの公聴会において、他の環境保護団体の代表とともに私も証言をした。「銀行委員会」は公聴会における証言を財務省に伝え、MDBからの回答を得るよう要求した。また、委員会は数ヵ月間に渡り特別スタッフを登用し、全部で約1000 ペ─ジに及ぶMDBの回答を再検討し、すべての証言やMDB側の反論に対する評価をもとに政策勧告を策定した。19 項目に渡る勧告は、1984 年12 月末に「銀行委員会レポ─ト」として公けに発表された。

 ここ数年間、世銀が環境に対する姿勢の変化として何があったかとするならば、その多くがまずこの19項目の勧告の中に認められる。しかし不幸なことに、その後10 年間、立法措置や公聴会が繰り返し行われたにもかかわらず、主要な勧告の中にはいまだ適切に実行されたとは言い難いものもある。  19項目の勧告のうち最初の二つの勧告は、MDBによるプロジェクトの環境に対する姿勢や影響を調査するようレ─ガン政権下の財務省に要求するものであった。そしてこれらは比較的すばやく実行された。
 勧告の第3と第4は、米州開発銀行 およびアフリカ開発銀行に、環境コーディネーターのポジションを設けることを要求したものである。これは数年を経て実現した。5番目の勧告は、世銀の中の6つの地域部局それぞれに環境に関する専門スタッフを配置するよう要求するもので、これは1987 年に実現した。
 別の勧告では、「強力かつ効果的な環境プログラムを促進するために」、MDBにおいて「リー ダーシップ的役割」を果たすよう財務省に対して要求した。財務省は、確かに他の国との比較の 範囲ではリーダーシップを発揮したが、しかしその成果のほどは何とも言い難いものであった。

   そのほか、プロジェクトへのコミュニティ−の参加を高めるために、NGOや地域組織 、影響を受ける人々の参加を進めることを世銀やその他のMDBに対して求める勧告もなされた。
 実際のところ、1983 年から84 年にかけてのこれらの公聴会の後も、世銀のプロジェクトが引き起こしている環境や社会への悪影響に対する、途上国の地元住民や国際的NGO のグル─プからの反対や抗議を、世銀はまったく無視し続けていた。

   1985 年に入ってはじめて、上院の「歳出委員会・海外活動小委員会」の当時の共和党議長が、個人的にではあるが、ある特定のケース─―つまりいまや悪名高い、北西ブラジルの≪ポロノロエステ・プロジェクト≫に関し、財務省と世銀総裁に対する世銀業務の責任の欠如を非難した。その結果、世銀側はその計画の実行に関する批判に対し、より真剣に対処せざるをえないことを感じ始めた。
 当時、我々には以下のことがきわめて明らかであった。つまり、世銀に対する資金供与に関して連邦議会がそれとなしに与える警告が、≪ポロノロエステ≫のような特定のプロジェクトについての批判に対する世銀の意識・注意を高めるうえで、重要な原動力になるということである。

2)財務省の法的責任
 1985 年の秋、MDBに関する最初の法的措置が通過した。それは、世銀とその他のMDBにおいて多くの環境的および組織的改革を促進するよう、財務省に対し指導するものであった。その法的措置はまた、この小委員会による19 の勧告にあったものと同様の改革を押し進めるものであり、このなかには世銀や他のMDBに環境分野の専門的トレ─ニングを受けたスタッフを増員させるという取り組みも含まれていた。この法的措置は1986 年にさらに強化された。しかし、どちらの法律もその年度のみに有効な歳出決議であり、したがって拘束力は弱いものであった。

 1986 年の法的措置は財務省の義務として、「専門的なトレ─ニングを受けたすべてのスタッフが、プロジェクト計画や国別プログラム活動の中に環境と天然資源に対する配慮を組み込むような、キャリアやその他の組織的インセンティブをつくる」ことに取り組むよう、世銀やその他のMDBに対してはたらきかけることを要求した。
 また同年の法的措置には、アメリカ政府が世銀のエネルギ─融資の分析において「最小限コスト経済分析」(Least-Cost Economic Analysis) の導入を促進することが義務づけられた。これは(MDBに対する資金供与に関して)アメリカ政府に定められたいくつかの義務のうち、その最初のものであった。

