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JACSES ブリーフィング・ペーパー・シリーズ
持続可能な開発と国際援助 No.13(2000年1月号)

ODA改革に向けて〜NGOからの提言〜

発行:「環境・持続社会」研究センター


はじめに

過去2年、日本の政府開発援助(ODA)の改革へ向け、様々な提言や議論が重ねられてきた。1997年に98年度ODA予算の大幅削減が決定されだのを受け、「量から質へ」(当時の橋本首相)の転換へ向けた具体的施策をまとめるため、外務大臣の諮問のもとに「21世紀に向けてのODA改革懇談会」が同年4月に発足した。98年2月には同懇談会による報告書が発表された。
こうしたなか、NGO・市民側でも1996年9月に発足しだODAを改革するための市民・NGO連絡協議き(ODA連絡会)では、1997年以来「ODA改革に向けてのNGOからの提言』を作成してきた。1997年6月25日に「総論」を作成、NGO・市民の意見を「懇談会」の最終報告会に反映するよう、数回に渡り申し入れと協議の機会を持った。1999年10月19日には「各論」を作成し小渕首相宛に提出した。この提言は、ODA連絡会事務局であるアジア太平洋資料センター(PARC)、名古屋NGOセンター、地域自立発展研究所(IACOD)が中心となって取りまとめ、46のNGO団体が賛同した(注1)。
この『ODA改革に向けての提言』について具体的な協議を進める第―歩として、1999年10月19日には、NGO・市民と関連11省庁による協議(「ODA関係省庁とNGOとの意見交換会」)が初めて行われた。これまでNGO・市民と政府の対話は、NGO・大蔵省定期協議やNGO・外務省定期協議などで行われてきた。今まで個別に各省庁としか対話が行われなかった状況から、11省庁が―堂に会して市民の前でODAについて語る場が設定されたこと自体は画期的なことである。
1999年8月10日に、今後5年間に渡る開発援助における日本政府の指針となる「政府開発援助に関する中期政策」が発表されており、少しずつながら従来見られなかった政策ならびに制度面での改善も進展しているが、依然として「我が国企業の事業参加の拡大に留意」した国益増進のための国際協力というラインは存続している。
これに対しNGOは、貧困根絶、地球環境の回復、ジェンダー、人権などの地球規模の課題そのものに向けて国際協力が行われるべきであるとしている。「ODA改革に向けてのNGOからの提言」のうち、「総論」ではODA理念を明確にすることを求め、具体的な施策として以下の諸点を挙げている。

(1) 「社会発展分野」への拠出の優先
(2) ODA行政の―元化
(3) ガイドラインの策定とODA基本法の制定
(4) 住民参加を原則とする協力体制
(5) 国会の関与と情報公開
(6) 「地球市民教育(学習)/開発教育」の推進

以下では、各10分野における「各論」のうち、「環境」、「住民参加」、「立ち退き」、「市民社会との連携」について、紹介する。

■環境
1. 背景及ぴ意義

 現在、環境問題は地球規模の課題となり、地球温暖化防止、生物多様性の保全など環境に関する国際的枠組みを作るための勢力がねられている。様々な開発に際しても環境に対する配慮が不可欠である事は、国際的な合意となっている。ODAにおける環境配慮の重要性に関しても、1992年に開かれた地球サミット(UNCED)を契機に認識が高まった。現在では、「環境への配慮」ならびに「持続可能な開発」という観点が開発途上国に対する援助に際して、最優先課題の―つであることは、日本を含むすべてのOECD(経済協力開発機構)/DAC(開発援助委員会)加盟国と援助機関が明確に打ち出している。開発援助は常に長期的な視点に立ち、地球環境および地域環境の保全に努めるべきである。しかしこれまでは貧困根絶のために行われているはずの援助が、貧困な人々の地域環境の悪化を招き、さらに状況を悪化させている場合すら見られた。援助政策には少なく とも地域環境の悪化をまねくよう なプロジェクトは行わないための 原則が必要である。
 開発プロジェクト/プログラム の計画段階で、環境・社会的影響 や持続可能性が考慮されることを 保証するための重要な過程として 環境影響評価(EIA)がある。E IAは、1)プロジェクトに係る環 境・経済・社会的な便益ならびに コストを認識し、2)それらの情報 を広く公開し、3)直接影響を受け る住民やNGOなどからの幅広い 意見を徴集・集約し、代替案を検 討する、という過程を経て最終的 に最良の判断を下すことを可能に する。すなわちEIAは、プロジェ クトにおいて実際に環境配慮を行 うための不可欠な過程であり、提 案されたODAプロジェクトを実 施するかしないかという判断を下 す際の重要な検討要素と位置づけ られる。それに加えて、開発を進 めるにあたっては、実施中のモ二 タリングや実施後の評価も重要 で、環境への配慮は住民参加のも と常時行われる必要がある。

2.現状

1.ODAにおけるEIAの不備

(1)代替案の検討
 現在のEIAは、個別プロジェク トが環境に与えるネガティブな影 響を軽減、または補填することが 中心であり、計画段階での代替案 の検討が不十分で、プロジェクト が環境に対して重大な影響を与えると判断されうる場合も、プロ ジェクトを中止したり停止すると いった選択肢がほとんど検討され ていない。この方法では、個別プ ロジェクトの選択以前の包括的政 策(特にマクロ経済面)に関連す る判断や分野レベルの政策決定段 階において環境的側面を十分に考 慮することは難しい。

(2)EIA実施における住民参加 と情報公開
EIA実施にあたって、―般市 民、特に影響を受ける住民の参加 は最も重要なプロセスである。 DACは、途上国の―般市民の参加 はEIAの基本条件であると勧告し ており、世界銀行のEIAのガイド ラインにおいてもEIA報告書の草 案ができた段階で影響を受ける 人々との協議を持っことを義務づ けている。しかし、日本では多く の場合、住民やNGOにとって満 足のいく協議は行われておらず、 実際、EIAの報告書には誰とどの ような形で協議を行ったかについ て明記されていないことが多い。

(3)EIA実施に関する独立した 監視・モ二タリング
EIAに関する政策やガイドラ ィンは、実際のODAプロジェク トにおいて適切かつ十分に実行さ れていないことがしばしばある。 その原因のひとつはEU実施に関 する独立した監視・モ二タリング 機能が確立されていないことで、 このためEIAを実施する多くの開 発コンサルタントが、プロジェク ト推進者が求めるような結論を意 図的に出している可能性を払拭し きれない。 また、EIA実施に関する援助機 関のアカウンタビリティ―を保証 する上では、EIAの適用が法的あ るいはそれに準ずる拘束カを持つ ことが重要であるが、日本の場 合、ODA大綱には法的拘束力が なく、1999年施行予定の環境アセスメント法も、海外のODA事業には適用されない。

