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JACSES ブリーフィング・ペーパー・シリーズ
持続可能な開発と国際援助 No.7(1998年1月発行)

日本の政府開発援助(ODA)と気候変動
エネルギー関連プロジェクトがもたらす地球温暖化への影

発行:「環境・持続社会」研究センター

 1997年12月、「環境・持続社会」研究センターと地球の友ジャパンは「日本の政府開発援助(ODA)と気候変動」と題した調査報告書を発表した。調査では、日本の政府開発援助(ODA)のエネルギー分野の現状を、途上国のCO2排出と地球温暖化への影響という観点から分析し、日本政府に対する提言を提示した。今回は、特にODAの円借款部門を担う海外経済協力基金(OECF)によるエネルギー分野への融資を中心に、調査と提言の要旨を紹介する。

 1992年に気候変動枠組み条約(以下、温暖化条約)が署名されてから5年目の今年、12月に京都で気候変動枠組み条約第3回締結国会議(COP3)が開かれた。COP3の交渉は予想通り難航し、最後の最後まで先進国の国益に引きずられた末、最終日の12月11日に予定を大幅に超過して「京都議定書」が採択された。COP3では「先進国による早期の大幅なCO2削減への明確なコミットメント」が期待されたが、実質的にはまったくこれを裏切る結果となった。
 京都議定書は、CO2を含めた6種類の温室効果ガスを対象として先進国全体で1990年比5.2%(二酸化炭素換算)を削減することで合意された。しかし、この削減目標自体が究めて低いばかりでなく、森林などの吸収源を認めるネットアプローチや共同実施、排出権取り引きなどさまざまな「抜け穴」があるため、運用次第では温室効果ガスの大幅な増加を許すものとなっている。
 先進国は途上国よりも一人当りで約5倍に上るCO2を排出していながら、2000年までに1990年レベルで安定化するという当初の目標を反故にした。にもかかわらず、COP3の交渉においてアメリカを中心とした先進国は「CO2排出削減の義務への途上国の参加」を強く主張し、途上国の反発を招いた。
 COP3のフォローアップに向けて、先進国はふたつの意味で重要な責任を担っている。まず第一に、最低限COP3で取り決められた削減目標を達成すべく、現在の経済システムや生産・消費パターンの抜本的な改革に取り組むことである。そして第二に、途上国による温暖化防止へ向けた取り組みを推進していくために、より積極的な資金的・技術的支援を行っていくことである。先進国が現在の削減目標を実現し、温暖化防止という地球環境最大の課題に真剣に立ち向う意思と能力を示す重要な試金石といえよう。

途上国における温暖化問題とODA
 一方、途上国も大きな課題に直面している。途上国ではエネルギー需要と消費が年々増加しており、それにともなって増加しつつあるCO2総排出量は2010年には先進国の合計を上回るだろうとされている。(注2) しかし一方で、途上国の約20億人の貧困層がいまだに薪や糞などの燃料に頼って生活しており、基本的なニーズに対する対応はまだまだ不十分である。CO2排出量抑制と持続可能なエネルギー供給の実現という課題は、今後、途上国により切実な問題として迫ってくることになるだろう。
 温暖化条約は先進国が「途上国がCO2ならびに他の温室効果ガス排出削減のために必要な取り組みを技術的・資金的に支援する」ことを求めている。それは、地球環境ファシリティー(GEF)や温暖化対策プロジェクトへの支援というものにとどまらない。重要なのは、世界銀行などの多国間開発銀行や二国間政府開発援助(ODA)が融資する途上国のエネルギー開発が温暖化に与える影響をいかに考慮するかである。
 たとえば、先進国が意思決定の主導権を握っている世界銀行は、電力その他のエネルギー分野のプロジェクトに対し、年間約28億ドル(96年度承認済み、IBRD・IDA合計)を融資している。米国の政策調査研究所(IPS)など国際NGOが今年6月に発表した調査によると、世銀が93年から96年までに融資した合計100億ドルに上る化石燃料関係のプロジェクトが、その運転期間中に排出するCO2の量は360億トンに上ることになるだろうと予測される。
 一方、COP3の議長国をつとめた日本は、世界のCO2全排出量の約5%(先進国では米国に次いで第2位)を占めており温暖化に多大な貢献をしているばかりでなく、年間約1兆500億円(約93億ドル、96年度実績)というDAC諸国中最大のODAを通じて、途上国、特にアジアの経済開発やエネルギー生産・消費の方向性にも大きな影響を与えている。その拠出額は96年は約2,965億円(26.4億ドル)に上っており、途上国のエネルギー開発にとって世銀に次ぐ最大のODA資金源である。
 ここ数年外務省は、温暖化対策を含めた環境関連ODAの拡充を方針として打ち出している。COP3では、途上国に対する温暖化対策支援の強化を目的とした《京都イニシアティブ》を発表した。このイニシアティブでは、人材育成と政策支援、温暖化対策の技術移転、ならびに最優遇条件(金利0.75%、償還期間40年)による円借款の供与の3つの柱が中心となっている。
 具体的には、省エネルギー・エネルギー効率向上(省エネルギー型設備の設置、発電所及び送電施設への省エネルギー施設の設置、発電効率の回復・改善を目的とする研修所、省エネルギー研修や省エネセンターの設立など)、新・再生可能エネルギー(小規模水力発電、風力・地熱発電所建設、太陽光発電の利用など)、および植林や森林保全の分野を中心としている。外務省によると、円借款の最優遇条件を適用することにより、途上国がこうしたプロジェクトを積極的に実施していくことを期待しているとのことである。
 COP3をきっかけとしたこのような新たな取り組みは、大きな前進として評価できよう。しかし《京都イニシアティブ》がもたらすであろう効果を実質的なものとするためには、これまでのエネルギー分野のODA支援全体の方向性を抜本的に改革する必要がある。

