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JACSES ブリーフィング・ペーパー・シリーズ
持続可能な開発と国際援助 No.4
ODAにおける環境と持続可能な開発
発効:「環境・持続社会」研究センター
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)は、1995年7月より約1ヵ年をかけ、主
要ODA資金供与国の政策と実施メカニズムに関
する調査を行った。その調査結果をまとめた英文
の報告書、Environment and SustainabIe DeveIop
ment in OffciaI DeveIopment Assistance Since the Earth Summit 1992(ODAにおける環境配慮と持続
可能な開発〜地球サミット以降の主要援助国
7ヵ国における取り組み〜」)を1996年10
月上旬に発行した(日本語版11月下旬予定)。
この調査は、1992年の地球サミット(国連
環境開発会議)以来、援助国や国際機関のODA
政策と実施において、環境配慮や持続可能な開発
の概念がいかに実現されているかについて探るこ
とを目的としたもの。ODAに関する基本政策、環
境アセスメントなどの実施における様々なガイド
ライン、情報の公開、NGOの参加、そして評価体
制などについて、現在の国際的な基準がどこまで達
成されているかについて比較調査を行った。また報
告書では、NGOやODA実施機関が開発援助にお
ける望ましい政策やプログラムを決定・実行するに
あたり、参考となる良い事例についても紹介してい
る。終章では調査結果を集約するとともに、日本の
ODAに対する提案も行った。
調査を行った国は「カナダ、デンマーク、ドイツ、
オランダ、イギリス、アメリカの7ケ国。
さらに、国際開発援助の最近の動向に焦点、をあてる
ため、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)の政
策、実例等も収録した。調査期間中は実際に各国を
訪問の上、約100人に及ぶODA実施機関の担当
官、NGO関係者、そのほかの研究機関などに対し
てインタピューを行ったり、情報の収集にあたって
の協力を得た。
日本のODAと持続可能な開発
日本は現在、世界最大のODA拠出国である
(1995年実績:約145億ドル、DAC統計)。
他のDACメンバー各国がODA予算を削減して
いる中で、日本だけがODA予算を増加させ続け
ており、その年間の拠出額はアジア開発銀行(A
DB)などの地域開発銀行の拠出額を大幅に上
回っている。さらに、1995年9月、政府は海
外経済協力基金(OECF)と日本輸出入銀行を
1999年までに統合することを決定した。これ
が実現されると、その貸出額がおそらく世界銀行
に匹敵するほどの、巨大な開発融資機関が誕生す
ることになる。
このような状況のなかで、日本は世界第―位の
ODA資金供与国として、途上国の安定した環境
と公平な社会を目指した開発を促進する上でます
ます重大な責任を担っていくことになることは明
らかである。そうした意味で、今後、ODAの包括
的な政策、環境アセスメント、情報公開、住民参加、NGOとの政策対話などにおいて、さらに大きな
改善の努力が必要となるであろうことを、この
報告書ではあらためて確認している。
以下に報告書の第6章まとめと提言部分を紹介
する。
第6章 概括的結論及び日本のODAに対する提言
環境ならびに持続可能な開発という観点がどの
ようにODAに統合されているかについて、本調査
を通じて明らかになった主な結論を以下に紹介す
る。表2からも分かるように、ODAに関する政策、手続き及びアプロ―チに関し、日本と本調査で取り上げた他の援助諸国との間には大きな隔たりがあり、これらの結果から、日本のODA機関が持続可能な開発を推進するための明確な政策、あるいは効果的な制度的メカ二ズムを未だ十分に確立していないことは明らかである。
1.環境及び持緒可能な開発のための資金
