要請書「SOMPOに対して新規化石燃料事業の保険引受等を停⽌するようエンゲージメントを行ってください」をSOMPO大株主50機関へ送付
SOMPOの大株主である金融機関50社に要請書「SOMPOに対して新規化石燃料事業の保険引受等を停⽌するようエンゲージメントを行ってください」を送付しました。
2024年8月28日
SOMPOホールディングス株主の皆様
要請書「SOMPOに対して新規化石燃料事業の保険引受等を停⽌するようエンゲージメントを行ってください」
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
Insure Our Future
私たちは、金融機関に対してパリ協定の1.5℃目標との整合化を図り、化石燃料事業への支援を停止するよう働きかけている環境NGOです。気候変動の悪化を止めるためにはパリ協定の1.5℃目標を達成することが不可欠です。そのためには、1.5度目標の経路に整合した移行計画を掲げていない化石燃料セクターの顧客への保険引受を停止する必要があります。銀行が化石燃料事業の融資を停止することに加え、化石燃料のプロジェクトファイナンスを可能にする損害保険会社による保険引受の停止が極めて重要なエネルギー移行の役割を果たすと考えています。そこで、この度、日本の大手損害保険会社であるSOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)の大株主である金融機関50社の皆様に、SOMPOに対して化石燃料事業への保険引受等からの撤退を求めるエンゲージメントをお願いしたく、本要請書をお送りさせて頂きます。
問題1:SOMPOの保険引受方針はパリ協定の1.5度に整合していない
近年、保険引受の停止対象を石炭関連事業のみならず、石油・ガス事業に拡大する保険会社が増加しており、世界の保険会社の18社が石油・ガス事業への新規保険引受を制限する方針を設けています。例えばハノーバー再保険、アリアンツ等、欧州の大手保険会社間では、在来型の石油・ガス事業への保険引受を停止する取り組みが広がり始めています。一方で、SOMPOの石油・ガスの方針は、制限対象がオイルサンド及び北極圏監視評価プログラム(AMAP)地域のみであり、限定的です。
2021年に国際エネルギー機関(IEA)が発表した報告書「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」は、2050年までにネットゼロを達成するためには、新規の化石燃料採掘事業は行うべきではないと指摘しています(※1)。SOMPOの保険引受方針はいまだに多くの新規化石燃料事業への保険引受・投融資の余地を残しており、パリ協定の1.5度目標に整合していません。
問題2:SOMPOは三井住友銀行、ソシエテ・ジェネラル、クレディ・スイス、チャブが既に撤退済みの米国リオ・グランデLNG事業等を含む新規化石燃料事業から撤退していない
SOMPOは、NextDecade社が主導する米国テキサス州のLNG(液化天然ガス)輸出ターミナル事業であるリオ・グランデLNG事業の保険を引き受けたことが判明しています(※2)。リオ・グランデLNGについて、SOMPOは保険契約の更新時に保険を引き受ける可能性を否定しておらず、今後も関与を続ける余地を残しています。リオ・グランデLNG事業の年間ライフサイクルCO2排出量は、石炭火力発電所44基分の1億6,300万トンであると言われています(※3)。リオ・グランデLNG事業では、イーグルフォード及びパーミアン・シェール盆地からガスを供給を受ける予定ですが、パーミアン・シェール盆地からの生産量だけで、世界の炭素予算の10%を使い切る可能性があります(※4)。リオ・グランデLNG事業の事業者であるNextDecade社は、当初、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)の使用により、事業のガス冷却過程におけるCO2排出量を90%削減できると主張していましたが、今年8月にCCS事業の計画を破棄しました。米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、2023年4月にリオ・グランデLNGの建設及び稼働の許認可を承認しましたが、NextDecadeはCCS事業の情報提供を求めるFERCの要請に一年以上回答しておらず、今年8月に現地裁判所は、リオ・グランデLNGの気候への影響を適切に評価していないとして、FERCによる承認を破棄しています(※5)。日本のメガバンクである三井住友銀行は、ソシエテ・ジェネラル、クレディ・スイスとともにリオ・グランデLNG事業からの撤退を表明しています。また、スイスの大手保険会社であるチャブは、保険契約の更新のタイミングであった2024年3月時点で更なる保険引受を行わなかったことが明らかになっています。