調査の概要
 本調査では特に、ODAの円借款部門を担う海外経済協力基金(OECF)によるエネルギー分野の融資実績を中心に分析した。調査にあたっては、主に1)エネルギー関連プロジェクトに供与された融資額とその内容はどのようなものか;2)それらの融資が環境、特に気候変動にどのような関連性をもっているか;3)日本が1992年の気候変動枠組み条約に署名して以来、温室効果ガス削減のためにどのような努力がはらわれたか、という3つの視点に立って融資内容を分析した。

1.海外経済協力基金(OECF)によるエネルギー分野の開発融資

 経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)によると、日本のODA全体のうち経済インフラは約4割を占め、特に、エネルギー分野は運輸とならび最も供与額の大きい重点分野となっている。また、 エネルギー分野のODAのうち約9割以上はOECFを通じた円借款プロジェクトである。
 海外経済協力基金(OECF)は公的な開発融資機関としては世界銀行(IBRD・IDA)に次ぐ世界第二の規模で、四つの地域開発銀行(アジア開発銀行・アフリカ開発銀行・米州開発銀行・欧州復興開発銀行)を合わせたのとほぼ同規模の融資を行っている。なかでも運輸分野とエネルギー分野はOECFによる融資の二大分野で、融資全体に対する比率は50〜60%である。
 本調査では1992年度から96年度の5年間にOECFの融資を受けて建設された、化石燃料を利用する火力発電所から排出される二酸化炭素の量について、その規模のおおよそを知るための試算を行った。この調査にあたり、OECFの年次報告書をもとに、エネルギー関連分野のプロジェクト名、借款契約の調印日、受け入れ国、プロジェクトの種別ならびに発電技術等、融資額、さらに発電事業の場合には発電容量などのデータをまとめた(詳しくは『ODAと気候変動』の添付資料を参照)。
 データ分析から得られたOECFのエネルギー分野の融資実績に関する特徴は、以下のように要約できる。

(1)OECF融資全体のうちエネルギーは2番目に大きな分野である。
 OECF融資全体のうち、エネルギー関連融資は運輸に次ぐ主要分野である。1966年から96年にかけて、OECFの貸付総額の約22.7%にあたる、およそ3兆6000億円(320億ドル、96年為替レート)の融資が電力・ガス事業に対して行われた。エネルギー分野がOECFの融資全体に占める割合は92年度以降の5年間ではやや増加し26.4%となっている(表1)。

表1:円借款における電力・ガス部門承諾額の推移(1992-1996年度)
電力・ガス部門承諾額推移
単位:百万円、件数、%
(出典)OECF提供の資料による

 96年度の実績をみると、電力・ガス分野に分類されるエネルギー関連プロジェクトへの貸付は30件、承諾額は総額で3、130億円(約28億ドル、同年度のOECF全承諾額の24.6% )。プロジェクトの内訳は多目的ダムの建設が2つ、発電所建設事業が18、送電線建設事業が9などであった(表2)。

表2:電力・ガス部門の承諾額
電力・ガス部門承諾状況
単位:件、百万円、%
(出典)OECF年次報告(1997年度)より

(2) 石炭火力および水力発電事業に対する融資額が大きい。
 融資を受ける事業の内訳が示す通り、日本のエネルギー分野ODAの重点は大規模なインフラ整備事業を通じて電力の供給を拡大することにおかれている。 95年度には石炭火力発電所と水力発電所の建設に対する貸付額がエネルギー関連の総貸付額に占める割合が、それぞれ27.3.%、22.2%で1、2位を分け合った。96年度には水力発電の占める割合が34.6パーセントに上昇した一方で石炭火力の占める割合は16.4%となり、石炭火力は送電線建設事業(23.2%)に次ぐ3位となった(表3)。

表3:OECFのエネルギー関連融資
エネルギー関連融資
単位:億円、%
(出典)OECF年次報告(1993-1997年度)より
(注)CGHTはコンパインド・サイクル・ガスタービン

(3) エネルギー関連融資はインドネシア、インド、中国など、比較的少数の国々に集中している。
 OECFによるエネルギー関連融資の大半が比較的少数の援助受け入れ国に融資されてきた。供与件数で見るとインドネシア、インド、中国、フィリピン、ベトナムの上位5か国が全件数の62%を占めている。また、貸付額で見ると上位6か国(件数の上位5か国とタイ)に対する貸付額が65%を占めている。
 OECFのエネルギー分野融資額が大きい援助受け入れ国では、そうした融資が当該国のインフラストラクチャー整備に大きな影響を与えてきた。その影響の大きさは、日本の融資を受けて整備された発電容量がその国の発電容量全体に対する比率に現われている。例えば、外務省のODA白書によると、インドネシアとマレーシアについてはその数字はそれぞれ14%、24%である。