(4)EIA以後の変化への対応
ODA実施中のモ二タリングや 事後評価など、ODA実施にとも なって引き起こされる環境変化へ の対応策が確立されていない。

(5)プロジェクト発掘以前の長 期的・分野横断的視野に立った環 配慮政策
最近は地域統合的視野に立った 開発計画(例えばインドシナのメ コン河流域)が進められている が、この様な広範囲の開発計画に おいては、複数のプロジェクトが地域全体にもたらす複合的な影響 (累積環境評価)あるいは地域環 境評価が必要である。しかし現状 ではそれを実施するための基準が 決められていない。

(6)環境コスト及び社会的コス
トの評価 環境コストや社会的コストを計 画段階において適切に評価する必 要がある。たとえば、プロジェク トを評価する際、経済分析の―環 にも組み込むなどの措置が必 要となるが、不十分である。

2.環境ガイドライン
日本が資金供与しているODA ブロジェクトに適用される、EIA のためのガイドラインについて、 ODAの実施機関の間での統一され た政策や手続きは存在しない。 OECFやJICAは、それぞれに異 なった環境ガイドラインを作成し ているが、その内容等はまちまち である。 JICAは―連の分野別の環境ガ イドラインを作成し.ており、開発 調査やプロジェクト設計の予備的 段階で使用している。OECFのガ イドラインは実際にはEIAのためのガイドラインではなく、環境配慮の指針とチェックリストを提供するもので、一般的で具体性に欠ける。 ODAプロジェクトにおける― 貫したEIAのガイドラインがないため、EIA実施機関(コンサルタント会社)は、被援助国のEIA規定や日本の環境庁他の政府機関 にある技術的ガイドラインに沿ってEIAを行っており、その手続きが 不明確で統―性にかけるととも に、適用したガイドラインに関す る責任の所在があいまいになって いる。

3.ODA供与承認段階での環境配慮に関する評価基準/原則がない
   ODAプロジェクト承認の段階 で、プロジェクトにおける環境配 慮がどのょうに審査されるかは、 環境への影響が許容されうる範囲 のものか否かを判断するための重 要な手続きである。しかし日本の ODAにおいてはプロジェクト承 認の段階での環境配慮に関する政 策や、各省担当者に対するガイド ラインは存在せず、承認手続きへ の環境専門家の関与も限られてい る。

4.環境ODAによる環境負荷の増大
日本のODAにおいては、環境 案件(環境ODA)と銘打って行わ れているものがあり「近年ODA 予算全体に占める環境ODAの割 合は増加してきている。しかしこ の環境ODAの中には、水資源開 発のためのダム開発や、大規模な 産業植林等が含まれ、環境ODA そのものが、環境にマイナスの影 響を与えたり、強制移住を伴うも のであったりすることがある。ま た、環境ODAは、上下水道、廃棄 物処理、水資源開発などの居住環 境の保全に関わるものが大半で、 公害対策や自然環境の保護に関わ る案件は低水準であることが政府の報告書でも指摘されている。

5.環境配応の原則
 日本のODA大綱においても、 「環境と開発の調和」が原則とし て挙げられている。しかし、日本 のODAは現在その約40%が大 規模なインフラストラクチャ―・ プロジェクトに供与されており、 しぽしば対象地の地域住民や NGOから環境破壊的なプロジェ クトであると批判されている。

3.課題

1.EIAに関する―元化された 包括的ガイドラインの策定
 EIA実施のためのガイドライン は包括的、統―的であるべきで、 実施機関の裁量に任せられるよう なものではない。よって、全ての ODA関連機関に共通のEIAに関 するガイドラインの策定が必要で ある。

2.EIAの実施を監視するメカ二 ズムの確立
EIAを、プロジェクト推進ため の過程ではなく真に意義のあるも のにするためには、EIA実施に関 する独立した監視機能を確立する 必要がある。

3.EIAに関する情報公開と参加の補償
EIAの情報に関しては、日本は 情報公開を行っておらず、住民の参加による協議などもほとんど行われていない。このような、代替案を提示・検討する機会を与えられていない現状では、情報公開と参加の保障によって改善されるべきである。

4.代替案の検討
 EIAによって導かれる代替案 は、環境への影響緩和策にとどま らず、根本的な政策変更(プロ ジェクトの中止等)も含まれるべ きである。

5.ODA供与承認段階での環境配慮
 ODA供与の承認段階において、 EIAの結果がどのように考慮さ れ、どのような基準のもとに判断 が下されるのか明確にすべき である。

6.長期的・分野横断的な環境配 慮政策
 ODAの環境配慮を真に実効性 のあるものにしていくためには、 プロジェクトレべルでのEIA手続 きの明確化・厳密化だけでなく、 プロジェクト発掘以前より長期 的、分野横断的な視野に立った国 別環境配慮を戦略的に行う必要が ある。

7.環境に重大な影響を与える環境ODA
 現在の集計方法では、ダム開 発や大規模植林などの環境に重 大な影響を及ぼしているような 案件も環境ODAと分類されて いる。よって、環境ODAに使わ れている予算のうちどれだけが 本来の環境保全・改善目的に向 けられているのか不明瞭である。

8.環境専門家の育成と環境に 関する制度の拡充
自国および被援助国での環境 の専門家や制度が貧弱であり、 専門家の増強および育成や、制度改善が必要である。

4.提言

1.―元化された包括的ガイド ラインの策定
環境および社会影響評価に関 する統―的・包括的なガイドラ インを策定し、すべてのODAプ ロジェクトに共通して適用する。 またガイドラインにはEIAに関 する基本的政策、詳細な手続き (地域社会/NGOの参加や代替 案の検討に関するものを含む)、 分野ごとの遵守事項を明記する。 ガイドラインは強制力を持ち、 遵守されない場合、プロジェク トは却下される。

2.EIA実施についての監視機 能の確立
EIAが計画から実施、評価ま でのプロジェクトサイクルすべ ての段階に組み込まれるよう国 会のODA小委員会などの下に独 立した監視・評価機関を設置し、 モニタリング機能を強化する。

3.情報公開と参加の保障
EIAの結果を、関心を持つ市 民やNGO、特に直接影響を受け 人々に対して対象地の公用語で公開し、これらの人々がプロジェクト準備の初期の段階から意見を述べたり、代替案を る被援助国の人々に対して対象 を提案できる機会を設け、プ ロジェクトの検討に組み込む。 またこれらの人々の参加を促す プロセスを環境ガイドラインに 明記し、情報公開と参加を保障 する。そのための手続きとして プロジェクト承認日の180日以 前に、EIAをすべて公開するな どの措置をとる。公開できない ものは援助対象としない。

