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JACSES ブリーフィング・ペーパー・シリーズ
持続可能な開発と国際援助 No.5 (1997年ADB福岡総会特別号)

アジア開発銀行(ADB)と日本のアカウンタビリティー:
ドナー各国の取り組み事例と比較して

発行:「環境・持続社会」研究センター

 1997年5月11日より3日間、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)の第30回年次総会が福岡で開催される。ADB設立30周年を迎えた今年の総会は、これまでADBがアジア地域の開発において果たしてきた役割を評価し、今後の展望を協議する場として、ADB自身にとって、また、その活動を監視するNGOにとっても重要な意味を持つ会議となる。
 ADBは過去数年間、審査プロセスの確立(95年12月)、新情報公開政策の策定(95年1月)、分野別では、森林(94年3月)、エネルギー(95年5月)、強制立ち退き(95年11月)に関する政策の策定・改訂を行うなど、改革の努力を重ねてきている。しかし、NGOは、このような取り組みそのものは評価するものの、実施の段階において、政策が必ずしも反映されていないことについて、強い懸念を表明している 。注1

 こうした多国間開発銀行の改革をいかに推進していくかという点で焦点となることのひとつは、日本やアメリカなど、ADBの意思決定に大きな影響力を持つドナー国の役割である。つまり、こうしたドナー国がどのような政策に基づいて多国間開発銀行の活動に関与し、また、自国内でどのように意思決定の透明性・アカウンタビリティー(囲み参照)を確立しているかという問題である。

 ADBにおいては、 総務会が最高意思決定機関とされている。注2 しかし、実際は最重要事項(加盟国の承認/一般増資など)を除いて、その権限のほとんどが各国の代表理事により構成される理事会に委ねられている。従って、ADBの個々のプロジェクトへの資金供与の承認、業務・運営の政策などについての実質的な意思決定は理事会によって行われている。
 理事会では各国の出資額に応じて投票権が多くなる加重投票性が取られており、日本は最大資金拠出国として15.6%の投票権を保有している。また、12人の理事のうち、日本、アメリカなどのトップ・ドナー国は単独で理事を指名できる。さらに、理事会の議長でもある歴代総裁はすべて日本人が就任している。その意味でも日本が行う意思決定が、ADBの援助の方向性や融資プロジェクトの「質」に大きな影響力を持っているわけである。

 しかし、現在のところ、多国間開発銀行における自国の立場を決定するための政府内の調整手続きは、公式にも非公式にも確立されていない。多国間開発銀行に関する意思決定のほとんどは、他の省庁やNGOとの公式の協議がないまま、担当官庁である大蔵省の国際金融局開発機関課が単独で行っている。日本のNGOや一部の国会議員は、このように透明で民主的な意思決定プロセスが確立されていない状況の下では、トップ・ドナーとしてのアカウンタビリティーを確立することは困難であるとして、事態を憂慮している。

 多国間開発銀行の改革に取り組むNGOは、多国間開発銀行に関してドナー国政府が考慮に入れるべきこととして以下の3点を挙げている。まず第1に、政府は多国間開発銀行の活動に関する一般市民による情報アクセスを保証し、NGOとの定期的な協議を行うなど、意思決定の過程をより透明にすること。第2に、多国間開発銀行の活動に対する自国の立場について、政府省庁間の調整・協力体制を改善すること。第3に、自国のODAと他国間開発銀行の政策の整合性を確保するため、多国間開発銀行の政策やプロジェクトに関するモニタリング能力を強化することである。

多国間開発銀行に関するアカウンタビリティーの促進−ドナー各国の取り組み
 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)が1995年から1996年にかけて実施した調査によると、ドナー国は近年、多国間開発銀行の政策・機構改革に対する配慮、関心を高めてきており、いくつかの国ではすでに、そのために国会または議会や援助機関の役割を強化するなど、国内での意思決定を透明にし、多国間開発銀行に関するモニタリングの機能を強化してきた。注3

 例えばアメリカでは過去10年以上に渡り、多国間開発銀行の活動に環境への配慮を取り入れるよう、議会、NGO、政府が率先して取り組み、ドナー国の間で指導的な立場を担ってきた。近年、国際開発協会(IDA)への拠出額を大幅に削減するなどの動きがあるが、それでもなお多国間開発銀行の環境政策や機構改革に重大な影響力を持っている。カナダは、1994年に成立した新外交政策の中で、多国間組織の活動に環境への配慮を融合させることが持続可能な開発という目的を達成する過程でのカナダの目標のひとつである、と明言している。デンマーク、ドイツ、オランダ、イギリスもまた、多国間開発銀行の活動において環境に対する配慮を促進するよう、努力を増しつつある。
 さらに、ノルウェーとスウェーデンも、環境問題を多国間機関との関係における主要な関心事とみなしている。注4 また、NGO報告書である Reality of Aid 1995 によれば、オーストラリア、スイス、その他の数カ国は、多国間開発銀行の活動の透明性を促進することに積極的である。これらの国々は、いくつかの特定の事案に関して、世界銀行の自国の代表理事の投票行動に関する情報を公開している。注5 (表1参照)