ODA支出
国連環境開発会議(UNCED)では「アジェン
ダ21」を実施するために新規・追加的資金を拠
出するという公約がなされたが、経済協力開発機
構(OECD) /開発援助委員会(DAC);加盟援助
諸国のODA支出は概して停滞しており、ODAに
対する予算を削減している国も多い。本調査対象
国の中では、オランダとデンマ―クのみがGNPの
0.7%をODAに充てるという国連の目標を達成
している。しかし、開発途上国の環境問題に対処
するためのODA、ならびにその他資金について
は、本調査の対象となった援助国で例外なく19
92年以降増加している。
環境基金
日本を除くすべての調査対象国は、開発途上国
における「環境基金」の設立を支援してきてい
る。途上国が気候変動や生物多様性の保護に関す
る地球環境条約を含む山くCEDにおける合意を芙施
するにあたり、それを支援するODAを特別資金と
して確立するか、あるいはそれらの分野に対する
資金をあらかじめ確保している国もいくつかあ
る。こうした特別資金は、援助諸国に課されてい
る地球環境ファシリティ―(GEF)やモントリ
オ―ル議定書基金への拠出以外の追加的措置であ
る。
2.持続可能な開発に関する諸原則のODA
政策・戦略への統合
ODAに関わる法制及び包括的政策と優先課題
日本及びドイツには、ODAの政策・実施を律す
る国家法が存在しない。カナダの場合には、19
95年に国会で承認された新外交政策に開発援助
に関する特定の公約・優先課題が盛り込まれてお
り、ODA活動に義務的なガイダンスを与えるもの
とみなされている。
日本、ドイツ及びイギリスを除く調査対象国
は、 UNCESの結果ならびに持続可能な開発の諸原則を配慮するために、開発途上国に対する全般的
な外交政策を新たに策定、もしくは修正してき
た。しかしこの中でオランダのみが、ODAの政策
ならびに関連する国内政策は「社会・経清開発は
環境の許容能力(environmental capacity)の範囲内
であり.資源へのアクセスは公平でなければなら
ない」という原則,に基づくことを明確にしてい
る。
ODAの政策・戦略において、環境問題の重要性
がますます認識されてきている。しかしその―方
で、持続可能な開発に対する包括的かつ―貫した
アプロ―チを発展させたり、環境問題を貧困や開
発と女性(WID)など、他の分野共通の横断的な
開発課題との関連のなかで捉える努力は、まだ不
十分である。
分野別政策
本調査対象国の中では、オランダの分野別政策
に持続可能な開発の視点が最も実質的かつ広範囲
にわたって展開されている。これらオランダの分
野別政策では、様々なセクターにおいて持続可能
性についての問題が分析され、環境への悪影響を
緩和し資源を保全するための方法が特定されてお
り、そのために必要な政策の変更を行っている。
日本の場合、環境や持続可能な開発に重大な影
響を及ぼす分野に関して、公式の政策は策定され
ていない。エネルギー、都市、交通、農業などの
分野の大規模開発プロジェクトにかなりの援助を
行っているにもかかわらず、これらの分野へのプ
ロジェクト援助は「環境・社会・経済費用が最小
のプロジェクトをどのように選択するか」といっ
た点を配慮した政策に従って計画、実施されてい
るわけではない。
多国間開発銀行(世界銀行、アジア開発銀行な
ど、以下MDBs)を含む数多くの援助機関では、
そのスタッフが被援助国やプロジェクトの優先順
位を決定する際に、分野別政策及び部門横断的な
政策の両方を適用する例は依然として限られてい
るか、あるいは体系的に奨励されてはいないよう
である。
開発途上国における「国家持続可能な開発戦略」への支援
OECDはすべての援助諸国に対し、ODA供与の
―環として国レべルの持続可能な開発戦略の策定
を支援すべきであると勧告している。多くのODA
機関は被援助国における様々な種類の国家レべル
の環境戦略、すなわち 「国家保全戦略」
(NadonaI Conservation Strategies:NCS)や「国家