4.環境配応の優先
EIA実施においては提案されたプロジェクトによる環境・社 会的影響評価を実施し、それら の影響を最小限にとどめっっプ ロジェクト本来の目的を達成す るための代替案の検討を行う。 検討にあたっては地域住民、 NGOあるいは専門家の意見や助 言を積極的に取入れ、根本的な 政策変更、プロジェクトの中止 も含め、環境配慮を優先させる。

5. ODA供与承認段階での環 境配応のメカ二ズムの確立
プロジェクトの承認段階にお 、て十分な環境配慮が行われる よう、環境配慮に関する政策や ガイドラインを策定し、承認手 続きには環境専門家の関与を義 務づけるなど、組織的なメカ二 ズムを確立する。

6.援助政策において環境配慮を実 現するためのメカ二ズムの確立
プロジェクト発掘以前のより 長期的、分野横断的な視野に 立った環境配慮を援助政策にお いて実現するためのメカ二ズム として戦略的EIAを確立する。 7.環境ODAに環境影響の大きい案件の排除 地域環境・地球環境に重大な影 響を与えるものは、環境ODAに含めない。

8.環境専門家の育成と環境に関 する制度の拡充
学術レべルにとどまらず、市 民、NGOを含めた様々な層から の参加を促し、環境専門家を育成 する。援助国おょび被援助国の環 境配慮制度、能力開発の支援も、 環境ODAとして積極的に行う。

■住民参加

1.背景及び意義
1.背景
1989年12月、DAC(開発援助 委員会)において採択された 「1990年代の開発協力にかかる政 策声明」では、人々の「参加」が 言及された。すなわち「人々の生 産的エネルギーを刺激すること、 全ての人々の生産過程へのより広 範な参加とその成果のより公平な 分配を奨励することは、開発戦略 や開発協力における、より―層中 心的な要素とならなければならな い」というものである。1990年代 の開発援助の最重要課題のひとつ として「産科型開発」が掲げられ でおり、ー国際社会市,において「参加 型開発」の表現が初めて登場した のはこの政策声明であると言われ ている,また、1995年のDAC採 択文書「新世界情勢での開発パー トナーシップ」においては、「経 済・社会生活及び社会的不公正の 削減における、あらゆる人々、特 に女性の参加の拡大」が掲げられ ている。

2.意義
 まず最初に、「住民」とは誰のこ とを言うのか。「住民」と言う ときには、援助国側の住民が含ま れることもあるが、しかし、ここ では「ODA事業の影響を直接受ける被援助国の地域の住民」に限定 する。
 本来、「開発」の主体は住民であ る。どのような開発をおこなうか は個々の住民の判断に委ねられる べきであり、住民自身の価値 観や関心に基づきつつ目標を定 め、戦略を選択し、活動を実施す るのが望ましい。しかしながら、 現実の開発プロジェクトは、中央 政行や外国援助機関などの「外部 者」に相当する者によって企画・ 実施されることが多い。だからこ そ、現状のプロジェクトの全ての 段階において住民が「参加」して それを改善していくことが不可欠 となり、外部の援助する側は住民 参加の内容を実質的なものにするよう努力することが肝要となるのである。「住民参加」が意味すると ころは、「開発」の当事者である地 域社会の住民が、開発プロジェク トの全過程(特に意思決定過程) に主体的に関わり、力を発揮する ということである。 その意義は以下に挙げる点であ る。

  1. 住民のエンパワメントとオ― ナ―シップ(参加の経験から住民 が開発の主体としての自覚をも ち、経済的・社会的・政治的力を もつようになること。)
  2. 地域社会の民主化(住民参加が 促進されることによって、地域社 会が民主化される可能性が高い。)
  3. プロジェクトの持続性確保
  4. プロジェクトの効果・インパク トの向上

2.現状(問題提起)

1.「住民参加」に関する政府の意 思表明の不在
 1992年6月に閣議決定された ODA大綱には、「4.政府開発援 助の効果的実施のための方策」の 中に「(12)開発への女性の積極的 参加及び開発からの女性の受益の 確保について十分配慮する」とい う女性の参加への配慮が示されて おり、また、「5.内外の理解と支 持を得る方法」として被援助国で はなく、日本の「国民の参加を確保 するため」の方策を講じている。 しかしながら、プロジェクトへの 地域住民の「参加」に関する言及 はない。

2.不明確な「住民参加]の概念 と連用
JICAは1995年に「参加型開 発と良い統治(分野別援助研究会 報告書)]を作成した。この報告書 には開発の中小が「開発にかかわ る人々の社会的能カの育成・向上 にあるべき」であり、そのために 「『参加』が重要である」と書かれ ている。ただし、これはあくまで も研究会の報告書であって、その 内容は実際のODA実施に対して なんら拘束力をもたない。また、 JICAの活動においては住民参 加を計画当初から組み込んだプロ ジヱクトが実施されてぃるケ―ス もあるょぅだが、「住民参加」を促 進するような取り決めはなく、ガ イドラインも設定されていない。 また、OECFでも、「環境配慮の ためのOECFガイドライン(第 2版)」(1995)の中に、プロジェ クトの計画と実施にあたって「移 転住民への配慮」を促すという言 及はあるが、「住民参加」の概念と その運用に関する言及はなされて いない。
以上のように、ODA実施機関では「住民参加」の概念やその運 用は明確にされていない。また、 現行の「参加型」プロジェクトで は、プロジェクト推進のために、 住民からの情報収集や住民の「動 員」が行なわれていることが多 い。それは「1・背景および意義」 で言及したような、住民を開発の 主体として捉えるという考え方と は相客れない「参加」である。

3.住民参加を難しくするプロ ジェクトの規模と数
日本のODA実施機関では職員 ―人当たりが抱えるプロジェクト の数や金額が他の先進諸国や世銀 に比して格段に高く、また、「住民 参加」に対してきめ細かい配慮を するための実施体制が整っていな いため、大規模インフラ・プロ ジェクトでの「住民参加」の実現 は難しい。さらに、増加するOD Aの額を大規模プロジェクトを進 めることで満たしてきたために、 「住民参加」が―層困難となって いる。

