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水の商品化・民営化
水の民営化を推し進める力:多国間開発銀行とIMF(*1)

ナンシー・C・アレクサンダー:シティズンズネットワーク・オン・エッセンシャルサービス
石田恭子:「環境・持続社会」研究センター(JACSES)

MDBsとIMFの推進力
 多国間開発銀行(MDBs)(*2)と国際通貨基金(IMF)は、被援助国に対して、水の民営化を行っていくよう、あらゆる方法で圧力をかけている。元世界銀行のジョン・ネリス氏によると、「IMFは水道事業に対する国内銀行の融資や補助金を切り詰めるよう援助を受ける国々に対して、日常的に要求している。」という。政府が、このようなIMFの要求を受け入れなければ、IMFはその政府をブラックリストに載せることができる。そういう意味で、IMFは援助機関の間での連合、いわば「援助カルテル」の首謀者であると言える。なぜならほとんどの援助国や金融機関は、ブラックリストに載せられた国への援助を行わなくなるのである。

このようにして国家の水道事業が財源不足に喘ぎ始めると、多国間開発銀行は、しばしば「官民パートナーシップ」(PPP)など、民営化につながる様々な段階的アプローチを用い、融資を行っていく。

民営化のための段階的なアプローチ:
以下にあげるものが、多国間開発銀行が政府に行う段階的な要求の典型である(*3)。
・水道事業の分権化
・「アンバンドリング(unbundling)」:利益を生むサービスについて、その民営化がより簡単に行えるよう、利益を生むサービスと損失を生むサービスとを分離すること。これには、財政的に採算のとれるサービス(例えば、都市の水供給など)の売却や外部委託も含まれる。これらの措置の下では、採算のとれない事業を他事業の収益によって維持するような相互補助は困難となる。
・水資源関連法(例えば、海外企業による水の所有権や経営権を容認する法律など)の承認と公布
・フルコスト・プライシング(全コストを回収する制度)の導入
・民営化がベストな方法であるという「市民向け広報活動」の開始

一方、企業はリスクを回避しようとすることから、多国間開発銀行や援助国政府は、企業が参加しやすいように、以下のようなインセンティブを設定している。:
・企業や貧しい消費者のための補助金の交付:民間セクターが貧しい人々にサービスを供給したということが証明されれば「業績に応じた」補助金を受けることができる。しかし、特に非常に貧しい国や、ガバナンスの弱い国では、このような計画を行うに際に、深刻な財政負担が足かせとなる。
・企業や投資家への商業的・政治的保証:被援助国政府が、明記された条件を満たせなかったとき、それによって、民間企業への補償が約束される。つまり多国間開発銀行や輸出信用機関、保険会社が実施する保証は、企業が負うリスクを国内の納税者に転じているのである。また新たな保証制度では、為替変動による投資家の保護も行われている。(*4)

・確実な水供給の保証:多国間開発銀行は被援助国に対して、「確実に水供給を行う」という目的で、地方の農家などの「採算性の低い利用者」から、都市の水道、工業や産業的農業などの「採算性の高い利用者」に水を再配分し、振り向けることを要求していると考えられる。

 多国間開発銀行は、「採算性の低い地域(多くは地方である)」の民営化を推進するために、インフラ整備や社会サービスを外部調達するコミュニティに対し、資源を分配するソーシャル・ファンド(SFs)などのコミュニティ主導型開発(CDD)アプローチへの依存度を高めている。しかし世界銀行の評価担当者によると、ソーシャル・ファンドの水プロジェクトのうち、たった24%だけが「持続可能であろう」と格付けされている。こうしたCDDローンの業績不振の一因として、財源が政府を迂回することにより、政府の能力が弱まることが挙げられる(*5)。