表1:各国の国会・NGOに対する政府のアカウンタビリティー
各国政府のアカウンタビリティ
出典:ACTIONAID.1995.The Reality of Aid 1995:An independent review of international aid.London:Earthscan Publications Ltd.1995,pp22-23より一部抜粋
注:BWI=Bretton Woods Institutions:ブレトンウッズ体制

 一方、日本政府は現在までのところ、多国間開発銀行の改革の問題、特に環境政策の実施に関しては公式には沈黙を通してきている。上記JACSESの調査によれば、アメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、オランダ、デンマーク、そして日本の7つのドナー国のうち、多国間開発銀行の活動に環境的配慮を組み込むために、何らの制度的または組織的取り組みを行っていない国は、日本だけである。

 以下、他のドナー国の取り組みについて紹介するとともに、日本における意思決定の透明性とアカウンタビリティーについて検証する。

多国間機関における環境配慮の促進へ向けた主要ドナー国の取り組み

■カナダ
カナダ政府は、1995年に策定された新たな外交政策において多国間の開発機関と金融機関の政策や実践に影響力を及ぼすことを明確に公約した。注6 この新外交政策において指定された多国間開発銀行改革の優先事項は、以下のものである。注7

 二国間ODAを担当するカナダ国際開発庁(CIDA)は、多国間開発銀行を含む多国間組織の政策やその実効性をモニタリングするための情報システムを導入した。CIDAの多国間プログラム局は、環境問題への配慮を含め、カナダにとっての優先順位に照らし、多国間機関の行動を監視し、報告を行っている。
 CIDAの優先事項とは、多国間開発銀行など国際機関の環境アセスメントの実践をより良いものにするための方策を提唱すること、国際機関内の環境問題への対処能力を確立すること、国際機関の意思決定における協議を促進し、透明性、アカウンタビリティーを高めること、などである。
 CIDAは特に、多国間機関の活動のうち、重要ないくつかの側面についてモニタリングしている。たとえば、環境に関する政策、プロジェクト・プログラム・国別のレベルにおける環境分析、環境プロジェクトやプログラムへの融資実績、あるいは環境専門家の人数と能力などである。これらの事項については、CIDA多国間プログラム局の職員が、さまざまな会合への出席、現地訪問、そのほかの記録のレビューなどを通じて監視している。CIDA多国間プログラム局はまた、多国間機関の政策や活動と、カナダのODA政策における6つの優先課題との整合性にも注意を払っている。 注8
 CIDAは日常的に、外交・国際貿易省や大蔵省と、多国間開発銀行の業績に関する協議を持つ。CIDAの多国間プログラム局は、NGOのメンバーととも、多国間開発銀行の環境に関する業績について話し合うために定期的に相互交流を行っている。
 1995年7月には、大蔵省がNGOとの定期的な協議を持つことを公約し、多国間開発銀行に関するカナダの立場を決定する過程にNGOの視点を取り入れることに対して、より積極的になってきている。

■イギリス
 1994年にイギリス政府は「多国間援助評価(MAR: Multilateral Aid Review)」を実施し、その結果、すべての多国間機関および欧州委員会(EC)に対する行動目標が確立された。世界銀行に対するイギリス海外開発庁(UK ODA)の目標のひとつは、世界銀行がプロジェクトにおいて「受益者の参加など、社会および環境の次元に、より注意を払うこと」を支持することである。UK ODAが実施した同国の援助の全体的なレビューである「基本歳出審査(FER: Fundamental Expenditure Review) 」は、持続可能な開発政策と効率性の改善が実行されない限り、国連食料農業機関(FAO)を含む多くの国連機関への貢献を取りやめたり縮小したりするように提言した。注9 多国間ODAはイギリスのODA全体の約半分を占めるため、これらの資金の使い道に対する監視が高まってきている。