持続可能な開発戦略」 (Nationl SustainabIe DeveI
opment Strategies:NSDS)などの策定に重要な役
割を担ってきている。こうした支援は被援助国に
おいて開発の持続可能性が保障されるために重要
だが、これまで日本はNSDSやNCSに対し実質的
な支援を行っていない。
二国間ODA機関と多国間開発銀行間の調整及
び政策の―貫性
いくつかの援助国では、多国間援助機関の政策
との調整を強化するために、様々な制度的、ある
いは法的メカ二ズムを確立している。米国、カナ
ダなどの数ヵ国では、自国の援助プ口ジェクトに
おいて環境面が―層配慮されるよう、援助機関が
多国間開発銀行(MDBs)の政策のモ二タリング
や策定にますます積極的に関与してきている"
日本には、MDBsの活動に対する国としての見
解や立場を調整する正式なメカ二ズムは確立され
ておらず、大蔵省は外務省など他の関連省庁、国
会議員及びNGOと協議する努カをほとんど行って
いない。
日本のODAに対する勧告
- 政府は広範囲にゎたる国民的な議論を基に
ODAを律する法(ODA基本法)を制定すべきであ
る。
- 環境,社会面における持続可能性の原則を
十全に考慮し、日本のODAの究極目標を達成する
ための手段を明示した、明確かつ包括的なODA政
策・戦略を確立すべきである。
- 最低限、経済的コストはもちろんのこと環
境・社会的インパクトに対する最小コスト・アプ
ロ―チに基づく分野別政策を、エネルギー、森林、
生物多様性の保護、人口及び農業のセクターにつ
いて策定すべきである(たとえば農業の場合、外
的インプットを最小にする持続可能な農業政策―
Least External Input Sustainable AgricuIture:LEISA
など)。
- ODAプロジェクトはすべて、明確な分野
別政策と戦略に基づいて選択され、立案されるべ
きである。換言すれば、ODA政策・戦略と実際の
プロジェクトの内容に―貫性がなければならない。
- 日本・被援助国双方のNGOは、日本の
ODA政策、国別援助戦略及び分野別政策・戦略の
策定のプロセスに参加する権利が与えられるべき
である。
- 日本は、被援助国における参加型の「国家
持続可能な開発戦略」 (NSDS)を策定するため
のあらゆる取り組みを積極的に支援し、ODAプロ
ジェクトやプログラムがこうした戦略に合致・支
援することを保証するべきである。
- 1996年5月のOECD開発援助委員会
(DAC)の勧告に沿って、日本は他の援助国の
ODA政策・プログラムとの―貫性を確保するよ
う、より―層の努力を重ねるべきである。
- 日本は、MDBsの政策と活動の改革、及び
それらの政策の実施を確保するために、より積極
的な役割を果たすべきである。また、MDBsに対
する拠出に関し、意志決定過程を透明なものにす
るための方策を見いだすことに着手するべきであ
る。これには、NGOとの政策対話及び、定期的か
つ公式の政府間調整を開始することが含まれる。
3.環境アセスメントと持続可能性分析
ODA機関が行う環境アセスメント(EA)の基
本政策・手続きは類似しているが、評価範囲(ス
コープ)は異なっており、手続きについてもその
効果とコミットメントの程度は、調査をした機関
の間でも様々である。カナダ、オランダ及び米国
では、ODA機関は国内の環境影響評価に関する法
律に従わなければならない。日本とドイツを除
き、EAは分野全体及びプログラムベースで供与さ
れるODAについても適用可能だが、これは援助国
の間でまだ―般的なものにはなっていない。
日本では、EAをODAプロジェクトに適用する
ための政策・手続きに関して、各援助実施機関に
共通の基準が確立されていない。また、日本の国
際協力事業団 (JICA)や海外経済協,,,
(OECF)の環境ガイドラインには、代替案(重
大な環境影響があると予測されるプロジェクトは
実施しないという代替案を含む)を考慮する必要
性が明確にされてれない。他の援助国、例えばイ
ギリスの海外開発庁(ODA)ではその『環境面の