民間セクター開発(PSD)戦略
 上記のような水の民営化に関わる政策は、多国間開発銀行の民間セクター開発戦略に基づいて推進されている。世界銀行グループとアジア開発銀行(ADB)の理事会は、米国やその他の政府による圧力のもと、2000年と2002年に、民間セクター開発戦略をそれぞれ採択した。民間セクター開発戦略とは、水セクターのみならず、被援助国の経済全体における民間セクターの役割というものを著しく拡大する(*6)ことによって、多国間開発銀行がこれまで行ってきた融資業務のあり方も変容させていくものである。世界銀行の内部評価者によると、多くの被援助国が、民間セクター開発業務によってもたらされる資金の適正な分配面や開発面の効果について、不満を表明している。にもかかわらず、多国間開発銀行は、各セクター(例えば、教育、保健、農村開発、水など)の戦略は、民間セクター開発戦略に合致していなければならない、と主張している(*7)。

 投資とサービスの重点化:世界銀行グループの民間セクター開発戦略は、特に、水、保健、教育といった基礎サービスの民営化を加速させている。またこれは投資の自由化を焦点とした、新たな構造調整融資をスタートさせている(*8)。世界銀行グループは、現在行っている「民営化、競争政策、規制緩和、所有権の強化は、被援助国での投資環境の改善を促す」と述べている(*9)。このように、多国間開発銀行の融資業務を通じた、投資とサービスを自由化させる取り組みは、WTOの投資・サービス交渉と並行して進められ、「北」の国々の立場を強化している(*10)。

水資源セクター戦略
 2003年2月、世界銀行は、水資源管理に対する民間セクターの役割を強化する、水資源セクター戦略(WRSS)を発表した(*11)。

 WRSSは、政府機関から地域の水利用者協会(WUAs)への管理の移転を支持している。これは前向きな発展になる可能性がある一方で、実際にはWUAが、世界銀行、援助国の代表者、政府官僚によって行われる、早期の段階での「上流」での交渉によって決められた政策を、実施していく機構となる恐れがある。

 WRSSは、市場メカニズムによる水分配の方法を支持しているが、世界銀行の調査(*12)によると、利害関係国のうち約3分の2が、例えば河川流域団体など市場メカニズムには基づかず、競合する利用者に対して、中央政府が直接的に水資源を分配するべきである、と考えている。上述したとおり、世界銀行は、農業よりもむしろ工業、自給農業よりもむしろ輸出向け農業に高い価値を見い出す傾向にある。こういった政策を、商業的な水の料金設定と合わせて実施すれば、貧しく弱い立場にある人々から、生活に欠かせない水を奪うことになりかねない(*13)。

 世界銀行グループの民間セクター開発戦略を実施することは、市民や選挙で選ばれた政府の、基礎サービスの供給方法についての決定権を奪う可能性がある。多くの国で、規制が弱められることが、結果として民間による供給者の権力濫用を招いている。民営化や外部委託は、料金的に手の届くサービスの供給をむしろ危機にさらし、サービスへのアクセスが可能な人々とそうでない人々を二分する不平等化への道になりかねない。

ADBによる「協力」
 日本は、ADBでは第1位、世界銀行では米国に次いで第2位の出資国であることから、こうした機関の政策やプロジェクトに多大な影響力を及ぼしている(*14)。

ADBの民間セクター開発戦略
 2000年、ADBは(1)民間セクターによるサービスの供給、(2)投資に適した環境の重要性を強調する民間セクター開発戦略を採択した。ADBは、民間セクター開発戦略が貧困削減戦略の一部である、と述べているが、その両者の関連性は実証されていないと思われる。

ADBの水政策
 ADBは2001年に、民間セクター開発戦略で強調している官民パートナーシップとうまく適合する形で、『すべての人々にとっての水:ADB水政策』を発表した。この文書には、「公共の責任やオーナーシップは、民間セクターの運営と組み合わせると、しばしば最良の結果が得られる」と述べている(*15)。しかし、水の民営化や商品化から生じている重大な問題については触れられていない。ここでは、最近撤退したスエズ社によるマニラッドの水の民営化が成功例として扱われている。