3)早期警報システムの設立
 1987 年、環境とMDBに関する立法上の事実認定と理事その他関連機関に対する指令の多くを体系化する、法的な強制力をもった法案が初めて下院の「銀行委員会」から提出された。8  この立法措置はさらに、いわゆる≪早期警報システム(Early Warning System)≫の設立を謳っている。これは、将来実施可能性のあるMDBの貸付に関して「そのような貸付が実質的にはネガティブな影響をもたらすということを信じるに足る理由がある場合」、アメリカ大使館、米国国際開発庁(USAID)、国務省、財務省およびその他の関連機関が、その貸付内容について調査と検討を行い、情報を一般に公開することを規定したものである。注9

4)理事の責任規定:ペロシ条項の発効
 1989 年の「国際開発融資法」には、MDBに対する連邦議会による監視のあり方に関する重要な新機軸が含まれていた。注10それはこの法の第521項であり、この修正条項を提案した議員ペロシ氏の名前にちなみ、別名≪ペロシ条項≫として知られている規定である。
 この条項は、プロジェクト貸付/融資承認のための理事会の120 日前までに、そのプロジェクトの環境影響評価(EIA)が準備され、なおかつMDBsの理事に提出されない場合、提案されたプロジェクトに対してアメリカの理事が承認の票を投じることを禁止したものである。
 この規定はまた、MDBが実施した環境影響評価を借り手国側の一般市民が入手できることを、アメリカのMDB理事が推進するように指示している。≪ペロシ条項≫は1991 年12 月19 日に正式に発効された。これによって世銀の環境影響評価政策を強化し、他のMDBにおける同様の政策の採用を促す結果となった。

   1993 年と94 年に、この小委員会は再び、世銀の業務に対する監視に率先して取り組んだ。小委員会は国際開発協会(IDA)の第10 増資(IDA10)への3年に渡る拠出を初めて拒否した。そのかわりに、IDA10 の1994 年度と95 年度の2年間に対しての拠出を認めるが、一方で1996年度に新たな拠出承認を必要とすることを求める法的措置を報告した。
 小委員会のレポ─トによれば、1996 年度の拠出承認の決定はひとえに世銀が二つの改革措置を十分満足いくようなかたちで実行するか否かにある、とされている。その改革とは1)よりオープンな情報公開政策の確立、そして2)プロジェクトの政策や手続き上の過ちを調査する「独立調査パネル」の設立である。
 こうした要求が重要な要因となって、世銀がこれら二つの改革をより時宜にかなった、しかも実質的な方法で実行したことは疑いの余地はなかった。しかしこの小委員会が指摘したように「世銀が採択した方法は曖昧なものであり、こうした政策がどのように実施されるかについても明らかではない」。

   以上のような経験を踏まえて、二つのことが明らかになった。
それは1)世銀とその他のMDBにおいて改革が行われるようにするために、下院の銀行委員会とこの小委員会が重要な役割を果たすこと;2)財務省による一連の取組みに対する監視を続け、指導を強化することが必要である、ということである。

  II. 多国間援助に関する省庁間協議と
早期警報システム

1. 多国間援助に関する省庁間協議
 MDBのプロジェクトや政策についてのアメリカ政府の立場は財務省が最終的な決断を下し、アメリカ代表理事を通じて表明される。その財務省の政策は≪多国間援助に関するワーキンググループ≫(Working Group on Multilateral Aid: WGMA)からの勧告に基づいて決定される。
 このWGMAは、財務省が議長を務め、国務省、国際開発庁(USAID)、環境保護庁(EPA)、商務省、貿易運輸省などが参加している。メンバーは2週間後に理事会での承認がはかられることが予定されているMDBプロジェクトの内容を検討する。各省庁の代表者がおのおのの専門的な立場や政策に基づいてプロジェクトに対しての意見を述べ、財務省はこれらを参考にアメリカ政府の 立場を最終的に決定する。

