国際協力銀行による豪ガス採掘大手ウッドサイド社への融資決定に対する抗議声明
2024年5月31日
国際協力銀行による豪ガス採掘大手ウッドサイド社への融資決定に対する抗議声明
〜G7エルマウ宣言以降の化石燃料事業への融資総額が4,300億円以上に〜
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
気候ネットワーク
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Market Forces
Solutions for Climate Australia
国際協力銀行(JBIC)は、西オーストラリア州ピルバラ地域の北西部沖合で計画されているスカボロガス田開発事業への支援として、オーストラリアのガス採掘大手企業であるWoodside Energy Group Ltd(ウッドサイド社)の子会社への融資契約締結を5月30日に発表しました(※1)。この融資契約締結の発表を受けて、私たち環境NGOはJBICの決定に厳重に抗議するとともに、融資決定の撤回を要請します。
問題1:JBICの融資はパリ協定1.5℃目標に不整合な上、ウッドサイド社の株主の意向に逆行しており、健全な民間企業統治を阻害している
国際エネルギー機関(IEA)は2023年の報告書「Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach」(※2)で、2050年までに温室効果ガス排出のネットゼロを達成するには、新規の化石燃料採掘を行う余地はないとの2021年報告書の結論を再び示しました。したがって、スカボロガス田開発事業はパリ協定1.5℃目標に整合しません。ウッドサイド社は2024年4月24日に行われた株主総会にて、同社が作成した気候移行計画が不十分であるとして、株主の58%から反対票を投じられました(※3)。特に同社の新規ガス田開発はパリ協定に沿ったものではないとの批判を大手年金基金から受けています(※4)したがって、株主が反対しているウッドサイド社のガス拡張戦略を可能にするJBICの融資決定は、同社の株主の意向に逆行しており、健全な民間企業統治を阻害しています。
問題2:JBICの融資はG7エルマウ宣言のコミットメントに違反している
日本政府がコミットしているG7エルマウ宣言では、「各国が明確に規定する、地球温暖化に関する摂氏1.5度目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了にコミットする」(※5)と記載されており、例外条項を本案件に適用するにあたっては、支援対象国であるオーストラリアのエネルギー政策が1.5℃目標と整合している必要があります。しかし、各国の気候対策を分析しているClimate Action Trackerによると、オーストラリア政府の方針は1.5℃目標に整合しておらず(※6)、JBICによる本案件への支援はG7エルマウ宣言に違反します。
なお、JBICはスカボロガス田開発事業に関して2024年3月26日にも日本の大手電力会社であるJERAとの融資契約を締結しています。また、今回のウッドサイド社への融資を含めると、2023年以降、6件の化石燃料事業に融資決定しており、その融資契約の総額は日本円相当で4,300億円を超えています。
問題3:影響を受ける先住民族の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」が確保されておらず、JBICガイドラインに違反している
スカボロガス田開発事業では、影響を受ける先住民族のFPICが確保されていません。ピルバラ地域の伝統的土地所有者の一人であるRaelene Cooper氏は、オーストラリア国家海洋石油安全環境管理庁(NOPSEMA)が地層探査を許可したことは違法であるとし、2023年8月17日にNOPSEMAとウッドサイド社をオーストラリア連邦裁判所に提訴しました(※7)。2023年9月28日にCooper氏の勝訴が決定し、地層探査の許認可は取り下げられました(※8)。一方、ウッドサイド社は2023年10月19日に再度、地層探査のEnvironmental Plan(EP)をNOPSEMAに提出し(※9)、同申請は2023年12月1日にNOPSEMAによって許可されました(※10)。
しかし、Cooper氏は、2023年9月28日の判決から2023年10月19日の再申請の間に、事業者は一度しかCooper氏との会合を設けておらず、適切な協議がなされていないと指摘しています(※11)。また、2003年に西オーストラリア州政府、西オーストラリア州土地公社、ピルバラ地域の先住民族グループであるMurujuga Aboriginal Corporationとの間で締結された契約(Burrup and Maitland Industrial Estates Agreement)では、Murujuga Aboriginal Corporationが同工業団地(Industrial Estates)内の開発案件に異議申し立てをすることが禁止されており(※12)、影響を受ける先住民族がFPICの可否を選べない状況に置かれています。FPICの確保は、JBICの『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』でも要件となっており、同事業の融資を決定したことは、この規定に反しています。
したがって、JBICはウッドサイド社への融資決定を撤回するよう要請します。
本件に関するご返答・お問合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
田辺有輝/本川絢子
tanabe@jacses.org / honkawa@jacses.org
脚注:
※1: https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2024/press_00023.html
※2:https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-0c-goal-in-reach
※3:https://www.reuters.com/sustainability/climate-energy/woodside-activist-investors-prepare-hotly-contested-climate-battle-agm-2024-04-23/
※4:https://www.theguardian.com/australia-news/2024/apr/22/major-investors-leading-push-against-woodsides-climate-plans-ahead-of-agm
※5:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100376624.pdf
※6:https://climateactiontracker.org/countries/australia/
※7:https://www.edo.org.au/2023/09/14/im-elated-traditional-custodian-granted-injunction-against-woodsides-seismic-testing/
※8:https://www.judgments.fedcourt.gov.au/judgments/Judgments/fca/single/2023/2023fca1158
※9:https://www.abc.net.au/news/2023-11-09/woodside-renews-application-seismic-testing-pilbara/103084128
※10:https://info.nopsema.gov.au/activities/461/show_public
※11:https://www.abc.net.au/news/2023-11-09/woodside-renews-application-seismic-testing-pilbara/103084128
※12:https://www.wa.gov.au/system/files/2019-06/Burrup%20and%20Maitland%20Industrial%20Estates%20Agreement.pdf