(4) 環境に対する負荷の小さい技術を活かしたエネルギー関連プロジェクトへの貸付は限られている。
 これまでのところ、省エネ対策や風力・地熱などの新エネルギー開発など、環境に対する負荷の小さいエネルギー技術や環境への負荷を緩和するようなプロジェクトに対する貸付はごく限られてきた。そのようなプロジェクトがOECFの地球環境問題への取り組みの例として挙げられることが多い一方、この分野に対する貸付の件数、額ともに、エネルギー関連全体と比較すると、ごくわずかである。例えばコンバインド・サイクル・ガスタービンは環境への負荷のより小さな発電技術にあたるが、この5年間の間にガスタービンの発電機を備えた発電所建設への貸付は1,121億円(約10.2億ドル)で、これはエネルギー関連貸付総額のわずか7.8%である。
 1997年8月、日本政府とブラジル共和国政府の間で、OECFの初めての大規模な風力発電事業についての円借款契約書が交された(注5)。 このほか92年度から96年度の5年間に融資承諾あるいは実施された、環境への悪影響を緩和するプロジェクトとしては、環境改善事業(フィリピン)、脱硫装置の設置に係わる事業(フィリピン)、電力消費効率化事業(タイ)、環境観測機器整備事業(モロッコ)、火力発電所のリパワリング事業(フィリピン)が挙げられる(表4)。この5事業に対する貸付の総額は341億円(約3.2億ドル)で、 OECFのエネルギー関連融資の2.5%にあたる。

表4:OECFの環境への影響を緩和するエネルギー関連事業への融資
エネルギー関連事業への融資
単位:億円
(出典)OECF年次報告(1993-1997年度)より

(5) エネルギー関連プロジェクトの計画や実施(建設、機材供与など)の受注において、日本企業やコンサルタントが多くの利益を得ている。
 OECFの貸付によるエネルギー関連プロジェクトの計画、あるいはプラント建設や送電網などの機材供与といった実施には、民間のコンサルタントや企業が係わっている。特に、日本の開発コンサルタントや商社、建設企業などが、エネルギー関連のODAプロジェクトに関与する割合は大きい。たとえば、96年度にOECFが融資するプロジェクトの実施契約を日本企業が受けた件数は、OECF年次報告書で明らかになっているだけでも全体の約50%に上っている。同様に、同年に日本のコンサルタントがエネルギー関連プロジェクトのコンサルタント契約を受注した割合は全体の約90%に上っている。(注4)

2. そのほかのODA/OOFを通じたエネルギー関連の開発援助

国際協力事業団(JICA)による技術協力と無償資金協力
 円借款を通じた有償資金協力を担当するOECFに対して、JICAは無償資金協力及び技術協力による援助を行っている。96年度の二国間ODA全体に占める割合は、政府貸付が約33%で無償資金協力と技術協力からなる贈与は残りの約67%となっている(ただし、無償協力のうちJICAが担当するのは全体の60〜70%前後)。
 分野別に見ると、JICAによるエネルギー分野への支援は、OECFを通じた円借款と対照的に全体に占める割合が非常に小さい(無償資金協力全体では2〜5%前後、技術協力の人数ベースで2〜3%)。しかし同時にまた、エネルギー関連の技術協力では、マスタープラン調査 (M/P) やフィージビリティー調査 (F/S) 等からなる開発調査がその多くを占めている。こうした調査案件のなかには石炭資源開発や発電所施設に関するものが少なくない。
 例えば96年度にもインドネシアで水力発電所(「ポコ水力発電開発計画調査」「新型流れ込み式水力技術導入発展計画」)と石炭資源調査(「石炭生産拡大のための人材育成・技術開発マスタープラン調査」)が行われ、また中国でも同様の調査への支援がなされている(「遼寧省大凌河白石ダム工事に関する4項目の実験」「紅石ダム揚水式水力発電所F/S調査」及び「寧夏石炭資源の開発利用」など)。これらの開発調査全てがその後円借款を受けるわけではないが、日本のODAを活用した技術協力がこうした化石燃料や大規模インフラのエネルギー開発への投融資に間接的に深く関わっていることは明らかである。
 一方、省エネや代替エネルギーによる発電に関する支援においても、JICAの役割は小さくない。その代表的な取組みとしては、地球温暖化対策・省エネルギー技術の研修事業、エネルギー利用合理化計画などの開発調査、太陽光発電のための機材供与などがある。エネルギー分野へのJICA事業総額約42億円(95年度実績)のうち、省・代替エネルギー関連への拠出は12億円弱で約28%を占めている。しかし、JICA事業全体でエネルギー分野の占める割合が2.9%であることを考えればこの数字は決して大きくない。技術協力総額(約3,332億円=約34.6億ドル)から見れば、わずか3.6%に過ぎないからだ。
 エネルギー以外の分野を含むJICAの環境協力実績全体の中でも、省エネ関連への拠出は過去5年間5〜6%で、上水道や防災等と比べるとまだ優先順位が低い。