■アメリカ合衆国
 アメリカではNGOと連邦議会の双方が、世界銀行やその他の国際金融機関の改革において重要な役割を果たしている。たとえば、1980年代中頃の世界銀行に関する議会の公聴会や、国際開発協会(IDA)の増資に関する議論が、多国間開発銀行内のいくつかの重要な改革をもたらした。
 連邦議会はさらに、多国間開発銀行のアメリカ代表理事の役割など、多国間ODAに関する政府の意思決定を管理するためのさまざまな法制度を導入した。
 その中で最も重要な法律のひとつが、それを提案した議員の名を取って「ペロシ条項(Pelosi Amendment)」と呼ばれる、国際開発融資法に関する修正条項である。このペロシ条項は1991年に発効し、多国間開発銀行に関する米国政府内での意思決定のための省庁間の調整システムを確立した。これによると、多国間開発銀行のプロジェクトで環境に重大な影響を及ぼす可能性のあるものは、理事会によるプロジェクト承認の120日前までに環境影響評価が準備され理事に提出されない場合、そのプロジェクトに対してアメリカ代表理事が承認の票を投じることを禁じている。これによってアメリカ政府は問題あるプロジェクトの承認の機先を制することができる。
 米国国際開発庁(USAID)内につくられた「早期プロジェクト通知システム(EPN)」と呼ばれるメカニズムは、多国間開発銀行のプロジェクトの環境への影響について、拠出が承認される前にできるかぎり最良の情報を提供するための早期警報システムとして、1987年に連邦議会によって導入された。USAID内にはEPN業務の実行を任務とする特別スタッフもおり、多国間開発銀行の予定されるプロジェクトをUSAIDの海外事務所や本部の職員に通知し、目的の逸脱や重複、環境への影響、財政・経済的問題点などがないかどうかをチェックする。USAIDはさらに、多国間開発銀行のプロジェクトの概要とそれらについてどのようにフォローアップしたのかなども含めて、EPNの活動について議会に年次報告を提出することを義務づけられている。
 アメリカではこのほかに、多国間開発銀行の政策やプロジェクトに対するアメリカ政府の立場を調整するために設けられた主要な制度が三つある。
 まず、「多国間援助に関するワーキング・グループ(WGMA)」は財務省が他の政府機関との協議において政府の立場を決めることを義務づけたもので、USAIDや国務省、環境保護庁(EPA)、運輸省、商務省などからの代表者で構成される。WGMAのメンバーは週に一度集まって多国間開発銀行のプロジェクト内容を検討する。財務省はWGMAのメンバーの提言を考慮に入れた上で、多国間開発銀行のアメリカ代表理事に提言すべきことを決定する。この際に焦点となるのは、以下のような事項である。

  1. プロジェクトが環境への影響に関連する分野のものかどうか
  2. 「環境見解書(Environmental Statements)」が適切かつ十分なものかどうか
  3. 提案されたプロジェクトが環境に重大な影響を及ぼすかどうか
  4. 環境や社会への配慮という点から見て、米国は提案されたそのプロジェクトを支持すべきかどうか

 さらに「環境評価部会」という政府省内協議を行う会合があり、これは国務省、USAID、EPAの代表によって構成されている。会合の目的は、世界銀行の 「プロジェクト情報資料(Project Information Documents)」の内容を検討し、環境への配慮に関してコメントすることである。部会のメンバーはさらに、世界銀行の「環境概要(Environmental Summary)」を検討し、環境影響評価(EIA)のより詳細な情報を見ることを要請する必要があるかどうか、環境見解書で見落とされた問題があるかどうか、その他の重大な問題がないかどうかを判断する。問題が特定された場合には、アメリカ政府の意見の中でこれが考慮されるように、財務省とアメリカ代表理事に提出される。WGMAと環境評価部会は並行して機能している。
 3番目の制度としては、政府とNGOの代表による定期的会合(火曜グループ)がある。これは政府・NGOが多国間開発銀行の政策やプロジェクトについて情報交換し、アメリカ政府のとるべき立場について協議することを目的としている。火曜グループの会合は立法上の必須手続きであり、USAIDが他の関連政府機関とNGOに対し、EPNを通じて得た多国間開発銀行に関する情報を提供するための場合としても機能している。このため、USAIDは会合の手配を義務づけられている。通常、参加者の半分以上をNGO代表者が占めており、彼等が独自に得た情報や綿密な分析に基づいた意見を提供する。グループのメンバーは月に一度(第一週の火曜日)集まり、多国間開発銀行の政策から、特定のプロジェクトまでさまざまな問題について話し合う。注10

多国間開発銀行に関する不透明な意思決定と問われる日本政府のアカウンタビリティー

 以上に挙げた他国の事例とは対照的に、日本の場合、多国間開発銀行に関わる意思決定のプロセスは非常に不透明で、国会・市民・NGOに対しての情報公開はほとんど行われていないのが現状である。