4.不十分な住民意思の確認
「住民参加」を実現する前提と して住民が自由に意思、を表明でき る環境の確保が必要であるが、公 聴会が開かれても住民の意見聴取 もなく、上からの―方的な通達に 終わることがある。つまり、住民 の意思、を確認し、プロジェクトへ の合意を得るようなプロセスが不 十分である。

3. 課題

1. 「住民参加」に関する意思表明
 日本のODAが「住民参加」の 質を高めていく上で必要なのは、 「住民参加」を日本のODA政策 の中心に据えていくという意思表 明である。

2.「住民参加」の概念の明確化と 原則の文書化
 日本のODAにおける「住民参 加」とは何かを明確にし、実際に 援助実施機関によってどのように 取り組みがなされるべきかについ ての原則を文書化する。

3.「住民参加」保障システムの整備
 実質的な「住民参力山を保障す るシステムを整える。

4.提言

1.「住民参加」に関する意思表明
 ODAに関係する全ての省庁・ 組織が「住民参加」を日本のOD A政策の中心に据えていくという コミットメントを表明する。

2.「住民参加」の概念の明確化と 原則の文書化
 「1.背景および意義」で述べた 「「開発]の当事者である地域社会 の住民が、開発プロジェクトの全 過程(特に意思決定過程)に主体 的に関わり、力を発揮すること」 という「住民参加」の概念を明確 化する。その概念を基礎として、 NGOを含む多様な専門家の参加 の下、原則を文書化し、すべての ガイドラインに適用する。

3.「住民参加」保障システムの整備
(1)プロジェクトの適正規模および専門家の配置
 プロジェクトの実施にあたって は「住民参加」が保障される規模 で行ぅ。さらに、参加推進のため に専門家を配置して、プロジェク トの柔軟な見直しを可能にする。

(2)住民との協議プロセスの改 善と住民合意の義務づけ
 意思決定や経済活動等に対する 地域社会の権力構造の影響の排除 (有力者による支配の回避・是正) に努め、弱い立場にある住民(最 貧困層、女性、先住・少数民族等) の参加を保障する。また、開発プロジェクトに関するあらゆる情報を公開し、住民と議論するチャンネル を常に広く開けておく。その際には対象地域の言語で行い、住民に対しては自由に意思を 表明できるよう保障する。

(3)「住民参加」に関するレポ― トの作成
 援助国側のプロジェクト担当者が定められた原則に基づいて「住民参加」に関する報告書を継続的に作成し、公開する。特に、プロジェクト 実施前の段階で、住民の 合意に至るまでのプロセスを明らかにする。

(4)「住民参加」を扱う部署の設置
 ODA実施機関内に「住民参加」に関する問題を集約的に扱う 部署を設置し、「住民参加」のため のアプロ―チに関する手法・経験 (成功や失敗にっいての情報)を共有できるようにする。

■立ち退き

1.背景および意義

 世界銀行の報告によれぱ、19 86年から96年の10年間に約 400万人(94年から96年は 推定)の人びとが世界銀行の融 資・貸付プロジェクトの実施にと もなぅ立ち退きを余儀なぐされて きたという。
日本 政府によるODAプロジェ クトにおいても、特に国家の工業 開発/経済成長を目的とする道 路・港湾・工業団地,ダム等の産 業基盤整備プロジェクトの実施に ともない、住民立ち退きが世界名 地で起こっている。例えぱ、19 94年6月、フィリピン・バタン ガス港湾拡張工事案件で引き起こ された流血事件は、その後の対庄 も含め日本 政府の立ち退き問題に 寸する無関心・無策・無責任ぶりを示す象徴的な惨事であった。
 開発にともなう立ち退きは、し ばしば貧困層、先住民族をはじめ とする社会的弱者の居住地域で生 じている。開発の結果、より弱い 立場にある住民がより大きな犠牲 を強いられるのだとしたら、かり に日本政府および被援助国政府が 経済的効果、政治的安定、あるい は国際社会におけるリーダーシップ(例えば常任理事国ポスト)など を獲得したとしても、日本のODA政策は、その根本において、最も援助を必要としている人びとを軽んじている、との批判を免れない。
こうした批判を退け、以下で述 べるのようなODA事業で発生す る住民立ち退きの主な問題点を解 決するためにも、ODAにおおる 立ち退き問題に関して政策がなさ れる意義は大きい。

2.現状(問題提起)

1.住民が生活基盤を奪われ、生活全般に悪影響がでる。
 プロジェクトの実施にともなう 立ち退きで、事業地内に居住する住民は、居住空間はもちろん、立ち退き前に享受していた生活基盤に対する所有や用役権等の 様々な形態のアクセスを奪われる。事業地外に居住する住民でも、事業地内に重要な生活基盤がある場合には、同様に生活基盤を奪われ、 結果として住居を移転せざるを得なくなるケースもある。更に、立ち退き自体がしばしば直接的暴力の行使をもって執行されたり、 立ち退き前後に様々な威嚇が住民に対して行われたケースもある。
 ここでいう生活基盤とは、収入(現金・現物)や収入獲得を可能にさせる資源(農地や市場等の土地スペース資源・井戸 水や灌漑、河、海岸、海等の水資源・収入獲得に係わる人間関係)、社会的・精神的 安心や身体的健康を育む資源(近 隣関係や家族関係、居住空間、自 然環境を含む住環境・教育や保健 等のサ―ビス・宗教)を指す。こ れら資源には、個人のものもあれ ぱ、共有のもの(伝統的共有地を 含むものもあるし、目に見えるもの もあれぱ、見えないものも含まれ る。
 "公共"の名の下で実施される 開発事業にともなって住民立ち退 きが発生するが、立ち退きで奪わ れた住民の生活基盤に対する国家 補償がなかったり不十分である場合が多い。また、補償がなされた場合でも、その内容をみると、僅かばかりの 経済的補償のみというケースが少なくない。 立ち退き後 の住民に立ち退き以前と同程度若 しくはそれ以上の生活を継続的に 営めるように支援/保障するもの とはなっていないケ―スが多い。 さらに、移転前に約束された補償 が、しばしぱ実施されなかったり、縮小/減額されていたり、時宜を得ていないのものも多い。
 このような補償の問題のため、住民は立ち退き後、経済面だけでなく、社会面や精神面でもダメージを被るケースが多い。 具体的には、生業の喪失、収入減少、劣悪な住環境、共有地の接収、地域社会の崩壊となって現れる。 立ち退き後の生活環境の急変に対応できず精神的ダメージを受ける高齢者のケースも見られる。
 また、立ち退き住民が社会的弱者(先住民・貧困世帯・”無権利”居住者・小作農・土地なし農民・零細漁民等)である場合も多く、ODAプロジェクト実施による立ち退きてその補償問題とあい まって、彼らの更なる困窮化を招いている。