日本輸出入銀行(輸銀)による投融資
 日本輸出入銀行(輸銀)は、民間企業による貿易の促進を目的とした資金の貸付ならびに保証業務を行う機関で、資金の一部が政府からの借入金によって賄われている。輸銀による融資および保証業務は二国間ODAと区別され「その他政府資金(OOF: Other Official Flows)」と呼ばれている。96年度には、輸銀は308件のプロジェクトに対しておよそ1兆4,857億円(約132億ドル)の貸付・保証を承諾した(ちなみに世銀/IBRDは同年6月末で147億ドル)。このうち47%がアジア地域に対する拠出である。1999年には輸銀はOECFと統合されることになっており、この統合によって世界最大規模の開発金融機関が新たに登場することになるだろうと言われている。
 輸銀のエネルギー関連投融資の事例のひとつが、サハリンエネルギー投資会社(SEIC)に対する1億1,600万ドルの投資である。これは、ロシアのサハリン沖の石油・天然ガス田開発プロジェクトで、ヨーロッパ復興開発銀行ならびに米国の海外民間投資公社(OPIC)との協調融資である。このほかに輸銀が協調融資を予定しているものとして、3,250億バレルの石油と29兆立方メートルの天然ガス開発に係わるサハリン第1・第2プロジェクトが挙げられる。
 輸銀は融資案件を検討する際に、特に温室効果ガスや気候変動に係わる基準やガイドラインは適用していない。案件評価にあたっては11の主要分野についての「環境チェックリスト」が適用されている(火力、水力発電、製鉄所、銅精錬所、紙・パルプ、鉱山、道路、林業、石油・天然ガス開発など)。しかしいずれの分野についても、CO2あるいは温室効果ガスの排出、代替案の検討、あるいはプロジェクトのエネルギー効率など、地球温暖化に関連したチェック項目は含まれていない。唯一、「環境審査の留意点」として「クリーンなエネルギー利用、省エネ・省資源、リサイクル等を検討することも環境汚染を低減するためには重要な手段である」と述べているのみである。

グリーン・エイド・プラン(通産省)
 このほか、通産省の管轄のもとに実施されている環境協力関連の途上国支援として《グリーン・エイド・プラン》が挙げられる。92年にスタートしたこのスキームは、官民協力による環境技術の支援事業の実施を目的としている。97年度概算要求では約178億5000万円の予算が計上された(このうちの約2割がODA予算)。このスキームを通じた温暖化防止関連の取り組みとしては、立脱硫装置設置など大気汚染防止や、省エネや新エネルギー技術の移転などの分野におけるモデル事業の実施や国内での技術研修などが中心となっている。こうした事業の実施は電源開発や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など日本の外郭団体や企業主導のものが中心となっている。

3. ODAがもたらす二酸化炭素排出量
  ―OECFのエネルギー関連プロジェクトに基づく試算

 本調査の一部として、1992年度以降5年間に承諾されたOECFの貸付を受けた化石燃料火力発電所からの二酸化炭素の排出量の試算を行った。試算にあたっては、" The World Bank and the G-7: Changing the Earth's Climate for Business" というレポートにまとめられたSustainable Energy and Economy Network (Institute for Policy Studies, IPS) と International Trade Information Service による研究で用いられたのと同様の方法を用いた。(注5)
 今回の試算はおもにOECFの年次報告書のデータを基にしている。まず、リストアップされたプロジェクトを石炭、天然ガス、石油/天然ガス併用、複合サイクル・ガスタービン、ディーゼル、ガスタービンの6つの発電技術に分類し、それぞれについて1992-96年度の5年間のあいだに融資を受けて建設された火力発電所の新規発電容量を計算した。その発電容量に発電容量1メガワットあたりの排出される二酸化炭素のトン数(発電量あたりの二酸化炭素排出量の推定値をもとに計算)と20(IPSの研究にならってプロジェクトの寿命をすべて20年間と仮定)を掛け合わせ、排出量を概算した。(表5)(注6)

表5:OECFプロジェクト(92-96)各種発電所別二酸化炭素排出量
発電別CO2排出量
単位:メガワット、キログラム/キロワット時、トン/メガワット、トン
(注1)(C)の値は(B)の値×24(時間)×365(日)×1000(kh)/1000(kg)×20(年間)、(D)の値は(A)×(C)によって求められた。
(注2)石油ガス併用の場合の発電容量あたりの二酸化炭素の排出量は仮に石油火力とガス火力の平均値を用いた。
(注3)複合サイクル・ガスタービンの発電容量あたりの二酸化炭素排出量の推定値はIPSらの研究では用いられていない。ここではChristopher Flavin and Nicholas Lenssen,Power Surge:Guide to Coming Energy Revolution中に紹介された値を用いた。
(注4)ガスタービンについては発電容量あたりの二酸化炭素の排出量の推定値が不明であったので計算にいれなかった。

 例えば対象の5年間に融資に融資を受けた石炭火力発電所の発電容量の総計は5760MWなのでこの数字に発電容量1MWあたりの20年間の二酸化炭素排出量の推定値、158941トン/MW(発電量1kWhあたりの二酸化炭素排出量の推定値、0.9072キログラムをもとに計算)を掛け合わせ、OECFの貸付を受けた石炭火力発電所すべてがそれぞれの寿命である20年間に排出する二酸化炭素の量の総計は約9.2億トンと計算された。
 この計算方法によって、1992年度から96年度のあいだにOECFによる貸付を受けた火力発電所(石炭、天然ガス、石油/天然ガス併用、複合サイクル・ガスタービン、ディーゼル、ガスタービン)が操業期間中に排出する二酸化炭素の総計は13.4億トンという結果がえられた(表6)。この13.4億トンという数字は、日本が1年間に排出する二酸化炭素の量(12億1800万トン)を上回るもので、1990年の世界全体の二酸化炭素の年間排出量、233億トンの約5.75パーセントに相当する。

4. エネルギー分野ODAの問題点 

 以上の調査から明らかなように、現在のエネルギー分野のODAは大規模な石炭火力発電やダムプロジェクトに偏っており、CO2排出を促し地球温暖化を助長する一方、大規模なエネルギー開発による被害を貧困層に押しつけるものとなっている。こうした融資活動をもたらしている原因として、以下にエネルギー分野ODAに関するいくつかの問題点を挙げる。