また、SOMPOは2012年から2017年の間に、オーストラリアで二酸化炭素排出係数が高い事業であるイクシスLNG事業(フェーズ1)の保険引受も行っており、現在計画されているの拡張事業「2C」についても保険を引き受ける余地を残しています(※6)。また、SOMPOは、ノルウェー海地域で複数の石油・ガス事業を行っているボル・エナジ社の保険を引き受けたことが判明しており(※7)、石油・ガス事業が盛んに行われているノルウェー海でのエネルギー採掘事業の保険を今後も引き受ける余地を残しています。加えて、パプアニューギニアにおける新規ガス事業であるパプアLNG事業についても今後保険引受を行う可能性を残しています(※8)。パプアLNG事業は、化石燃料事業であるという問題に加え、先住民族との「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を取得しておらず、また、原生林伐採により生物多様性に大きな影響を及ぼすリスクがある事業です。
問題3:SOMPOはFPICを含む先住民族の権利を尊重する方針がない
SOMPOには、 先住民族の権利に関する国際連合宣言で求められているFPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意)に関する方針がありません。他方、アクシス・キャピタルは、先住民族の権利に関する国際連合宣言に従い、事業によって影響を受ける先住民族コミュニティとの間でFPICが取得されていない新規事業の保険を今後引き受けないという方針を設けています(※9)。
実際にSOMPOが保険を引き受けているリオ・グランデLNG事業の事業者NextDecadeは、リオ・グランデLNG事業について先住民族との協議会を一度も開催したことがなく、 FPICが取得されていません。リオ・グランデLNG事業の建設地は先住民族カリソ・コメクルード族の聖域であるGarcia Pasture(国家登録歴史遺産)に隣接しており、地中に先住民族の墓地・遺物が存在している可能性があります。先住民族及び現地の市民団体は文化遺産のデータ収集・考古学的調査を実施する必要性を主張していましたが、調査は何も行われずに2023年10月に重機による整地作業が行われました。現地住民・環境NGO・現地自治体は、事業者が適切な環境影響調査を怠っていると主張して、これまで抗議活動や訴訟を起こしてきましたが、今年8月に現地裁判所が事業の建設及び稼働の承認を破棄したことにより、住民側が勝訴しました。(※10)。
現地の先住民族及び市民よるリオ・グランデLNG事業に対する抗議活動の様子
* * *
6月18日、国内外の環境NGO28団体は、SOMPOのCEO奥村幹夫氏に対し、リオ・グランデLNG事業への保険引受停止等を求める要請書を連名で送付しました(※11)。6月24日に開催されたSOMPOの株主総会では、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)のプログラムディレクターの田辺有輝がリオ・グランデLNG事業への同社の更なる保険契約更新の可能性の可否を質問したところ、SOMPOの経営陣からは、個別案件に関する回答は差し控えるとの趣旨の回答がありました。株主総会会場の外では、SOMPOにリオ・グランデLNG事業を含む、新規化石燃料事業への引受停止を求めて、環境NGOによるアクションが行われました。
6月24日SOMPO株主総会でのアクションの様子
したがって、SOMPOの大株主の皆様に対して、SOMPOの保険引受の方針をパリ協定の長期目標と整合的にするために、リオ・グランデLNG事業の保険引受の停止及び、新規化石燃料事業の保険引受を停止することを求めてSOMPOに対してエンゲージメントを行うよう、要請します。
大変お忙しい中、誠に恐縮ではございますが、本要請に対する貴機関の対処方針・ご意見をお聞かせ頂きたく、対話の機会(オンライン会合等)を設けて頂くことは可能でしょうか。下記の担当者宛に9月28日までご都合のよろしい日程を教えて頂けますよう、よろしくお願い申し上げます。また、対話を持つことが難しい場合は書面にて回答して頂くことも可能ですので、ご回答頂けますと幸いです。
本要請書に関するご返答・お問合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org
注
※1:International Energy Agency (IEA), (2021), 「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」, p. 20,
https://iea.blob.core.windows.net/assets/0716bb9a-6138-4918-8023-cb24caa47794/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector.pdf
※2:リオ・グランデLNG事業の概要や問題点については、以下のファクトシートをご参照ください。https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/f3f4587241d5a547e73247c7eea46d96.pdf
※3:https://www.theguardian.com/environment/2023/feb/03/carbon-capture-gas-exports-rio-grande-lng-nextdecade#:~:text=And%20that%20impact%20could%20be,or%20more%20than%2035m%20cars
