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緊急共同声明:日本政府は石炭火力への公的支援禁止に関するOECDルールの弱体化を行うな

投稿日:2024年12月02日

2024年12月2日

緊急共同声明:
日本政府は石炭火力への公的支援禁止に関するOECDルールの弱体化を行うな

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
気候ネットワーク

現在、経済協力開発機構(OECD)の輸出信用部会では化石燃料事業への公的支援の規制(OECD輸出信用アレンジメント)について国際交渉が行われているが、日本政府が新規の石炭火力発電事業への公的支援禁止規定を緩和させようとする可能性があり、大変憂慮される。日本の輸出信用機関である国際協力銀行(JBIC、財務省管轄)及び日本貿易保険(NEXI、経済産業省管轄)による公的支援で、日本企業による海外での石炭火力推進の窓口をこれ以上広げることがあってはならない。私たち環境NGOは、12月9日に再開されるOECD交渉において、日本政府が石炭火力支援に関する禁止規定の維持と、新規の石油・ガス事業を含めた包括的な支援禁止規定の拡充に合意するよう要請する。

現行のOECD輸出信用アレンジメント第6条では、機能する炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術を伴わない新規の石炭火力発電事業への公的支援を禁止しているが、既存の石炭火力発電施設の改修にあたっては排出削減措置(abatement)等を行う目的であれば支援可能としており(※1)、日本政府は既存石炭火力発電所へのアンモニア混焼への改修支援は可能と解釈している(※2)。今回のOECD交渉で、日本政府は現行の禁止規定を後退させる、つまり新規のアンモニア混焼石炭火力発電等への公的支援をも可能とするよう動く可能性がある。

しかし、シンクタンクのTransitionZeroの調査によれば、20%のアンモニア混焼石炭火力発電所の排出量は800g-CO2/kWh程度であり、国際エネルギー機関(IEA)のネットゼロシナリオで2030年に求められている138g-CO2/kWh以下にはまったく整合しないことが明らかである(※3)。そもそも、OECDアレンジメントでは、最新の気候科学やパリ協定の長期目標を踏まえて改訂を行うと規定されており、日本政府が新規のアンモニア混焼石炭火力発電等への公的支援を可能とするよう働きかけている場合、その交渉姿勢はこの改訂規定にも反している。

他方、日本政府は2022年のG7エルマウ・サミットにて、「​​国家安全保障及び地政学的利益の重要性を認識し、我々は、各国が明確に規定する、地球温暖化に関する摂氏1.5度目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末までの終了にコミット」した(※4)。しかしJBICは2023年以降、7件の化石燃料事業への融資契約を締結しており、その融資総額は約33億ドル(日本円相当で4,980億円)にのぼっている(※5)。

G7宣言のコミットメントを満たすためには、支援対象国のエネルギー政策が1.5度目標と整合している必要がある。例えば、メキシコのサン・ルイス・ポトシ及びサラマンカでのガス火力発電事業について、日本政府及びJBICは事業がメキシコのNDC、国家電力開発計画、メキシコ連邦電力委員会(CFE)の5か年事業計画に整合的であるので問題ないとの趣旨の発言を行っている。しかし、Cimate Analytics(※6)及びClimate Action Tracker(※7)は、メキシコ政府のNDC(国が決定する貢献)は1.5度目標に整合的でないと述べており、日本政府及びJBICの主張は不適切である。豪州のスカボローガス田への融資については、日本のエネルギー安全保障を確保する観点から例外規定を適用して支援すべきだとして、日本政府及びJBICは1.5度目標への整合すら不要だと説明している。

日本政府は、OECD交渉においても「​​国家安全保障及び地政学的利益」に関する例外規定や「排出削減対策が講じられた事業」に関する例外規定、「地球温暖化に関する摂氏1.5度目標やパリ協定の目標に整合的な事業」に関する例外規定を設けるよう主張しているとの情報を得ているが、G7宣言の運用状況を踏まえれば、このような例外規定は極めてあいまいな解釈・運用が行われる可能性が高い。OECD輸出信用アレンジメントの目的は、「公正な競争環境の確保」であり、そのためには共通のルール策定や共通の解釈に基づいた運用が不可欠である。したがって、OECD輸出信用アレンジメントにおける新規の石油・天然ガス事業への支援禁止規定の拡充にあたって、このような例外規定を設けるべきではない。

日本政府は12月9日に再開されるOECD交渉において、石炭火力支援に関する禁止規定の維持は無論のこと、新規の石油・ガス事業を含めた包括的な支援禁止規定の拡充に合意するべきである。

本声明に関するお問合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 担当:田辺有輝
tanabe@jacses.org

注:
※1:https://legalinstruments.oecd.org/en/instruments/OECD-LEGAL-5005
※2:https://jacses.org/1599/
※3:https://www.kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2022/03/TransitionZero_Coal-de-sac_summary_jp3.pdf
※4:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100364051.pdf
※5:https://jacses.org/2539/
※6:https://1p5ndc-pathways.climateanalytics.org/countries/mexico/
※7:https://climateactiontracker.org/countries/mexico/

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