1) ODA政策に温暖化問題への配慮ならびに持続可能性の原則が組み入れられていない。
 温暖化条約ならびに持続可能な開発の原則に照らし、優先すべきODAプロジェクトを特定するためには、具体的な方針あるいは政策を策定することが必要である。しかし、92年以降、外務省ならびにOECF・JICA、輸銀は、エネルギー分野のODAに関しての具体的な方針や政策は打ち出していない。一方、世銀やアジア開発銀行(ADB)など他の開発機関は、92年以降に新たなエネルギー分野政策を策定した。これらの政策には、エネルギー効率改善など省エネ対策や再生可能なエネルギーへの融資を重視することが明記されている。こうした政策が実際の貸付実績には十分に反映されているかどうかという問題とは別に、エネルギー分野の活動を評価し改善するうえで、その基準となる政策は不可欠である。
 エネルギー分野の政策が明確ではないため、ひとつの国に対する援助にも一貫性に欠く傾向がみられる。たとえば最近、外務省は中国に対する援助方針として環境を重点分野と位置付けており、96年度には排煙脱硫装置の設置といった大気汚染対策や酸性雨対策など温暖化に関係する環境プロジェクトだけでも約250億円の円借款を決定している。しかし一方で、同国に対して92年から96年度の間に化石燃料による発電プロジェクトに対し総額1,107億円のODAが供与されており、これは同期間中に供与されたエネルギー関連貸付総額の約70%に当たる。
 問題は、こうした化石燃料プロジェクトが環境プロジェクトの効果を相殺する恐れがあるばかりではなく、石炭火力発電による環境コストを緩和するという名目で、さらに中国に円借款の返済という重い負担を強いるという結果をもたらしかねないということである。つまり、持続可能で環境コストの小さいエネルギー供給・消費の推進という視点に立ち最も適切なアプローチを選択するという、より総合的な見地に立った方針に欠けているのである。

(2)エネルギー供給の拡大を目的とした大規模なインフラ整備事業に偏っている。
 今回の調査で明らかなように、日本のエネルギー分野ODAは増大する途上国のエネルギー需要に対応することを目的とした、大規模インフラ整備プロジェクトが大部分を占めている。エネルギー分野貸付総額の約22%を占める石炭火力発電プロジェクトの場合、出力500MW規模以上が1割以上を占めている。なかにはインドのアンパラB火力発電所のように、出力1000MWに上る超大型火力発電の建設も進められている。(注7)石炭火力発電所の建設は地球温暖化への影響ばかりではなく、煤煙や残灰などによる地下水・土壌・大気の汚染などの環境悪化や強制的な立ち退きによる貧困化など、地域住民(それも多くの場合が貧困層)に多大な被害を及ぼす。先に挙げたアンパラB火力発電所では、すでに大気汚染、水質汚染などの深刻な公害問題、さらに現地住民の立ち退き補償が不十分であることなどが報告されており、国際的な批判を浴びている。
 一方、水力発電についても、出力500〜1000MW前後以上の中・大型ダムプロジェクトがダム建設件数の3分の1近くある。大規模ダムは環境的にも経済的にも必ずしも持続可能な代替案とはいえない。これまでも、建設にともなう環境・社会的コストが大きいこと、さらに多くの途上国においては先進国の技術や企業に頼らざるを得ないために建設後のメインテナンスや管理に問題が生じた場合に大きな追加コストを必要とすることなどの問題が指摘されている。
 またダム推進派のなかには「エネルギー需要を満たし温暖化を防止するという条件を満たす代替策」であるとする声があるが、必ずしも温暖化への影響が化石燃料に比べて小さいとは言えない。最近、カナダとブラジルで行われた研究によると、水没した森林などが分解して発生するバイオマスの腐敗によって、貯水池から相当量のメタンガスの放出を招く可能性があることが明らかになっている。メタンガスはCO2よりも温室効果がはるかに高いものである。水没する土地や気候、植物の種類などによっては、同出力の火力発電所による温室効果に匹敵、またはそれを上回る場合があるという。また、ダムの建設のためのアクセス道路の建設によって森林への侵入を招き、CO2の吸収源である森林が消失するなど、二次的な温暖化への影響も計り知れない。(注8)

(3)環境アセスメントの過程で温暖化の影響が考慮されていない。
 大規模なインフラ・プロジェクトを実施するときには、当然環境アセスメントの実施が必要となる。しかし、1995年8月に改訂されたOECFの『環境配慮に関するガイドライン』には、CO2排出など温暖化問題に関する配慮についてはほとんど言及されていない。何よりも驚くことに、「火力発電」のセクションにおいても、灰塵、硫黄酸化物とともに温室効果ガスのひとつである窒素酸化物(NOx)の排出による大気汚染に関する配慮は入っているが、CO2排出の影響についてチェックする項目は入っていない。そのほか、道路・鉄道、鉱山開発、石油・ガスパイプライン、セメントプラントなど関連する分野のいずれも同様である。

