プレスリリース「化石燃料への保険引受方針等に関する世界の保険会社ランキング2023と Insure Our Futureの日本専用ウェブサイトを発表」
2023年11月9日
プレスリリース
化石燃料への保険引受方針等に関する世界の保険会社ランキング2023と
Insure Our Futureの日本専用ウェブサイトを発表
~日本の保険会社間ではMS&ADが方針改定するもSOMPOを超えず~
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Insure Our Future
環境NGOの国際ネットワーク「Insure Our Futureキャンペーン(※1)」が世界の大手保険会社30社の化石燃料事業への保険引受等に関するランキング(PDF)(※2)を発表した。今年のランキングでは、気候変動への対策が急がれる中、いまだにパリ協定の1.5度目標と整合する方針を掲げる保険会社はおらず、気候の緊急事態に対する保険業界の対応は全く不十分であるとして、初めて上位3社までを該当なしとした。4位はアリアンツ(仏)、5位はゼネラリ(伊)、6位はアビバ(英)である。日本の大手損害保険会社では、SOMPOが19位、東京海上が20位、MS&ADが20位となり、SOMPOは引き続きリードを保つ結果となった。
今年は、保険引受の停止対象を石炭関連事業のみならず、石油・ガス事業に拡大する保険会社が増加した。昨年度のスコアカード発表以来、石油・ガス事業への保険引受を制限する方針を設ける世界の保険会社は14社から18社に増加し、これらは元受保険市場の19.6%、再保険市場の46.7%を占める。
日本では、2023年5月にMS&ADが、オイルサンド採掘・北極圏でのエネルギー採掘事業に関する新規取引停止及び、石炭事業を主業とする企業(※3)のエネルギー採掘プロジェクトに関する新規の保険引受停止を発表した。しかし、この方針には石炭事業を主業とする企業の輸送や発電などの事業は含まれておらず、また、企業単位でオイルサンド等の保険引受を制限する方針も入っていなかったため、SOMPOのスコアを上回らなかった。なお、本ランキングでは石炭事業を主業とする企業の定義について、20%のしきい値を基準としており、このしきい値に達しない場合は十分に有効な方針とは言えないため、スコアに反映されていない(※4)。
日本の損害保険会社の石油・ガス事業の方針については、オイルサンド採掘や北極圏における石油・ガス採掘事業等、世界の化石燃料事業の規模から考えれば非常に限定的であり、包括的な石油・ガス事業の引受停止には至っていない。世界では、アビバ、ジェネラリ、ハノーバー再保険等6社が、例外規定なしに石油・ガスの採掘事業への新規保険引受の停止を表明しており、ハノーバー再保険については石油・ガスの採掘事業のみならず、輸送などのインフラ事業に関しても新規の保険引受を停止する方針を設けている。
東京海上・SOMPO・MS&ADは、保険業界における2050年までの温室効果ガス排出ネットゼロを目指す国連主導の国際イニシアチブであるNZIA加盟時に、保険・再保険引受ポートフォリオの排出量ネットゼロ達成に向けた中期目標を2023年7月末までに公開することが求められていたが、今年春米国で反ESG運動が加速したことを受け、5月にNZIAを脱退し、いまだに3社は自社の保険引受ポートフォリオにおける排出量の削減目標を公開していない。仏大手のアクサも5月にNZIAを脱退したが、その後、「2021年を基準年として、2030年までにアクサの商業保険の大口顧客の絶対炭素排出量を30%削減する」等、2030年目途とした具体的な保険引受ポートフォリオの中期目標を発表している(※5)。また、独大手のアリアンツも「2030年までに商業保険のGHG排出原単位を45%削減する」等の中期目標を発表している(※6)。東京海上日動は9月に中期目標を発表したが、エンゲージメント目標に留まり、最も重要なGHG削減目標の設定を避ける結果となった(※7)。
東京海上・SOMPO・MS&ADは、石炭事業を主業とする企業からの撤退方針の策定と強化、包括的な石油・ガス事業の引受停止方針の作成、保険引受ポートフォリオにおけるGHG削減量の目標設定を早急に行うべきである。
なお、本日、新たに開設されたInsure Our Futureの日本専用ウェブサイトでは、損害保険業界と気候変動の関わりや、日本の三大損保の保険引受方針の問題点について、一般の読者向けにわかりやすく解説したものとなっている(※8)。
注:
※1:本キャンペーンは保険会社に対して化石燃料関連事業への引受や投融資を停止するよう求める国際キャンペーンで、2017年より毎年ランキングを発表している。JACSES、350.org、The Sunrise Projectを含む、約25の市民団体が参加している。
※2:日本語版は、以下URLからダウンロード可
http://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2023/11/4792565e569abff408a4e38978460d86.pdf
※3:収入の25%以上を石炭火力発電、主に一般炭を産出する鉱山から得ている企業、または25%以上のエネルギーを石炭で発電している企業を指す。以下を参照。https://www.ms-ad-hd.com/ja/csr/summary/materiality.html
※4:ドイツの環境NGOウルゲバルトは、30%のしきい値では実際に石炭事業を拡大している企業の半数程度しかカバーしないため、石炭事業に関与する企業のデータベース『Global Coal Exit List(GCEL)』の対象企業になるしきい値を30%から20%に厳格化している。詳細は以下のURLを参照。https://www.coalexit.org/methodology
※5:https://www-axa-com.cdn.axa-contento-118412.eu/www-axa-com/6caad3e0-bf63-48b5-a3c4-78c904b26fbb_axa_climate_and_biodiversity_report_2023_va.pdf
※6:https://www.allianz.com/en/press/news/commitment/environment/230907_Allianz-announces-first-net-zero-transition-plan-with-2030-intermediate-targets-for-core-business-segments.html
※7:http://jacses.org/2239/
※8:https://japan.insure-our-future.com
本件に関するお問合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org