2.意思決定への住民参加,及ぴその前提として情報開示が不十分
 立ち退きをともなう事業計画/ 立ち退き計画の立案・計画内容策 定・実施・評価といった事業プロ セスの意思決定への住民参加が保 証されていなぃ。名ばかりの「住 民参加」、例えぱ―部地元有力者 や地主だけが参加する"話し合い "とか、はじめから立ち退きと既 定の補償内容を前提とした"話し 合ぃ"が行われはじめたが、これ では"意志決定への住民参加”とは言えない。また、現地政府/開発事業について自らの意思、声を 上げる事自体がリスクをともなう 状況下では、住民が"話し合い"に 参加したといぅ結果/形式がもっ ともらしく見えても、これもまた "意思決定への住民参加"とは言 えない。事業プロセスの決定は、 援助国・被援助国政府おょび実施 機関といった開発者だけが行ぃ、 住民は意志決定過程から実質的に 排除されているケ―スが多い。
 意思決定への参加の前提とさ れる情報開示も不十分で、住民に とって必要な情報が簡単に入手で きるょぅな配慮がなされていない (avaiIabIe/accessibIeでない)ケ― スが多い。

3.開発者側の問題
 援助機関/供与国側は、立ち退 きとその補償は現地 政府の實任事 項とし、現地政吋からの報告(住民の声が記載されていなかったり、現地政府に都合のいいように加 工されているようだ)を受取るこ とで満足し、あまり関心を払わな いでいる。
 ―方の開発者側である現地 政府 には、住民との話し合いや立ち退 きに必要とされる金や時間といっ たコストをできるだけ低く押さえ る傾向がある。限られた総事業予 算の中で、立ち退きに十分な予算 を割けない、といった現地政府の 財政事情が背景にある。また、現 地政府の担当官も住民を開発プロ ジェクトの障害とみなす傾向があ り、住民の声に真撃に耳を傾ける 者は少ない。

4.住民が開発の受益者となってい ない
住民は、開発の重要なパート ナーとして参加することを否定さ れ、排除されるべき者連とされ た。結果、開発の受益者としてで はなく、被害者として立ち退き後 の生活を始めなければならなかっ たケースが多い。
 ODAプロジェクトは、「公共の 利益」という名の下に公金を投入 して行われる開発プロジェクトで ある。しかし、何をもって「公共」 とするか、住民立ち退きの状況を 見ると、多くの場合、合理性に乏 しい。

3.課題

 大規模開発の時代における必然 とも言えるこうした犠牲に対し て、世界銀行、経済協力開発機構 (OECD)、アジア開発銀行(A DB)などの国際機関は詳細なガ イドラインを策定し、被害を最小 限に留めようとの提言を行ってい る。しかしながら、拘束力のない ガイドラインは援助国、被援助国 双方により踏みにじられることが 通例である。
 ―方、日本のODAでは、主と して貸付案件を実施する海外経済 協力基金(OECF)によって策 定された「環境のためのOECF がイドライン」(1995年8月発 刊において「移転を余儀なくさ れる住民の生活状況等について検討され、所要の措置が講じられる 必要がある」と漠然とした注意事項が簡単,述べられているに過ぎ ない。その認識の低さは、過去、現在、さらに予定されている案件、に よって生じる立ち退き住民に関す る統計的な報告もなく、各案件の 事前調査報告書などにおいて立 ち退き問題に関する議論がほと んど皆無であることなどにも顕著 に現れている。
 こうした現状を打開し、「援 助」の名にふさわしいODAを立 案・実施するためにも、多くの社 会的弱者が切り捨てられる問題の 典型的な―つである立ち退き問題 について、厳格かつ拘束力のある ガイドラインの策定が強く求めら れている。

4.提言

 以下は、上記の観点から提示す る方.ち退き問題に対するガイドラ インの枠組みである。

l.「立ち退き住民」の定義
 このガイドラインの適用の対象 となる「住民」とは、ODAによ る開発事業によって居住権を脅か され、結果的に移住したすべての 者をいう。これら「住民」は、大 きく次の二つのグループからな る。(以下、「住民」と表記する。)

  1. 開発事業地に居住していたた め家屋など居住の場を移すことを 事業者から求められた者。

  2. 開発事業地外に居住していた が、開発事業によって生じた騒 音、環境破壊、収入機会の減少・ 喪失、資源の減少、人口の激減な どにより生活することが困難とな り、その結果、移転せざるを得な い者。

2.「強制退去」の定義
 国連社会権規約委員会「一般的意見7」(1997年)によれば、「強制退去」とは「適切なかたちの法的 もしくはその他の保護を与えられ ることも、それらへのアクセスを もつこともないまま、その意に反 して、個人や家族やコミュニティを、占有中の住まい(home)およ ぴ/もしくは土地から、恒久的ま たは―時的に移動させること」で ある強制力による退去が例外的 に許される可能性もあるがそれ は国内法に別り、かつ、国際人権 規約の関連条項に厳格に従いそ して妥当性と均整の―般的原則に 基づいて為される場合であると されている。」の際に欠かせない のは、たとえは退去を被る当事者 自身との誠実な事別協議によって 代替案が検討される」とや、人権 保障の救済措置がとられる」とで ある。また、国連人権委員会は「強 制退去は、人権、とりわけ居住の 権利の重大な侵害である」と宣言 した(決議1993/77。日本政府を含 む全会―致)。これらを踏まえて上記「一般的意見7」は、「強制退去に関する世界銀行やOECDの ガイドラインが国際人権規約の義 援助機関と当該国政府の双方がこ れらカイドラインを最大限に尊重 することが肝要」であるとしてい る。すなわち少なくとも規約締結 国同士の援助事業にあっては、人 権侵害を導く強制退去を伴うような事業を避ける」とは、国際人権 上の法的務となっている。

3.「住民」参加の原則
「住民」は開発の重要な―当事 者であり、彼等の意思は、立ち退 きを発生させ得る事業の事業立案から事業認定、実施、事後評価に至るプロセスにおいても、立ち退きを決定した場合の補償を含む立ち退き事業のプロセスにおいても、最も尊重されなければならない。その為に、「住民」が事業の立案から事後評価に至るブロセスで事業実施者と対等な発言権を保障されたうえで意思決定に参加することを保証する。  この意思決定を確実なものにするため、「住民」には最終的な拒否権を保証する。立ち退きを伴う場合でも、補償を含む立ち退き事業の内容が決まらないうちに、立ち退きをともなう事業の認定に踏み切ってはならない話し合いによる意思決定のためにも、立ち退きを巡る話し合い中はもちろん、実施に際しても、いかなる暴力の行使をも認めない。