※4:https://www.sierraclub.org/sites/www.sierraclub.org/files/2022-10/RGV_LNG_2022_FINAL_WEB_0.pdf
※5:https://www.utilitydive.com/news/dc-circuit-appeals-ferc-lng-gas-nextdecade-glenfarne-rio-grande-sierra-club/723544/
※6:https://jacses.org/1961/
※7:https://www.greenpeace.org/static/planet4-norway-stateless/2023/05/29fbf8d4-ensuring-disaster-final-20220523-13-41.pdf
※8:パプアLNG事業の問題点については、以下の報告書をご参照ください。https://fairfinance.jp/media/gbhnaemm/papua_lng0716.pdf
※9:https://www.ran.org/press-releases/axis-capital-becomes-first-north-american-insurer-to-adopt-policy-on-free-prior-and-informed-consent/
※10:https://www.sierraclub.org/press-releases/2024/08/dc-circuit-rules-against-ferc-approval-lng-and-pipeline-projects-south-texas
※11:https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/RGV_-Sompo-Letter-June-2024.pdf
本要請書の送付先金融機関
1. BlackRock Inc
2. JP Morgan Asset Management
3. 野村アセットマネジメント
4. 三井住友トラスト・アセットマネジメント
5. 日興アセットマネジメント
6. Norges Bank
7. 三菱UFJアセットマネジメント
8. Vanguard Group Inc
9. First Eagle Investment Management
10. State Street Corp
11. Goldman Sachs Asset Management
12. 三井住友DSアセットマネジメント
13. Crédit Agricole
14. FMR LLC
15. FIL Ltd
16. Orbis Allan Gray Ltd
17. T Rowe Price Group Inc
18. Teachers Insurance & Annuity Association
19. UBS Asset Management (UK) Ltd.
20. Deutsche Bank AG
21. Charles Schwab Investment Management, Inc.
22. BNP Paribas SA
23. アセットマネジメントOne
24. SPARX Asset Management Co., Ltd.
25. Nordea Bank Abp
26. WisdomTree Inc
27. Dimensional Fund Advisors LP
28. Pictet Asset Management Ltd
29. Geode Capital Management LLC
30. Royal Bank of Canada
31. Principal Assset Management
32. Prudential Financial Inc
33. Credit Suisse Asset Management
34. Sparinvest Fondsmaeglerselskab A/S
35. LPP (Local Pensions Partnership) LPP I ASSET POOLING AUTHOR
36. Capita PLC
37. Artemis Investment Management LLP
38. Toronto-Dominion Bank/The
39. Zuercher Kantonalbank
40. MITONOPTIMAL UK LIMITED
41. Marsh & McLennan Cos Inc
42. HSBC Asset management
43. Royal London Asset Management Ltd
44. Hennessy Advisors Inc
45. Canadian Imperial Bank of Commerce
46. 農林中金全共連アセットマネジメント
47. DekaBank Deutsche Girozentrale
48. りそなアセットマネジメント
49. 明治安田生命保険
50. Irish Life Investment Managers Ltd