最後に
 質のよい水サービスを手ごろな料金で受け取ることや、水道普及率を改善することは、非常に重要である。しかしながら、多くの官民のパートナーシップの例では、約束されたサービスの供給が行われていない。民間セクターは、効率性と採算性を重要な目標にしており、貧困層に水を供給することや、水質を改善することに対しては、当然のように責任がないと考えるだろう。また水供給を行う民間企業が有している環境責任、社会的責任に関する記録は、見せかけであることが多い。規制者側はしばしば立場が弱く、独立性を欠いており、結果として企業による事業の乱用が起きやすくなっている。こうしたことから、多くの事例において、市民は、官民のパートナーシップに反対しており、貧困層のニーズを満たすように、公的機関による改善された水の供給を求めているのである。


 

(*1)このペーパーでは、世界銀行やADBがどのように、水セクターへの民間参入を拡大しているかについて、焦点を絞っている。
(*2)多国間開発銀行(Multilateral Development Banks: MDBs)とは、世界銀行グループや、欧州復興開発銀行、ADB、米州開発銀行、アフリカ開発銀行などの地域開発銀行からなる。
(*3)このプロセスでは、「ひも付き援助」-被援助国に対して援助国が、自国の産品や専門技術の受け入れを要求すること-を通じた企業による影響が考えられる。さらに、水政策に対する民主的な意思決定に対する、被援助国や融資者側の透明性の低さが際立っている。
(*4)1997年のアジア通貨危機によって、フィリピノ・ペソは下落し、スエズ社が行ったマニラの水道委託契約では、ドル建て債務が膨張したことが、2003年のスエズ社の撤退につながっている。
(*5)インドネシアでは、農村のうち3つに1つが、多国間開発銀行の支援するCDDプロジェクトが行われている。
(*6)この戦略は「民間セクター」を「すべての非国家組織」と定義しており、これには非営利団体も営利団体も含まれる。
(*7)アメリカ政府は、世界銀行、ADB双方の民間セクター開発戦略の実施に向けた財政貢献に関与している。
(*8)また民間セクター開発戦略は、企業やソーシャル・ファンド(SFs)への直接支援も拡大している
(*9)世界銀行「Private Sector Development Strategy」50ページ
(*10)世界銀行グループのうち、特に二つの機関は、低所得国において企業によるサービス供給を拡大するため、今後ますます働きかけを強化していくと思われる。つまり、世界銀行グループで民間セクター部門への融資を担当している、国際金融公社(IFC)は、この目的のために連携協力している。IDAは、低所得国において企業によるサービス供給のコストを相殺するための補助金制度を制定するために、政府と協力を行っていくものと考えられる。
(*11)WRSSでは、1990年代に著しく減少したはずの、ダムやその他の大規模インフラに対する、世界銀行の融資の逆戻りが示唆されている。世界銀行の査閲パネルで検討された全案件のうち、72%がダムやその他の水関連事業だった。今後、世界銀行が、環境社会配慮などのセーフガード政策に対する遵守機能を改善させない限り、リスクの高いインフラを促進するWRSSは、世界銀行が融資を行うプロジェクトによって、住民や生態系に「何の危害も及ぼさない」ようにするために作られたこうした政策さえも、組織的に無視していくことになりかねない。事実、WRSSは、セーフガード政策に対する過度な配慮を行うことは、「停滞のための処方箋」になりかねないという見解が示唆されている。
(*12)調査は、ブラジル、イエメン、インド、フィリピンにおいて世界銀行が実施した。
(*13)現在、世界銀行の融資全体のうち、約16%が水関連事業であり、また東アジアでは22%、南アジア地域では25%が水関連事業となっている。2003年から2005年にかけて、水関連事業への融資は、特に東アジア地域で急速に伸びることが予測されている。このため、国や地方の政府を「改革」することを目的とした、世界銀行による融資が最も急速に伸びるだろう--例えば、インドのアンドラ・プラデシュ州(Andhra Pradesh)やウッタール・プラデシュ州(Uttar Pradesh)、カルナタカ州(Karnataka)などである。
(*14)日本は世界銀行におい8.08%(2002年)、ADBにおいて15.84%(2001年)の出資比率を有している。
(*15)アジア開発銀行「Water for All」25ページ

 

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