 表1に見られるように、オーストラリア、カナダ、ノルウェー、アメリカなどは、IMF/世銀に関する自国の政策を国会または議会へ提出することを義務づけている。一方、日本の場合、多国間開発銀行への出資・拠出に際する日本の基本的姿勢、あるいは個別の政策やプロジェクトについて、代表理事がどのような立場をとるべきかについて、その判断基準を明文化したものはなく、ましてアメリカのような法律による規定はない。日本政府は1992年にODA大綱を閣議決定により定めたが、この大綱が多国間のODAにも適用されるのかどうかは、明らかになっていない。また、各銀行の増資などに関する国会審議も、ほとんどの場合、これまで予算審議において型通りの承認がなされているにすぎない。

 担当省庁である大蔵省の人員体制にも疑問の声が上がっている。同省によると、省内の国際金融局開発機関課の中で、多国間開発銀行に関する業務を担当する職員はわずか15人程度で、世界銀行、ADB、欧州復興開発銀行(EBRD)、アフリカ開発銀行(AfDB)、米州開発銀行(IDB)という5つの多国間開発銀行または国際金融機関をカバーしている(各多国間開発銀行または国際金融機関について2〜3人が担当)。開発機関課には多国間開発銀行の活動に関連した環境、社会政策などを専門に担当するスタッフはいない。一方、アメリカでは、財務省内において多国間開発銀行を担当するスタッフの数は18人程度であるが、環境および持続可能な開発をカバーする専門職員を4人配置し、持続可能な開発に関連する、貸付、政策のレビューを行っている。

 さらに、アメリカやカナダなどとは対照的に、現在のところ日本政府内には多国間開発銀行が出資するプロジェクトを監視するためのシステムは存在せず、二国間ODAを担当する外務省は全く関与していない。外務省、大蔵省、海外経済協力基金(OECF)の間で、多国間開発銀行出資のプロジェクトに関する非公式の協議が時折行われるようだが、それはほとんど、それらのプロジェクトが日本のODAとの協調融資の 場合に限られているようである。

 多国間開発銀行に関する政策やプロジェクトの情報は、大蔵省の独占状態で、NGOや一般市民、そして国会議員や外務省でさえほとんど情報アクセスをもっていない。触れることができない。また、多国間開発銀行への拠出、問題プロジェクトに関して、NGOや市民が政府に対して直接助言したり、意見を表明し、政策決定プロセスに参加する機会はまったくといってよいほど開かれていないのが現状である。

 以上のような大蔵省の閉鎖性に対する批判が高まる中、1996年3月、国会大蔵委員会において同省国際金融局長は、国会議員ならびにNGOとの定期協議を始める意向を示した。これはこれまで大蔵省との対話を求めてきたNGOにとって、非常に大きな第一歩である。
 今後、意思決定プロセスにおける透明性と政府のアカウンタビリティーをいかに確立していくのか。政府、国会、市民の間でのより活発な議論が期待される。

囲み:◇アカウンタビリティー:公の責任

 最近、アカウンタビリティーという言葉がよく聞かれる。政府と国民との関係から言うと、主権者である国民から予算執行などの国政運営を信託された政府は、その活動内容や判断理由を国民に説明、釈明する責務があるという意味がある。情報の透明性やアカウンタビリティーを徹底させることは、多国間開発銀行の問題に限らず、行政上のあらゆる方面においての共通の課題といえる。
 例えば、政府開発援助(ODA)。国際協力のためにあるべきはずの援助が、結果的に、大規模プロジェクトに向けられることにより、人権侵害や環境破壊をもたらしたり、受け入れ国の債務超過により貧困を助長するなどの悪影響を及ぼしているという問題点が指摘されてきている。公的資金が使われるODAに対して国民は、納税者として税金の使途を追及する権利がある。ODA供与の基本原則となる「ODA基本法」の制定も含め、ODAに関する政策決定のプロセスをチェックし、国民の理解と合意を得るための途が開かれるべきであろう。
 また、国内の公共事業(典型的な事業としてのダム建設について別紙を参照)についても同様の問題が見受けられる。今回、ADB総会が開催される福岡では、博多湾東部海岸に人工島埋立工事が進められている。この計画に対しては、国際的に重要な渡り鳥の渡来地の破棄などの環境問題、連動する乱開発などの問題が指摘され、既に市民からの環境保全のための工事中止運動とともに、人工島予定海域周辺の環境管理計画の作定を求める運動が展開されている。人工島計画の政策策定の段階からの地域住民の参加は、依然残る課題であるが、目下、市民側から提出されている代替案の実現のための、官民一体となったプロセスを確立させる作業が急務となっている。
 環境に関していえば、国の環境影響評価(アセスメント)制度が法制化される。経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち唯一、国レベルのアセスメント法を持たなかった日本にとっては大きな前進といえるが、実施段階での課題は山積みである。今年度中には「情報公開法案」の国会提出も予定されている。このような制度は、常に国民が政府の行動を監視できるような透明性を保つことが不可欠である。