   このシステムは、開発や環境などの分野の専門スタッフを有していない財務省が、その他の省 庁との相談を通じて、総合的な視点から政策の決断を下すことを目的としている。

2. MDBプロジェクトの早期警報システム 
 一方、MDBのプロジェクトにおいて環境、及び社会的配慮がなされているかについてのモニタリングは、「早期警報システム」(Early Warning System) が重要な役割を果たしている。このシステムでは、通称、≪火曜グループ≫(Tuesday Group) と呼ばれる会合が、その中心的役割を果たしている。  会合では多国間開発援助の分野における経験と関心の高いNGOが、政府に対する助言や具体的な提言を行っている。≪火曜グループ≫に参加しているアメリカ政府側関係者は、MDBプロジェクトの妥当性や具体的な問題点に関する情報を得るうえで、この会合が政府にとって非常に有効な会合であると指摘している。NGOにとっては理事会承認に至る前のプロジェクトについて、政府の立場を知る重要な機会である。

   「火曜グループ」のシステム
・ミーティングは毎月第一火曜日にメンバーのNGOのオフィスで開催される。
・通常約30名が参加するが、そのうち約20名がNGOである。政府からの主な出席者はUSAIDのプログラム局および政策調整局、環境保護庁国際局、財務省国際財政局と国務省である。
・出席者は各プロジェクトや全般的な政策に対して意見交換を行う。NGOは援助を受ける国のNGOや影響をこうむる地域の住民、もしくは専門知識のあるNGOからの情報を発表し、政府に対するアドバイスを伝える。また政府側の出席者から、アメリカ政府の立場や意見が発表される。
・このミーティングから得られた情報はWGMAにも伝えられ、アメリカ代表理事が理事会で表明する立場や、理事が問題点として取り上げうるテーマの重要な参考とされる。
 会合の主な議題
・プロジェクトの環境影響評価の必要性(環境に影響を及ぼす可能性が認められる為、環境影響評価を行う必要性があるかどうか)
・プロジェクトに関する書類の内容の問題点(環境影響調査や実行可能性調査の報告など)
・代表理事がプロジェクトに対して反対投票、あるいは棄権の必要があるかどうか
・MDB年次総会や増資交渉に関するアメリカ政府の立場

III. 多国間開発銀行への拠出に関連する
アメリカ合衆国代表理事の義務規定

(Richard Grester, " Accountability of Executive Directors in the Bretton Woods Institutions" より)

   第I章でも紹介したように、アメリカでは、国際金融機関の代表理事が従うべき義務がいくつかの法律によって規定されている。その一部を以下に紹介する。

1、多国間投資保証機関(MIGA)は前ソ連邦に対する投資を保証すること:FSAの発効(1992年10月24日)後60日以内にMIGAの合衆国代表理事はNIS ( newley independent states)内でど の投資がMIGAによって保証されたか、ならびにNIS内の投資としてMIGAが提供した投資保証の 中でどのようなタイプが必要とされているかを分析した報告書を議会に提供すること。

2、余剰商品:輸出用の鉱山資源の採掘や商品の生産に対する援助のうち、以下のいずれかに該当する場合は、合衆国代表理事は意見表明と投票を使用し(棄権もしくは反対投票)反対すること。1)世界市場が余剰の場合、2)援助が合衆国の同様のもしくは競合する商品の生産業者にかなりの損害を与える場合。

3、環境とエネルギー:3月1日までに提出となっている報告書 PL 101-513(省エネルギー、最終用途エネルギー効率、需要削減プログラム、エネルギー・プロジェクトにおける初期の環境影響評価に、環境コストを含めること)に記載されているエネルギーならびに環境イニシアティヴを精力的に進めることと同時に、それぞれのMDBが持続可能なエネルギー開発、森林保全、強制移住、環境影響評価の手続きにおいて達成目標に到達するようはたらきかける。