審査10原則』において「受け入れがたい環境な
いしは社会費用を伴うプロジェクトは実施対象外
にすること」が明確にされている。
援助諸国はおしなべて、EAにおける手順のモニ
タリング・評価や実際の実施過程を改善すること
にもっと努方を払う必要がある。これまでに自国
のEA手続きの実施に関する評価を行った援助機関
には、デンマーク国際開発庁(DANIDA)、イギ
リス海外開発庁(ODA)、米国国際開発庁
(USAID)があり、カナダ国際開発庁(CIDA)
は1996年に同様の評価を行う予定である。
プロジェクトに関するEAに留まらず、分野全
体、プログラム及び政策ベースの環境的な影響に
ついて評価を行っている援助機関ははとんどな
い。USAIDは2種類の戦略的環境アセスメント
(Strategic Environmental Assessment:SEA)とし
て、分野ならびにプログラムについて個別に環境
アセスメントを行っている。CIDAは環境配慮を政
策・プログラムに統合するマニュアルを1996安中
に策定する予定である。これは、ODAに関して
SEAの手続きの要綱を初めて示すものとなる。ま
た、プロジェクト及びプログラムの持続可能性を
被援助国の 「国家持続可能な開発戦略」
(NSDS)に結び付けた分析(持続可能性分析)
が現在、数ヵ国の援助機関によって共同で検討さ
れている。
再定住政策
日本のODAの40%が大規模なインフラストラ
クチャー・プロジェクトに供与されており、その
多くが立ち退きを伴っている。それにもかかわら
ず、日本の援助機関は強制移住(非自発的再定
住)に関する包括的なガイドラインを策定してい
ない。
日本のODAに対する勧告
- 環境及び社会的アセスメントの手続きにつ
いて、包括的かつ基準となるガイドラインを策定
すべきである。このガイドラインでは最低限、ど
の提案プロジェクトについても代替案を検討する
ことを義務づけるべきである。
- 影響を受ける住民。NGOの参加は、あらゆ
る環境・社会的影響評価における条件とするべき
である。日本の援助機関は、環境・社会的影響評
価に関連する情報をプロジェクト準備の初期段階
から公開し、影響を受ける住民や関心を持つ市民
が意見を述べることができるよう保障するべきで
ある。
- 重大な環境、ないしは社会的影響の可能性
があるか、人々から懸念が表明された場合にはい
つでも、ODAプロジェクトの環境アセスメントに
関した外部者による独立評価、もしくは調停の実
施を保障するメカニズムを確立するべきである。
- 原則として、住民。地域社会の強制立ち退
き・再定住を伴うプロジェクトに対しては、日本
のODAを供与すべきではない。地域社会の非自発
的な移住が避けられない場合、日本政府・ODA援
助機関は影響を被る住民がプロジェクト・サイク
ルの初期段階から完全参加して再定住の計画が策
定され、実施されることを保障するべきである。
また、立ち退き住民が計画された便益や代替地、
ないしは約束された施設を実際に享受することを
保証すべきである。このためには、少なくとも世
界銀行やOECDの強制移住ガイドラインに匹敵す
る、包括的なガイドラインを策定しなければなら
ない。
4.影響を受ける人々・地域社会の参加
本調査対象国の中で日本は唯―、開発援助にお
いて参加型アプロ―チを促進するための政策・メ
カニズムを確立していない。他の援助国は、様々
な方法でODA活動に参加型アプロ―チを導入して
きた。例えば、オランダ、ドイツ、イギリス、米
国はODAプロジェクトの立案において利害関係者
(stake hoIder)分析や参加型方法を用いることを
要件としている。DANIDAは、国別プログラム戦
略の策定において、NGOを含む利害関係者と比較
的広範囲な協議を行っている。
日本のODAに対する勧告
外務省、OECF、JICAは開発プロジェクトの計
画策定、設計、実施など、ODAのあらゆる側面で
影響を受ける人々・NGOの参加を促進する明確な
政策・制度的メカニズムを確立すべきである。
5.NGOと関連省庁・ODA機関との幅広い政策対話