提 言

 日本の多国間開発銀行への拠出に関し、より透明な意思決定プロセスと政府のアカウンタビリティーの向上を促すためには、今後、政府、国会、市民の幅広い参加の下に活発な議論が必要となるだろう。たとえば以下のような点について、具体的検討が必要であろう。

  1. 市民・NGOに対する情報の公開と国会への報告。最低限、公開されるべき情報としては、多国間開発銀行に関する日本政府の基本政策、これから理事会にかけられるプロジェクトの情報と日本政府の立場、あるいは理事の投票行動結果などが挙げられる。
  2. アメリカの火曜グループなどの例にあるように、大蔵省とその他政府の関連省庁、ならびに専門家・NGOとの間での意見・情報交換を行うための定期的な会合を設定すること。
  3. 多国間開発銀行への拠出に関し、日本政府の基本的な立場(たとえば人権・環境等への配慮)を明文化し、一般に公開すること。
  4. 長期的には、法制度面の整備・強化(ODA基本法、あるいは多国間開発援助関連法など)などを通じ、多国間開発銀行や二国間ODAに関するチェック機能を確立すること。

注1)例えば、95年に改訂されたエネルギー政策において、ADBは、需要抑制(DSM:Demand Side Management)を強調し、供給側の効率性と需要側の管理双方を満たしてることを条件付けている。しかし、オーストラリアのNGOであるAID/WATCHの調査によると、95年から96年にかけてのエネルギー分野への貸付状況は、再生可能エネルギーその他DSM関連分野へは移行しておらず、新エネルギー政策と貸付の実態には大きな隔たりがあることが明らかになっている。
注2)ADBは総務会、理事会、総裁、副総裁3名、各部局長、その他職員から成り立つ。総務会はADBの最高意思決定機関であり、加盟国から総裁および総務代理を1名づつ指名することになっている。通常、日本では大蔵大臣が総務、日本銀行総裁が総務代理となっている。
注3)「環境・持続社会」研究センター『ODAにおける環境配慮と持続可能な開発―地球サミット以降の主要援助国7ヵ国における取り組み』(1996年)、第2章2.7を参照。
注4)OECD/DAC Working Party on Development Assistance and Environment. October 1995. Survey of DAC Membersユ Activities in Support of Environmental Goals : Pilot Study. Paris: OECD.p28
注5)ACTIONAID. 1995. The Reality of Aid 1995: An independent review of international aid. London: Earthscan Publications Ltd. 1995, PP22-23。
注6)Government of Canada. 1995. Canada in the World. Ottawa。
注7)Government of Canada. 1995. Canada in the World. Ottawa.p44 。
注8)CIDAの6つの優先課題は1995年2月に策定されたカナダの新外交政策「Canada in the World」において確立された。これらは、1)ベーシック・ヒューマン・ニーズ、2)開発と女性(WID)、3)インフラ整備に関するサービス、4)人権、民主主義、良い行政制度、5)民間部門の開発、6)環境、である。
注9)Chakrabarti, Suma, Roger Wilson, and Peter Rundell. July 1995. ODA Fundamental Expenditure Review. Main Report. A report to the Secretary of State for Foreign and Commonwealth Affairs, the Chief Secretary to the Treasury and the Minister for Overseas Development.
注10)火曜グループの詳細に関しては、JACSESブリーフィング・ペーパー・シリーズ「持続可能な開発と国際援助」No.2(1995年8-9月号)6ページを参照。

今号の参考資料
ACTIONAID. 1995. The Reality of Aid 1995: An independent review of international aid. London: Earthscan Publications Ltd.
ANGOC.1995. The NGO Campaign on the Asian Development Bank.
Chakrabarti, Suma, Roger Wilson, and Peter Rundell. July 1995. ODA Fundamental Expenditure Review. Main Report. A report to the Secretary of State for Foreign and Commonwealth Affairs, the Chief Secretary to the Treasury and the Minister for Overseas Development.
Government of Canada. 1995. Canada in the World. Ottawa.
OECD/DAC Working Party on Development Assistance and Environment. October 1995. Survey of DAC Members Activities in Support of Environmental Goals : Pilot Study. Paris: OECD.
「環境・持続社会」研究センター『ODAにおける環境配慮と持続可能な開発―地球サミット以降の主要援助国7ヵ国における取り組み』(1996年)

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