4、一定の国に対する禁止:この法律下の資金は、次の国々の援助や補償に使用されてはならない。ただし大統領がそのような留保が合衆国の国益に反すると承認する場合は例外とする。キューバ、イラク、リビア、ヴィエトナム、イラン、シリア、北朝鮮、中国、ラオス、ヨルダン、イェメン(大統領はこのような承認を1992年11月4日に与えた)。

5、女性と開発:合衆国代表理事は女性の社会経済的な地位を向上するための10年計画を奨励し策定すること。注11

6、過度の防衛関連支出と政府の腐敗パターン:合衆国代表理事は意見表見と投票を使用し、政府の腐敗が繰り返し起こる国ならびに、軍事と安全保障に過度に資金が割り当てられる国に対する貸付の制限に関する改革を促すようはたらきかけること。注12

7、環境影響評価(EIA) 手続きの改革:財務省は、合衆国政府が EIA の報告書を入手することができ、それゆえ 一般の市民が EIA の報告書や要約を入手できるように、国際金融公社 ( IFC ) のEIA 手続きに関する適切な改革をはかるよう指示されている。注13

IV. 日本の政策決定プロセスとアカウンタビリティー
 以上に紹介したように、アメリカでは議会においてMDBに対する拠出の内容についての検討が行われ、公聴会を通じて一般市民が意見の表明を行い政策決定へ参加するプロセスが開かれている。さらにWGMAに見られるように、省庁間での協議がシステムとして確立されており、外交政策や二国間援助、環境政策など、より包括的な視点に基づいた政策の決定を可能にしている。
 そして最も興味深い点は、政府とNGOの協議がMDBに関する政策決定に非常に大きな影響と成果をもたらしていることを、政府側関係者自身が認めていることである。
 一方、アメリカ以外の主要ドナー国においても、特に近年、政策決定システムをより透明で責任性の高いものにするための、いくつかの注目すべき取り組みが始まっている。

  カナダ議会では外交委員会のもとの「国際金融機関に関する特別小委員会」においてMDBとIMFに関する審議を行う。カナダ政府大蔵省は毎年、ブレトンウッズ体制の各機関に関する報告書を議会に提出する。さらに大蔵省は今年6月、MDBに関する協議を行うため、今後、定期的にNGOとの会合を開く意向を表明した。
 ドイツでは議会の「開発協力に関する委員会」がドイツのMDB代表理事がとるべき行動のガイドラインを作成している。また、スイスでは議会のなかにブレトンウッズ体制に関する小委員会が1992年に設立された。この小委員会はもともとスイスのNGOから出された提案に対して、スイス政府が支持を示すかたちで実現した。スイスではNGOと政府や代表理事の間での会合や対話が定期的に行われている。      アメリカの事例は他のドナ−各国に比べるとかなり先進的であるといえる。それはアメリカが、MDBの最大出資国であるという立場を反映している。アメリカ政府は何よりも、納税者であるアメリカ国民に対して、アカウンタビリティーを示す義務と責任を負っているのである。 
 一方、アメリカと同様に巨額の資金をMDBに拠出している日本の場合はどうだろうか。
 世銀やアジア開発銀行などの国際金融機関に対する資金の拠出や出資に関しては、大蔵省の国際金融局開発機関課が担当している。しかし、MDBへの拠出に際する日本の基本的姿勢、あるいは理事がどのような立場をとるべきかについては、法律による規定が無いばかりか、国会における審議も予算審議において型通りの承認がなされているにすぎない。MDBへの拠出、問題プロジェクトに関してNGOや市民が政府に対して直接、助言したり意見を表明し、政策決定プロセスに参加する機会は、全くといってよいほど開かれていないのが現状である。

   他のドナー国の多くが援助予算を削減する方向に向いている現在、日本の役割と責任はますます高まっている。そうした意味でも、日本の援助に関する意思決定プロセスを市民に開かれたものにすることが、いま早急に取り組まれるべき重要な課題であるといえよう。