NGO-ODA機関間の政策対話
ODAの質を改善するうえで、政府、ODA機関、
NGO間の協力を増すことが不可欠である。本調査
対象国の中で、国内NGO、関連省庁、ODA機関と
の間に幅広い政策対話メカニズムが確立されてい
ないのは日本だけである。―方、ODA機関は―般
に、被援助国のNGOとの間では政策対話を進める
努力をこれまで十分にしてこなかった。しかし、
デンマーク、ドイツ、オランダ、米国は国別援助
戦略に関して当該国のNGOとの協議を行ってお
り、―般に大使館を通じた対話を行っている。オ
ランダは、3被援助国と取り交わした「持続可能
な開発のための二国間協定」を通じて、最も広範
囲に及ぶ利害関係者との対話メカニズムを確立し
ている。
ODAに関する公式諮問会へのNGOの出席
米国、オランダ、デンマークでは、ODA活動に
関する公式諮問委員会にNGOの代表が積極的に参
加している。UKODAは、ODA政策に関する特別
諮問会にNGOが系統だって参加する仕組みを導入
しようとしており、すでに天然資源調査に関する
諮問委員会にはNGOの代表が参加している。日本
の場合、ODA機関に関連する公式諮問会にNGO
の代表は含まれていない。
日本のODAに対する勧告
- 日本は、関連省庁・ODA機関(OECF,
JICA)とNGOとの間でODA政策・プロジェクト
について協議するための、公開かつ定期的協議の
場を設けるべきである。これにはMDBsの政策及
ぴ活動に関する外務省とNGOとの協議も含まれ
る。こうした政策対話のメカニズムはNGOとの協
議のうえに確立し、できれば他援助諸国の経験を
参考にするべきである。
- 日本政府は、地球環境ファシリティー
(GEF)などUNCEDフォロ―・アップの課題と
ODAに関する意志決定に、国内外のNGOが幅広
く参加できるよう支援するべきである。
- 日本政府は、政策分析やアドボカシーな
ど、NGOが持続可能な開発に貢献するうえでの姥
方を統合し、強化としていく取り組みに対して支援
を行うべきである。
6.ODA政策とプロジェクトに関する情報の公開
日本を除く援助諸国は、ODAも情報公開に関す
る公式政策(または法律)の対象としている。日
本の場合、過去数年間に―定の改善がみられたも
のの、ODA、特に特定のプロジェクトに関する,情
報公開は依然として、プロジェクトの影響を受け
る人々や多くのNGOにとって解決しなければなら
ない重要課題の―つである。
本調査の対象となった援助諸国はどの機関にお
いても、政策関連情報に比べ特定プロジェクトに
関する詳細な情報が体系化されていないようであ
る。とりわけ、ODAの供与を検討中のプロジェク
トに関する情報へのアクセスは十分とはいえな
い。おそらく、USAIDが最も広範にわたってODA
プロジェクトの情報を公開しでいる(米国の情報
公開法で保障されている)。
日本のODAに対する勧告
関連省庁、OECF及ぴJICAは、ODA政策とプロ
ジェクトに関する情報公開の明確な政策、ないし
はガイドラインを確立するべきである。こうした
ガイドラインは、被援助国の人々に対し、彼らが
影響を受ける可能性のある検討中のプロジェクト
について、プロジェクト・サイクルの初期段階か
らの完全な情報公開を保障するべきである。
7.ODAに関するアカウンタビリティ(accountability)を保障するためのモニタリングと評価のメカニズム
環境政策の採用とその実施におけるギャップ
NGOはこれまで、ODA政策と実際のプロジェク
トやプログラムの実施には、かなりの隔たりがあ
ることを、しばしば指摘してきており、ODA機関
がその政策、あるいはガイドラインを履行しな
かった数多くの事例を挙げてきた。NGOのみなら
ず、ODA機関はODAが持続可能な開発の政策・優
先課題、そしてUNCEDの環境合意を遵守してしいる
かどうか、その活動実績をモニタリングすること
に対し、かなり大きな努力を払う必要がある,
ODA活動全体の進捗状況のレビュー
ODA機関は、環境及び持続可能な開発に関する
目標、政策及び優先課題についての進捗状況につ