4.十全なる補償
 不本意な立ち退きにより被る「住民」の不利益は可能な限り最小限に抑える。したがって、立 退き後の生活の質が低下するようなことがあってはならない。その為に、金銭補償だけではなく、物品補償などあらゆる選択肢とその組み合わの中から、最適な補償内容について話し合いを通して決定し、適切な時期に実施する。

(1)経済的補償
 可能な限りトータルな補賞を行う。つまり、―時的な雇用や金銭補償だけでなく、「住民」の生業が継続できるような補償を金銭や生活基盤の提供を通して行う。例えば、農民には代替農地、漁民には船溜りや海岸へのアクセスなど彼等の生活基盤を提供することも補償の選択肢の―つに加えられる。また生業転換が行われる場合は、必要な技術訓練や資金を供与し、直後には、食糧の供給等生活保障に意味を持っ共同財産にっいてもも行う。個人の財産や生業に対する補償だけでなく、集落の経済的適切な補償を行う。

(2)社会的・文化的補償、及びその他の補償
 「住民」およびその地域社会が有する伝統的・宗教的・文化的価「住民」の意志に反して侵してはならない。社会的弱者(老人・先住 民族)への配慮も行う。地域社会の対立や摩擦を煽るようなことは慎む。また、移転先でも医療・教育等の基本的サ―ビスが受けられるように考慮する。

 モニタリングを実施する。その結果、開発実施機関・相手国政府による武力・暴力行使が発生した場合、あるいは「住民」の不利益が明らかになった場合は安・業を中止することができる。認定後あるいは工事開始後であっても、補償その他で「住民」の不利益が明らかになった場合は、「住民」の要請に基づき事業は中止することができるものとする。

5.補慣のための無償資金協力
 被援助国で十分な予算措置がとれない場合、注民との話し合い及ぴ土地収用、補償を含む立ち退き計画は無償資金協力の枠で補填する。

■市民社会との連携

1.背景および意義
 ODAとNGOの連携については、政策形成過程レべルと事業実施過程レぺルの二っの面がある。この二つを共に推進していくことが、ODAの改善にっながる。また 政策と実施は―貫性がなければならないのと同様に、ODAとNGO の連携についても政策レべルと実施レべル両者でのNGOの参加が必要である。河合報告書においては、ODAに対する「国民参加」がうたわれているのであるが、実施レぺルのみの連携が強調され、政策形成レべルでの市民の参加が無視されている。ODAが国民の税金によってなりたっている以上、ODAのアカウンタピリティ向上のためには、政策形成面における市民社会の参加が不可欠である。
 ここでいうNGOには、日本のNGO、国際NGO、地元のNGO、住民組織が含まれる。ODA政策立案および実施過程に参加すべき主体は、まずは住民組織である。地元NGO、日本のNGO、国際NGOは、あくまで住民組織と日本のODAの間の仲介者、媒体としの役割を果たすべきだからである。―方、日本のNGOの政策提言能力、事業実施能力の現状をがんがみれば、両者とも日本乙NGOの能力強化を支援する必要もある。
 政策形成レべル、事業実施レベル共に共通して言えることは、NGOとODAの連携強化は、ODAの社会開発分野、貧困根絶重視、ジェンダ―や環境に対する配慮の 主流化に貢献するという点である。NGOにとってのODAとの実施レべルにおける連携の利点として、事業のインパクトの強化、レプリカの促進、対象国のマク口政策改善にっながるという点がある。

2.現状(間題提起)
 事業実施レべルでの連携には、補助金、事業委託、共同事業がある。補助金は、NGOが立案実施、ODAが部分的に資金提供、評価を行う制度である。日本では補助金制度は89年に外務省が「NGO事業補助金」と「草の根無償資金 協力」を開始、その後その他の ODA省庁が開始した。事業委託 は、立案と評価をODAが行い、実 施をNGOが行うものである。 JICAが地元NGOへの委託を97年 度に「開発福祉支援事業」という スキームを、日本のNGOへの委 託制度として99年度に「開発パー トナー事業」というスキームを開 始した。両スキームともNGO側 の事業提案を保障しているので純 粋な「委託」とは言えない。共同 事業は、立案・実施・評価をODA、 NGOが双方の資源を出し合って 行うもので、NGOも経費の何割 かを負担する。日本では共同事業 のスキームは今のところない。
 事業実施レべルの連携強化は、 河合報告書の答申にうたわれ、急 速に拡大発展する傾向にある。し かしながら、「連携」の内実が問わ れなければ、ODAの質の貢献、 NGOの能力強化につながらない ぱかりか、NGOをだめにしてし まう恐れがある。重要な点は、両 者の違いを双方が認識、立場を哀、 めた上で、NGOの財政面での自 立性、理念・活動面での自律性を 保障していくことである。前提と して、NGOを下請けとして使う のではなく、パートナーとして共 に仕事をするという理念を確立す ることが必要である。
 政策立案レべルでの連携に、外 務省―NGO、大蔵省―NGO、JICA -NGOの間で年に4回程度の定 期協議会が開かれている。この 他、92年の地球サミット以降、国 連が主催する会議にあわせてイ シュー・テーマ別のNGOフォー ラムが作られ、日本のODA政策 についても会議の前後に政策対話 が行われた。

3.課題

 事業実施レべルにおけるNGOの参加は急激に進みつつあるが、 政策形成レべルにおけるNGOの 参加はいまだ不十分である。この ことは、二つの問題点をもつ。第 ―に、ODA政策に市民社会の声 が反映されず、その結果ODA政 策が改善されにくいこと、第二 に、NGOがODAの下請け機関に なってしまうことである。
政策形成レべルにおいての現状 は、重要なODA政策文書、たと えぱODA中期政策、国別援助計 画の形成過程にNGOは参画して ぃなぃ。これまでの「懇談会」や 「審議会」のメンバ―構成をみる こ、そのぼとんどが男性でしかも 官僚OBか大企業役員などであっ た。最近は申し訳程度にNGOか ら―人入れるょうになった。これ はこれまでのODAが日本の「国 益」、「企業益」のためであったこ との反映である。ODAを貧困根 絶、社会開発重視のものに変えて いくのであれぱ、意思決定過程に 市民の声を反映させるメカ二ズム を形成すべきである。
審議会構成の問題の背景には、 日本政府は「民間」といぅ概念を 「企業セクタ―」と混同している こがある。この点は、たとえぱ、日 米コモンアジェンダの日米の諮問 組織の違いにみられる。米国側の 諮問機関の代表は、NGOの連合体の代表が務めているのに対して、日本側の諮問組織の代表は、財界代表である。地球サミット以 降、―連の国連の会議の宣言や行 動計画の中で繰り返しうたわれて きた、政府、企業、市民社会の3 者の協力と連携が持続可能で公正 な地球社会の形成に不可欠である という点を日本政府は認識すべき であろう。
事業実施レべルの連携について は、以下の課題がある。補助金に ついては、1.人道緊急援助支援ス キ―ムの強化、2.草の根無償の実 施体制の改善があげられる。委託 事業については、1.NGOとの連 携についての理念の確立、2.実施 手続きの改善を行う必要がある。 共同事業は、NGOの自律性・自立 性を保障する制度なので、連携の 在り方として最も望まい。日本 のNGOの専門性、能力強化を支 援しながら共同事業の可能性を検 討していくことが求められよう。