    ≪本号の参考資料≫
白鳥正喜『世界銀行グループ』(国際開発ジャーナル社、1993年)
鷲見一夫『世界銀行―開発金融と環境・人権問題』(有斐閣、1993年)
Bruce Rich, Mortgaging the Earth: The World Bank, Environmental Impoverishment, and the Crisis of Development, (Boston, Massachusetts: Beacon Press, 1994)
Environmental Defense Fund,"Statement of Bruce Rich on behalf of Environmental Defense Fund, National Wildlife Federation, Sierra Club, Greenpeace before the House Committee on Banking and Financial Services, Subcommittee on Domestic and International Monetary Policy concerning the World Bank: Effectiveness and Needed Reforms", March 27, 1995.
Richard Grester, " Accountability of Executive Directors in the Bretton Woods Institutions" 、Journal of World Trade, December 1993 (Vol. 27 No.6)

注1) 総務会は各加盟国が任命する総務および総務代理によって構成される。国際復興開発銀行( IBRD)の協定、第5条、第2項aには「すべての権限は総務会にある」と記載されている。日本の場合、通常、総務は大蔵大臣、総務理事は日銀総裁が任命される。
注2) IBRDにおけるアメリカと日本の議決権はそれぞれ17.14%、 6.47%、また IDAにおける両国の議決権は アメリカが15.41%、日本は10.22%である(1994年6月30日現在)。IBRDの理事は24人だが、そのうちアメリカ、日本、ドイツ、イギリス、フランスの上位5位の出資国の理事は各国政府自身によって各1名づつ5名が任命される。その他の国は、グループごとに分かれ、総務によって計19名の理事が選出される。
注3) 1980年代のアメリカ議会での取り組みについては、主にBruce Rich, Mortgaging the Earth: The World Bank, Environmental Impoverishment, and the Crisis of Development ( 巻末参照) を参考にした。
注4) ポロノロエステ・プロジェクトは、ブラジル北西部のロンドニア州のアマゾン熱帯林を切り開き、ハイウェイ(総延長1500キロメートル)や道路などの建設、入植地の開拓などを目的としたもの。道路の建設にともない、数十万人におよぶ大量の入植者がこの地域に流入し、熱帯林の乱伐、先住民保護区への侵入などの環境、社会両面での深刻な問題を引き起こした(参照:Buruce Rich著, Mortgaging The Earth, および 鷲見一夫著『世界銀行:開発金融と環境・人権』)
注5) 公的な国際金融機関が環境への影響を理由に貸付を中止したのは、これが史上はじめてのケースだった。
注6) International Development and Debt Relief Act of 1993, H.R.3036, Report 103-411
注7) 連邦議会の公聴会は、常任委員会とその中の多数の小委員会、特別委員会が、重要法案や重要事項を審議する際に、利害関係者、有識者、行政部の担当者などから意見を聞く。証人の意見は、以後の委員会における審議において、かなり重用視され、証言内容は印刷して一般に配布される。公開が原則だが、国家の安全にかかわる場合などは非公開となることもある(以上、『現代用語の基礎知識』自由国民社参照)。世銀問題についての公聴会では、ブルース・リッチの所属する環境防衛基金のほか、全米野生生物連盟、シエラ・クラブ、世界自然保護基金などの環境保護NGOの代表がしばしば証人として招かれ証言を行い、議会の政策に大きな影響を与えてきた。
注8) H.R. 3750, 1987
注9) Pub. L. No. 100-102. 101 Stat. 1329 (1987) (amending 22 U.S.C.S. 2621. 262 m-m5) at 262m-2(a) (1)
注10) International Development and Finance Act of 1989. Pub. L. No. 101-240. section 521. 103 Stat. 2492. 2508-2509 (amending 22 U.S.C. section 262m-7)
注11)この条項は下院委員会報告書のみに掲載されているので法律的な拘束力は持たないが、下院委員会の要請に応えるべくできるかぎりの努力を行なうべきである。
注12) 上記に同じ
注13) 上記に同じ

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