いて、より幅広く評価することに関心を深めてい
る。CIDAやUK ODAなどのいくつかの援助機関
は、その評価範囲と方法にバラツキはあるもの
の、ODA活動全体についてすでに進捗状況をレ
ビューしてきている。他方、日本とドイツは主に
プロジェクトごとの評価を実施しているだけで、
環境及び持続可能な開発政策の実施という観点に
基づいたODA全体の実績についての評価を行って
いない。
ODAのモニタリングと評価に関する情報システム
UK ODAやUSAIDなどのいくつかのODA機関
は、「プロジェクト及ぴプログラムの目的や拠出
額が全般的な政策目的、あるいは優先課題に合致
し、―貫性があるかどうか」をモニタリングする
ための管理情報システムを確立しているか、ある
いは改善している。
ODAにおいて環境の視点が全体的に統合され
ているかどうかの評価
デンマークとオランダのほかには、ODAにおい
て環境配慮が全体的に統合されているかどうかを
評価している機関はない。しかしCIDAは、ODA
プログラムの環境に対する影響を含め、自身が策
定した『環境的持続可能性の政策』の実施を包括
的にレビューすることを計画している。―方、援
助の環境的持続可能性に対する影響について、そ
の実績、あるいは効果を評価するための適切なシ
ステムや指標を確立するには、いまだ難しい点が
あることが指摘されている。
環境持続可能性の指標
本調査対象のODA機関には、USAIDを例外とし
て、環境的持続可能性についてODAプロジェクト
及びプログラムをモニタリングするための、系統
だった指標は確立されていない。近年になって、
大半のODA機関ではODAプロジェクトやプログラ
ムの環境的持続可旋性を決定する要因を測定し、
評価するうえで、より信頼性のある手法を開発す
るための勢力が払われるようになってきている。
しかし、こうした勢力にもかかわらず、被援助国
における開発の環境ならびに社会的持続可能性に
対し、ODAがどの程度寄与しているかを明らかに
するのは、いまだ殆ど不可能な状況にある。
ODAプロジェクト及びプログラムの環境影響
と持続可能性の評価
ODA機関は例外なくプロジェクトのモニタリン
グと評価を定期的に行っているが、この過程で環
境影響ないしは環境的持続可能性を評価するアプ
ロ―チについては、基準となる手法が確立されて
いない。大半のODA機関では、プロジェクト評価
において環境面を評価する詳細な基準、あるいは
指標は確立されていない。しかも、ODA機関によ
るODAプロジェクトの「持続性」についての評価
は、財務面や制度面に限られ、資源保全や生態系
の許容能力(carrying cpacity)など、環境ならび
に社会・文化的要因についてはないがしろにされ
る傾向がある。日本の場合、プロジェクト立案の
段階で、モニタリングや評価のための明確な指標
やべンチ・マークが特定されておらず、それゆ
え、ほとんどのプロジェクト評価は過度に「イン
プット指向的」なものとなり、プロジェクトの環
境への影響などについて、その評価を裏付ける具
体的なデータを欠く傾向にある。
ODAの監査
―般に、本調査対象援助国における政府による
正式なODA監査システムは効果的な実施がなされ
ているかどうかを審査するうえで、環境的持続可
能性は考慮されてはいない。唯―カナダのCIDAで
は、政府による正式な環境監査を受けている。
立法府による監視
日本では、立法府(国会)によるODAの強い監
視が欠如していることが、NGOの最も重大な懸念
の―つとなっている。他諸国では、ODA法ならび
に確立された立法手続き(議会での審議など)が、援助政策の改善や環境に重大な影響を与える
プロジェクトの調査、あるいは回避に役立ってい
る。
日本のODAに対する勧告
- 外務省は日本のODA全体の実績を定期的に
レビューすべきである。こうしたプロジェクトお
よびプログラムのレビューでは、被援助国の環
境、経済、社会的な持続可能性に対する実際の影
響はもちろんのこと、環境ならびに持続可能な開
発政策・優先課題がいかに実施されているかにつ