4.提言

1.政策形成レべルにおけるODAと NGOの連携についての提言

(1)政策文書作成過程における NGOの参加
 中期政策や国別援助計画を作成 するにあたっては、草案作成過程 からNGOの参加を求める。検討 委員のメンバ―にNGOの代表を 入れ、意見交換会の場を東京だけ でなく地方で数回設ける。特に中 期政策にっいては、中間まとめの 段階でホ―ムぺ―ジ等を通じて公 表し幅広く意見を聴取するなどの 方策をとる。男女共同参画審議会 の答申の形成過程においては、市 民・NGOとの意見交換会・説明会 が東京と地方で計12回開催され、 パブリックコメントをホ―ムぺ― ジや小冊子を通じて幅広く募集し た。このような先例をODAにも 活かすようにする。

(2)審議会や懇談会へのNGOの参加
 ODA政策に関わる各種審議会や懇談会、諮問機関の構成を根本から変える。男女比率を半々にすること、貧困根絶、社会開発に関 わってきたNGOのメンバ―を増 やすこと、また人選のプロセスを 明確にすること、NGO代表は、 NGOの間で選ばせることを行う。

(3)中期政策のレビュ―と見直し
NGOと共にODA中期政策の実 施状況のレピュ―を毎年行う。特 に、「新開発戦略」と「20:20協 定」については、具体的にどこま で進展したかをODA予算配分に合わせて毎年見直していくことが 必要である。経済・社会インフラ への支援については、OOFや民間 資金の流れが「新開発戦略」の目 標値達成に役立っているかどう か、グロ―パリゼーションのネガ ティブな側面を助長して。ないか について環境と地域社会へのイン パクトの視点から検討する。

(4)国会におけるODA小委員会 の設置
 ODAを律する法律がない今日においては、少なくとも市民がODA政策・実施状況を監視できるメカニズムが必要である。 そこで、国会のODA行政への関与を 高めるために、国会にODA小委 員会を設置する,ODA小委員会 の役割は、対外援助に関する政 策・予算、実施状況、個別プロジェ クトにかかわる問題を審議するこ とである。

2.事業実施レぺルにおけるODAと NGOの連携についての提言
(I)地元NGOとの連携の促進
 カナダのCIDAがフィリピンで 実施しているPDAPのような、地 元NGOと日本のNGO、ODA機関 の3者の協力による共同事業を実 施できるような制度を確立する。 草の根無償については、現地で活 動するNGOのコンソーシアムに 案件の発掘や審査、モニタリング を委託する。国別援助計画の立案 においても、ドラフトの段階で現 地のNGOのコンソーシアムに公 表し、コメントを求める。また、在 外公館、ODA実施機関の現地事 務所においては、NGOとの連携にかかわる事業の実施要員として、対象国でのNGO活動経験者をコンサルタントとして、あるいはNGOスタッフの出向という形での雇用を促進する。

(2)パートナーシップについての理念の形成
 補助金にせよ、事業委託にせ よ、実際に本事業を実施してぃく 上で、ODA実施機関がNGOを「下 請けとして使う」ことが無いよ う、ODA実施機関がNGOと開発 協カの「パ―トナ―として共に働 く」という理念を明文化し、NGO に配布する文書おょびODA実施 機関の業務指針に明記する。その 時、パ―トナ―シップを保障する ための条件を提示しておくことが 重要である。1.NGOの主体性を 尊重すること、2.意思決定は双方 の合意のもとで行うこと、3.相互 の信頼を築くように互いに努力す ること、4.NGOと共通の目標を 共有することを、最低限の条件と する。

(3)実施手続きマニュアルの作 成と研修の実施
NGOとの連携は、ODA実施機 関にとって新しぃチャレンジであ るため、最低限の手続きをODA機関の現場スタッフが理解し、実施するためのマ二ュアルを作成 する。作成にあたっては、NGOの 意見を聴集する。マ二ュアルの内 容としては、手続き、プロジェク ト管理やモ二タリングの方法に加 えて、NGOとのパ―トナ―シッ プ形成の考え方と方法などを含む べきである。特にNGOの主体性 の保証にっいては、明記する。 ODA実施機関、NGO双方の義務 と権限、役割をお互いが理解すべ きなので、マ二ュアルはNGOに 公開する。マ二ュアルの公開は、 NGO側にとっても事業の効率的 かつ円滑な実施のために有効であ る。またNGOに関わる事業を担 当するODA機関の職員を対象に NGOとのパ―トナ―シップ形成 に関する研修を実施する。

(4)事業の透明性、情報公開の保障
NGOの比較優位である住民参 加、保健,教育セクタ―、環境・ ジェンダ―配慮といった部分を NGOに委託するにあたっては案 件の全体をNGOに公開する。こ の点が保障されなければ、たとえ ぱ大規模インフラ 整備のようなそ れ自体が社会・環境に悪影響を与 える案件のセ―フティ―ネットの 役割をNGOに委託する恐れがあ る。

注1)ODAを改革するための市 民・NGO連絡協議会について詳し くは、ホ―ムぺ―ジをご覧ください。

囲み1:環境

99年8月に発表されたODA中期政策では、「環境に与える影響次第では(案件を)実施しないこととし、必要に応じ代替案を含めて検討する」 という表現が入った。今後実際にこの通り、案件の停止/代替案の検討がなされていくことが重要である。EIA(環境影響評価)実施の際 の住民参加や情報公開に関しては、「相手国側の制度等を踏まえた地域 住民の参加や情報の公開が重要であることに留意する」と言及されてい るが、あくまで「留意する」という表現に止まっている。案件により影 半を受ける住民の参加は、状況に応じて軽んじられることがあつてはな らない最も大切なプロセスであり市報公開は参加を保証するための必 要条件である。情報公開と参加は必ず保証されるべき原則として、環境 ガイドラインに明記されることが求められる。―元化された包括的ガイ ドラインの策定およびEIAを実施する際の独立した監視・モ二タリング 体制を始めとし、十分なEIA機能確立のために残された課題は多い。参加による協議などもほとんど行 われていない。このような、代替 案を提示・検討する機会を与えら れていない現状は、情報公開と参 加の保障によって改善されるべき である。