(4)プロジェクトの選定・スクリーニングや計画において、分野別環境アセスメントと最小コスト分析が組み入れられていない。
 現在の日本のODAでは、「増え続ける需要に追いつくための供給サイド(=インフラ整備)のキャパシティ拡大」を目的としているものがほとんどで、エネルギー効率の改善などの省エネ対策や再生可能なエネルギーへの貸付はほとんど行われていない。この原因のひとつとして挙げられるのは、エネルギー分野のプロジェクトを選定する過程で、分野別の環境アセスメント(Sectoral EA)や最小コスト計画が行われていないことが挙げられる。
 最小コスト計画は、石炭・石油、水力、あるいは風力などの新エネルギーといったエネルギーのタイプや、エネルギー効率の改善や需要サイド管理などの省エネ対策など、いくつかのオプションの経済・環境・社会コストを分析・比較し、最もコストが小さく最大の効果をもたらす計画/プロジェクトを選択する。最小コスト計画アプローチに基づけば、新たな発電所の建設に移る前にまず、省エネ対策などで需要を削減し、既存のエネルギー供給のキャパシティを最大限に活用するためのプロジェクトが検討されるべきである。また、エネルギー関連プロジェクトに限らずプロジェクトのスクリーニングの段階で多大なエネルギーを必要とするプロジェクトかどうかにも注意を払い、エネルギー効率化による環境コストの緩和について検討することも重要である。(囲み1参照
 節電・省エネ対策は多くの場合、新規の電力開発に比べて、資金的にも環境・社会的な影響の面でも、場合によってははるかに少ないコストで賄うことが可能となる。あるデータによると、途上国におけるエネルギー効率を改善することによって今後30年間のエネルギー需要の伸びを25%削減することが可能で、これによって新たな電力施設の建設のために必要とされる数百万ドルという資金が節約できる。(注9)このような節約によって、あまったODA資金を教育や健康など貧困解決、あるいは環境/持続可能な開発へまわすことが可能になるはずである。(囲み2参照
 また、風力や太陽熱といった新エネルギーの開発は、途上国でも年々開発がすすめられつつある。たとえば、税制と電力事業規制の改革を行ったインドでは、風力発電の潜在能力は2000万〜5000万kwと推定されている。(注10)しかし、こうした潜在能力をさらに発展させ有効に活用するための投資に日本のODAはほとんど向けられていない。実際には、インドに対するエネルギー関連貸付の約63%が化石燃料関連のプロジェクトに向けられている(そのほか水力発電が25%、天然ガスが14%)。(囲み2参照

(5)貧困層(特に農村地域)の生活改善のためのエネルギー供給を目的としたプロジェクトへの投資は全体のごくわずかにとどまっている。
 現在のエネルギー関連のODAは工業発展に必要なエネルギーの供給を目的としたプロジェクトに集中しており、これに比較して農村地域の電力化など小規模事業はごく限られている。
 これに関連して特に注目するべき点は、日本のODAプロジェクトの案件形成・計画・実施において、契約を受注する民間企業やコンサルタントが重要な役割を担っていることである。これはOECFのエネルギープロジェクトを受注した日本企業やコンサルタントの割合をみても明らかである。日本のODAに係わるコンサルタントの多くが経済インフラの整備を専門としており、こうした企業の利権確保の影響を受けて大規模プロジェクトが優先される傾向が強い。こうした傾向は、特にエネルギー分野の貸付に顕著に現われている。

(6)ODA実施機関にエネルギー分野ならびに環境の専門家が不足している。
 最近、外務省は温暖化対策を視野に入れた省エネや代替エネルギーの案件を積極的に進めようという姿勢を示している。今年6月に発表した「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD構想)」では、地球温暖化への取り組みとして、途上国における対処能力の向上と省エネルギー・新エネルギー等の技術移転を挙げている。また、すでに触れた《京都イニシアティブ》も、このISD構想の一環である。
 しかし問題は、こうした支援を実際に行っていくための専門家が援助機関に不足していることである。現在、OECFには開発第2課に大気汚染の技術顧問が一人いるのみで、エネルギー効率向上や需要サイド管理(DSM)、新エネルギー開発などの専門的知識を持った専門職員がいない。また、環境室の人員体制は8人で、OECFが係わるすべてのプロジェクト(年間約130件)の環境配慮をチェックしなければならず、これは明らかにキャパシティを越えている。

5. 日本のODAに対する提言:持続可能なエネルギーへの援助 

提言骨子

  1. ODA政策については、エネルギー分野実績を見直し、温暖化対策を考慮した新たな政策を策定する。
  2. プロジェクトの選定・計画においては、エネルギー需要を満たし、かつ環境・社会・経済的コストを考慮した最良のオプションを確定する評価方法を義務づける。
  3. エネルギー効率向上と再生可能なエネルギーへの支援を拡大する。
  4. 貧困層へのエネルギー供給を目的としたプロジェクトへの支援を拡大する。
  5. 援助機関における持続可能なエネルギーに関する専門性を強化する。