いても分析するべきである。このためには、被援
助国の環境・社会的持続可能性や地球環境の保護
に対し、日本のODAがどのように寄与しているか
を評価するためのモニタリング・システムを、国
際的に受け入れられた目標値や指標に基づき確立
し、実施する必要がある。
- 政府は、ODAの管理・財務的側面のみなら
ず、被援助国の環境、経済、社会的な持続可能性
に対してプロジェクト及びプログラムが与える実
際の影響を審査するよう、ODAに関連する政府の
監査システムを改善するべきである。
8.ODAの実施に影きを及ぼす制度的要因
ODA機関の改革
環境問題や持続可能な開発に対処するうえでの
ODAの効果を高めるために、ドイツと日本を除い
たODA機関は機構改革を実施している。日本の
ODA機関は依然としてスタッフの数が非常に不足
しており、特に、環境、WID、参加など、持続可
能な開発に関連する重要な分野で十分な専門的訓
練を受けたスタッフが不足している。他の援助国
はODA機関内部における意思決定の分権化や環境
専門家の強化に努力を注いできている。―方、日
本のODA機関ではプロジェクト管理レべルにおけ
る環境分野の専門性が、いまだ体系的に制度化さ
れていない。
ODA機関における環境分野の専門能力
本調査対象援助機関の大半、とりわけ日本の援
助機関では、環境担当部署がODA全体の環境面の
質に影響を及ぼす力は相対的に弱く、その役割は
組織的・業務的制約に依然として阻害される傾向
にある。USAIDの環境担当者は環境アセスメント
に関連する事項に関して最終的な決定を下し、必
要であれば環境上健全でないプロジェクトを中止
する権限を持つ。―方、OECFやJICAの場合、環
境担当部署には、このような明確な権限は与えら
れていない。
日本のODAに対する勧告
- 日本政府は、ODA機関において、環境、
WID、その他の持続可能な開発に関連する重要な
分野で専門的な訓練を受けたスタッフを、さらに
増やす必要がある。
- ODA機関の意思決定システムをより分権化
し、日本のODA機関の在外事務所スタッフや環境
担当部署が、プロジェクトの形成,準備におい
て、より強力な権限や能力を持つようにするべき
である。
- 日本政府は、ODAが被援助国の環境・社会
的持続可能性に貢献し、効果的に運営されること
を保障するために、多大な努力を重ねる必要性が
あることに考慮して、ODA実績のあらゆる側面に
ついて、徹底かつ独立したレビューを早急に実施
するべきである。
ドイツ
- プロジェクトが微妙な状況にあるか、もしくは他の理由により公表されないものもある。
日本
- しかし、環境は簡単に触れられるだけであり、すべての国に対してではない。
- 最近、人口や家族計画といった分野に関しての限られた対話が開始された。
- 外務省の評価報告書の場合、英語版は調査結果の要約のみである。
オランダ
- GNP比でのODAの割合は1992年の0,86%から1995年には0.8%に減少したものの、オランダはOD
AはGNP比で0.8%のレべルを維持し、さらにGNP比で0.1%を、発展途上国に対する資金供与の
―部として国際的環境問題のために出資すると公約している。
イギリス
- 英国のODA FundamentaI Expenditure ReviewではNGOやその他の関係者がより組織的に諮問委員会に
参加するべきである、と提案されている。現在のところ、NGOの代表は天然資源の研究の諮問委員
会や東欧への技術協力のための"Now-how基金"にのみ参加している。
- 準備段階のプロジェクトに関する公の情報公開は、英国のODA FundamentaI Expenditure Reviewの勧告
を受け、現在検討中である。
- NGO及び各種の報告によると、ODAに関する議論はまれで議員の参加も少ない。
USAIDによって策定された分野別政策は、
「持続可能な開発の戦略」に組み込まれている。
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