囲み2:住民参加

ODA中期政策(99年8月)における住民参加に関する記述は部分的でしかな い。「保健医療」では「住民の参加及びNGOとの連携を柏極的に進める」と し、「開発途上国における女性支援(WID)/ジェンダ―」では「男女の均等 な開発への参加」が必要なことから「女性支援の視点が大切である」とされ ており、また「基礎教育」の箇所において「開発の主体である住民」という 表現がなされている程度である。「住民参加」をODA政策の中心に据えて行く という意志表明からはほど遠い現状だ。
また、「国民の理解と参加の促進」として、被援助国ではなく日本の国民の 参加に関しては「様々な年齢層の参加・協力を得てのODAを実施していく」と 言及されているが、「開発」の当事者である地域社会の「住民参加」の概念を 明確にしていくことが求められる。

囲み3:立ち退き

 ODA中期政策(99年8月)において「立ち退き」に言及している箇所はない。 「経済・社会インフラへの支援」の箇所において、「地域社会・地域住民への影 響及び環境保全に十分配慮する」という記述はあるが、移転を余儀なくされ生 活全般に影半を被る「立ち退き」住民への認識はたいへん低い。特に、立ち退 きを伴う事業計画,立案/計画内容策定・実施・評価という事業プロセスの意 志決定における住民参加の保証が不可欠である。

囲み4:市民社会との連携

 ODA中期政策(99年8月)は「NGO等への支援及び連拐」について、「住 民に直接行き渡るきめ佃かな援助への需要が増加」している桔果として、 「NGOとの連携の必要性が箸しく高まっている」と帰桔している。ここにお いては、NGOとの連携が援助手法の質の改善のため、その手段として説明 されてぃるのみである。また、「国民の理解と参加の促進」の箇所におぃ て、「民間企業、地方自治体、NGO、労使団体等の福広い協力と参加を得て ODAを実施するよう努める」とあるが、これはあくまでのODAに対する(市民 による)「幅広い理解と支持を得るため」とされている。
 市民社会との連携とは、国民の税金から成っているのODAのアカウンタピ リティ向上のため、また援助国及び被援助国の市民社会(民主主義)の成 熟のため、不可欠であるという認識が大前提である。よって連携とは、「理 解と支持」を深めるためではなく、政府と市民が政策の方向牲の決定およ び事業実施過程において、共働するためにある。
 「基礎教育」、「保健医療」、「人口・エイズ」および「紛争と開発」におけ る難民問題にといては、「NGOとの連携を積極的に進める」というように、 事業実施追程レぺルにおける連携はいくつか言及されているが、全般的に、 政策形成過程レべルにおける市民社会との連携に関する指針は見られない

ODA改革に向けてのNGOからの提言・各論  -要旨-

■ODA実施の手続き
 ODAが受益者のために供与され るため、実施手続きの簡素化、透 明化が必要。EIA(環境影響評価) /SIA(社会影響評価)を行う時 期・方法を徹底し、その実施にあ たってはNGOを含めた様々な立 場の専門家により開発の初期段階 から行い、ODA実施の停止・中止 も含まれるべき。EIA/SIAには統 ―された諸分野(環境・ジェン ダーなど)のガイドラインが必要 である。その策定過程における公 開と、NGO参加の確保、OOFや 貿易保険も含めたガイドラインの 適用、さらに国会でのODA小委 員会やODA独立審査パネル(第 三者による機関)の設置による チェックも含むものとする。

■ジェンダー
 (社会的文化的性差)

 日本政府はこれまでの開発援助は 女性の貧困化を助長してきたとい う認識が欠けている。WID (Woman ln DeveIopment)は開発・ 援助政策の副次的項目として捉え るのではなく、開発におけるジェ ンダー概念を中心に据えたGAD (Gender And DeveIopment)を目指 して現場でのすべての段階におけ る女性の参加を保証し、これに向 けた研修と、GADの視点を入れ たガイドラインの改訂をする。

■情報公開
 ODAに関する情報公開は被援助 国の民主化に寄与し、住民参加を 保証する最低限の必要条件。 ODA実施機関は、統―的な情報 公開政策を掲げ、そこではプロ ジェクトの計画段階から、すべて の関連文書を公開対象とし、文書 は被援助国および国連の公用語に 翻訳する。文書管理の徹底と、審 査会の設置による不服由し立てを 行い、罰則規定を作る。

■先住民族
 都市部以外での開発プロジェクト の多くは先住民族の居住地である が、こうしたプロジェクトは社会 の多数派の利益を主眼としてお り、広大な生活圏と自然環境なし に文化を守ることは不可能である 先住民族の利益を無視している。 先住民族の生活スタイルは自然環 境を保全する営みであり、地球環 境保護の観点からも先住民族に影 響を与えないよう十分な配慮が払 われるべきである。先住民族が開 発に伴う被害を受けることなく、 開発の恩恵を受け、初期段階から 計画に参加するため、先住民族の権利を保証するためガイドラインを制定すべきである。これには生存 権・開発に関わる権利・土地権・ 天然資源に関わる権利・自決権・ 言語の配慮を含む。

■自治体の開発援助
 自治体は、地域二―ズの充足をも とに透明性・住民参加などの点で 政府よりきめ細かい対応が可能。 CDI(地域主体型開発協力)には 「国境を越えて行う国際協力」と 「地域の多文化社会への認識」の 二つの視点が必要。地方自治体の 開発援助・国際協力は中央政府の補完としてではないことを認識 し、法的裏付けと、ODA予算や対象途上国の選択を独自に行い、自 治体版ODA実施に市民参加を保 証する。

■開発教育・地球市民学習の推進
 「先進国」の人々にとり、地球規模 の問題を生む構造に深く荷担して いることを認識し、かつ生活/構 造の改善への参加を促す開発教 育・地球市民学習は必要であり、 市民によるODAへの意識向上と 質の改善にもつながる。行政は 「国際理解教育」・「開発教育」の概 念において「地球市民学習」の理 念を盛り込んで見直し文書化する とともに、市民学習政策の立案過程にNGOの参加を確保することが求められる。

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