具体的提言
1. エネルギー分野実績の見直しと温暖化対策を考慮した新たな政策の策定

  1. 現在実施中ならびに計画中のエネルギー関連の援助の全般的なレビューを行うべきである。特に、気候変動枠組み条約ならびに各途上国の温暖化対策計画とエネルギー関連貸付の整合性についての評価を行う。
  2. 温暖化防止と持続可能なエネルギーを原則としたエネルギー分野の経済協力方針・政策を策定する。策定の過程における一般市民・NGOとの意見交換を行い参加を保証する。
  3. 政策の基本方針として、以下を目的としたプロジェクトを優先する。
    1. プロジェクト選定・計画における統合的資源計画ならびに最小コスト分析の実施
    2. 需要側管理(DSM)、エネルギー効率向上ならびに公害防止への支援拡大
    3. 再生可能エネルギー技術を利用した電力開発の促進
    4. 貧困層(特に農村地域)を対象とした小規模分散型のエネルギー供給
    5. エネルギー分野政策の援助実績に照らした実施状況について、定期的な評価を行う。
    6. ODA、その他の開発資金を海外での原子力発電所建設に対する融資に使わないことを明確に宣言するべきである。(原子力発電所の建設は経済・環境的なコストが高く、短期的・長期的な多くの危険とリスクをともなう。)
2. プロジェクトの選定・計画おける環境・社会・経済的コストを考慮した最良オプションの評価方法の義務づけ
  1. エネルギー分野ならびにその他のエネルギー多消費型インフラ整備のプロジェクト、さらに温暖化防止関連のプロジェクトに関する環境アセスメントとプロジェクト・モニタリング、評価については、1)温室効果ガスの影響(排出増/減)、2)エネルギー効率の達成度、の2点についての査定も義務づける。そのための指標と評価ガイドラインを策定する。
  2. エネルギー分野のプロジェクトに加え、その他のODAプロジェクト(特に工業、運輸/交通、農業、都市計画などエネルギー多消費型の開発プロジェクト)についても、エネルギー消費と環境コスト(CO2排出を含む)を最小限に抑え、エネルギー効率の改善を考慮に入れた最小コスト計画アプローチを取り入れる。たとえば交通セクターで大量輸送、自動車にたよらない交通網の整備、自動車の燃費改善などを優先し輸送のライフサイクル・コストと環境への影響を最小限化する。
3. 需要側管理(DSM)を含むエネルギー効率向上と再生可能なエネルギーへの支援の拡大
  1. 新たな発電プラントやダムの建設は、環境・経済的コストがエネルギー効率の対策を実施したうえでさらに必要と認められる場合にのみ、実施を検討する。
  2. エネルギー効率改善については、 (a)既存の発電所や送電・配電設備の機能をアップグレードしたり改修・改善することなど、供給サイドの効率改善への支援;( b ) エネルギー需要全体の削減を図るアプローチを需要サイド管理(DSM)の促進への支援を拡大する。
  3. 特に以下の分野における技術移転への支援を拡大する。
    1. エネルギー効率や再生可能エネルギー
    2. 小規模の分散型エネルギーの普及
    3. エネルギー効率向上やDSMなどを推進するための政策・制度の改善
  4. 能力向上については、統合的資源計画、最小コスト計画、ならびにDSM を実施するための促進するための支援が必要である。これには、持続可能なエネルギー政策・計画の立案、技術移転にともなう維持管理・運営/エンジニアリング面の整備、法制度や行政能力の強化、新エネルギーや省エネに関連する補助金の優先的配分などが含まれる。
  5. 民間セクターのODAプロジェクトへの参加は、エネルギー効率向上やDSM関連プロジェクトへの投資あるいは技術供与を優先的に推進する。
4. 貧困層へのエネルギー供給を目的としたプロジェクトへの支援の拡大
  1. 農村地域の貧困層のエネルギーの基本的ニーズへの対応を目的としたプロジェクトを優先的に支援する。この場合、エネルギーとは電力が最優先とは限らず、調理などの日常生活に必要な燃料などを含む。
  2. 途上国のNGOやコミュニティ・グループ、農業組合などが行う地域条件に適した小規模分散型のエネルギープロジェクトに対しての支援を拡大する。その一つの方法として、途上国にすでに設立されている環境基金への無償資金供与を通じて支援を行っていく。
  3. 途上国におけるエネルギーとジェンダー配慮に関するガイドラインを策定し、専門家を積極的に登用する。途上国の多くの地域では、女性が調理や暖房のための燃料の確保を担っているからである。

5. 援助機関における持続可能なエネルギーに関する専門性の強化
  1. OECF、JICA、ならびに輸銀がエネルギー効率やDSM関連のプロジェクトを積極的に進めていくために、これら分野の専門家を育成する。
  2. こうした専門家が個別のエネルギープロジェクトだけでなく総合的な開発計画(特にマスタープラン)段階に係わり、エネルギー効率化などの点から効果的なインプットできるよう、専門部局を環境室などに設ける。
  3. エネルギー分野のプロジェクトの立案から実施、評価に至るプロセスに外部の専門家やNGOの参加を促すためのスキームを確立する。

囲み1:分野別環境アセスメント(SEA) と最小コスト計画(Least-Cost Planning) 

 従来の環境アセスメント(EA)は、すでに選択された個別プロジェクトの環境への影響を評価し、予想される影響への緩和策などを特定することに焦点が当てられてきた。しかし、このアプローチでは、環境影響を緩和するために計画内容(プロジェクト立地や建設物の設計内容など)を修正・変更することは可能だが、そのプロジェクト自体が環境・社会的コストを考慮した上で最も適切な案件であるかどうか、他の代替案との比較検討が難しい。
 このようなプロジェクトEAの弱点をカバーするため、最近援助機関では分野別環境アセスメント(SEA)の適用が進められている。SEAは、プロジェクトの特定を行う前に分野レベルで候補となるいくつかのプロジェクトについて環境・社会的影響/コストの評価を行う。たとえばある一地域の電力供給の拡大を目的とする計画について、石炭・石油・ガス・水力・風力・太陽光・バイオマスといったエネルギー源のタイプ、あるいはエネルギー効率の改善、DSM、既存の設備の改善といったオプションを検討しする。そして、環境に対する影響やその緩和に要するコストも組み入れて総コストを分析し、このうち最もコストが小さく目標とする効果をもたらすプロジェクトを選定していく。このように、いくつかのオプションから環境・社会・経済的コストを分析した上で最もコストの低い計画を選定していくアプローチを《最小コスト計画》という。

囲み2:エネルギー効率向上・需要サイド管理(DSM)と再生可能エネルギーの開発

 エネルギー効率の改善あるいは向上は、供給サイドと需要サイドの両面において進めることが重要である。供給サイドの効率改善としては、既存の発電所や送電・配電設備の機能をグレードアップしたり改修・改善することなどが挙げられる。一方、需要サイドの効率を改善し、エネルギー需要全体の削減を図るアプローチを需要サイド管理(DSM)という。DSMは電力会社が電力需要者に対して節電のための技術的あるいは資金的援助を与えるなどによって電力需要(特にピーク需要)の抑制を図る。たとえばエネルギー効率の高い電球や電気機器の使用や冷暖房システムの設置、エネルギー効率の高い設備などが挙げられる。
 世銀やADBなどの多国間開発銀行(MDB)のエネルギー政策では、エネルギー効率向上とDSMの推進が強調されておいる。たとえば世銀のエネルギー分野の貸付ではエネルギー効率の改善を行うことが条件となっている。
 一方、途上国ではすでにエネルギー効率やDSMへの取り組みが進められている。タイでは1991年に1億8900万ドルをかけたDSMプログラムが開始され、これによって最大約238メガワットの節電が可能になると予測されている。DSMの普及を進めるInternational Institute for Energy Conservation (IIEC) は、タイではDSMを通じ、新たな発電所の建設にかかる費用の少なくとも半分の費用で2,000MWの電力を確保することが可能だろうとしている。
 一方、過去数年、風力発電による世界的な発電容量は、急速に増加している。途上国でもすでにインドや中国を始め、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、エジプト、インドネシア、メキシコ、モロッコなどで風力発電が進められつつある。インドでは94年に政府が再生エネルギーに対する税制上の優遇措置に着手し、さらに電力事業に関する規制を改正して送電網の独立発電事業者への開放したことががきっかけとなり、インドでの風力発電が急速に広まっている。太陽電池は設置が簡単でサイズもニーズによって調整したりアップグレードすることができるため、特に途上国の農村地域の電化に有効である。94年末時点で途上国の約25万世帯が照明やテレビ・ラジオなど電気器具の使用、水のくみ上げなどに太陽電池を使っている。

注 釈
(注1)World Resource Institute, World Resources 1996-97 (Oxford University Press, New York and London, 1996). World Energy Council, Energy for Tomorrow's World: The Realities, the Real Options, and the Agenda for Achievement (Kogan Page, London, and St.Martin Press, New York, 1993)を参照。
(注2)融資額の米ドル換算は各年度の東京為替市場の交換レートの中値の平均値を用いた。FY 1992:$1=24.73 yen、FY1993:$1=107.79 yen、FY1994:$1=99.93yen、FY1995:$1=96.29yen、FY1996:$1=112.46yen
(注3)セアラ州のパラクルとカモシムに30MWの風力発電所(合計60MW)の建設とそれにともなう費用に対し、60億円(およそ5千万米ドル)の円借款が供与される。この事業は「実用的風力発電のモデルケースとして、ブラジルの他の地方における風力発電事業を促進する」ことも目的としている。(OECFのプレスレリース、1997年8月1日)
(注4)ただし、年次報告書に掲載されているのは「主な」受注企業であり、かならずしもすべてがリストされているわけではない。また、ひとつの案件について必ずしも日本企業のみで実施契約を結んでいるわけではない。
(注5)IPSらは石炭火力発電所の1キロワット時の発電量あたりの二酸化炭素排出量を2ポンド(0.9072キログラム)と仮定した。同様に天然ガス火力発電所、石油火力発電所、ディーゼル発電所の1キロワットの発電量あたりの二酸化炭素排出量は1ポンド(0.4536キログラム)、1.7ポンド(0.77112キログラム)、2.19ポンド(0.993384キログラム)と仮定さした。
(注6)本調査では1992年度から96年度のあいだにOECFからの融資で新しく建設された、あるいは建設が決まった化石燃料火力発電所が排出する二酸化炭素の量に限定して試算を出した。直接・間接に温暖化効果ガスの排出に影響する改修・改善事業や化石燃料資源の開発事業(採掘、パイプライン、精製等)は含まない。また、96年度のOECFによる融資額がエネルギー分野より大きかった運輸分野も対象となっていない。
(注7)中央インドのシングローリ地域に現地の石炭資源を利用した「エネルギー首都化構想」の一部。この計画は世銀やOECF、日本輸銀などの資金を受けて、現在、大規模な火力発電所やダム、工業団地の建設が進んでいる。
(注8) C. Flavin and N. Lenssen, Power Surge : Guide to the Coming Energy Revolution . Robert Goodland, "Environmental Sustainability in the Hydro Industry : Disaggregating the Debate,"in IUCN and the World Bank, Large Dams: Learning from the Past, Loking at the Future. , p93-96. 
(注9)C. Flavin and N. Lenssen, Power Surge : Guide to the Coming Energy Revolution . Patrick McCully, Silenced Rivers : The Ecology and Politics of Large Dams, p220.
(注10)ワールドウォッチ研究所、『バイタルサイン 1995-96』、ダイヤモンド社(1995年)p62

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