インドネシアのPAMジャヤ民営化における多国間開発銀行の役割
ニーラ・アーディアニー
インドネシア・フォーラム・オン・グローバリゼーション
多国間開発銀行は1960年代終盤より、インドネシアの水資源・灌漑セクターにおいて重要な役割を演じるようになった。世界銀行がインドネシアでこのセクターに対する融資を初めて行ったのは、1968年9月3日に承認された500万ドルの灌漑復旧プロジェクトであった。それ以来、ほぼ34年間にわたって少なくとも23の灌漑プロジェクトが世界銀行の融資を受けている。なかでも最も融資額が大きいのが、1987年10月に承認された2億3400万ドルの「灌漑サブセクターローン」である。
世界銀行の役割は、都市部の水処理部門ではさらに大きい。1974年10月に承認された都市開発プロジェクトと5都市の水供給プロジェクトを皮切りに、世界銀行は28年間にわたってインドネシアの各都市で29の水供給プロジェクトに関わってきた。1997年に終了したインドネシア都市水供給セクター戦略でさえ、世界銀行のチームがつくったものだ。
世界銀行がインドネシアの水セクタープロジェクトに拠出している総額は28億7900万ドルにも上る。世界銀行はインドネシアのあらゆる地域で水管理や灌漑、都市の水供給に関与してきたと言っても間違いない。「コストリカバリー(費用の回収)」というコンセプトは、インドネシアの数都市での水供給施設の建設を中核に据えた「第二次水供給プロジェクト」に明確に示されている。このプロジェクトは1979年に承認され、1986年に終了したが、そのすぐ後にコストリカバリーというコンセプトは、他の多国間開発銀行の政策にも導入されている。
世界銀行の役割は、インドネシアの国際収支を改善するための支援策に、水資源・灌漑セクターの改革を条件付けたWATSAL(水セクター構造調整ローン)によって、より明確なものとなった。このローンの条件のひとつは、国全体で水セクター改革を行うために、その根拠となる新しい法律を制定することだった。これを受けて、インドネシア政府は水資源法案を作成した。この法案は現在議会での検討に付されており、制定されるのは時間の問題だろう。WATSALの基本方針は水の商業化、商品化、そして民営化であり、WATSALの付けた条件を政府がすべて実現することができた時には、インドネシアの水管理のあり方は全く違ったものになっているだろう
。
世界銀行は、商業化、商品化、民営化の実施を奨励するため、アジア開発銀行やフランス政府、日本政府など、他の機関と興味深い役割分担を行っている。現在、ADBはインドネシアのいくつかの地域水供給公社に直接関与しており、「水企業改革」、「水供給・衛生インフラ整備と、民間および公共の水供給・下水処理企業のための規制枠組み」などの数多くのプロジェクトを通じて、政策の枠組みを提供しようとしている。
日本政府は、91万ドル規模の都市水道供給プロジェクトなどの技術支援を通じて、仏政府もまた、2001年11月に「水企業改革」のための技術支援に75万ドルを拠出している(*1)。オランダ政府は2001年8月に「インドネシア水資源・灌漑改革計画」に1000万ドルを拠出した。アメリカの国際開発庁(USAID)もまた、12の地域水供給公社に対し、財政、運営、技術支援、人材養成などの面から支援を行っており、それによってフルコストリカバリーとサ−ビス提供地域の拡大が図られている。このUNAIDのプロジェクトは2000年10月より36ヶ月間実施された。アジア欧州会議(ASEM)信託基金が39.6万ドルを拠出して水事業救済計画を支援している。
PAMジャヤの民営化
インドネシアで政府が所有する水供給公社、PAMジャヤが発足したのは、世界銀行が「第二次ジャボタベック(Jabotabek)都市開発プロジェクト」を承認した1990年である。このプロジェクトの下、PAMジャヤは結局民営化を拒めなくなってしまう。PAMジャヤは世界銀行の債務を負い、(初回のローンでは、世界銀行が政府に融資し、それを政府がPAMジャヤに融資したため、間接的な債務である)、その資金は、ジャカルタ市民の70%をカバーする水供給網を整備するために使われた。
皮肉なことに、1998年にプロジェクトが終了し、水供給網が完全に整備されたときに、民営化が行われた。資産と運営の管理は、スエズ・リヨネーズ・デゾーとテムズウォーターの二つの外国企業に一任されることになった。PAMジャヤが融資で敷設した資産を活用する機会を与えられなかっただけでなく、アジア通貨危機によって2倍、3倍にも膨れ上がった外貨建て融資をも抱えることになってしまった。(プロジェクトが承認された時点では1ドル1795ルピアだったが、これが、プロジェクト終了時には8500ルピアになっていた)。
PAMジャヤの民営化に関連することで、もうひとつ興味深いことは、フランス政府が関与していることである。仏政府は、ジャカルタ市西部に水を供給しているシサダン(Cisadane)川に水処理施設を建設する資金を拠出した。当初このプロジェクトには仏政府が融資を行い、その後世界銀行が融資を行った。ところが建設が終了すると、ジャカルタ市西部の水管理は、またもやフランスの巨大水企業スエズ・リヨネーズ・デゾーに移管されたのである。
民営化の影響
他の多くの国での場合と同様に、ジャカルタにおける民営化は数多くの問題を引き起こした。特筆すべき重大な問題は、監視機関がうまく機能していないことである。PAMジャヤの労働組合メンバーによると、監視機関のメンバー構成が独立性を欠いていることが原因であるという。
民営化によって労働問題も起きている。PAMジャヤの職員3000人のうち2800人が、民営化後にパリジャ(PAM
Lyonnaise Jaya :Palyja)とTPJ(Thames Pam Jaya)に配属されたが、これらの会社はそれぞれ、新規でも社員を採用した。PAMジャヤから移ってきた社員と新たに採用された社員は、同じ責任を負っているにもかかわらず、多くの面で、対照的な待遇を受けている。
テムズ社やスエズ社は、PAMジャヤなどの機関と共に料金システムを確立し、以後二度の値上げを行った。(現在、三度目の値上げが検討されている。)しかし残念ながら、この料金システムでは、スエズ社とテムズ社に支払われている委託費(受託企業が設定した水道料金)をカバーすることができなかった。つまり、利用者が支払っている水道料金と、政府がテムズ社とスエズ社に毎月支払っている委託料との間にギャップがあるのである。誰がどのようにして、このギャップを埋めていくのだろうか?PAMジャヤの職員(テムズとパリジャに配属された者を含む)によると、このギャップはPAMジャヤがこれら企業に負っている債務と考えられている。委託期間が終了したときには、債務返済のためにPAMジャヤの資産はすべて売却されていたということになることが懸念されている。
企業の所有権に関する問題ももう一つの懸念材料である。現在、TPJの株の95%はテムズウォーターが所有しており、残りの5%はインドネシア企業であるPT.テラメタフォーラ(PT.
Tera Meta Phora)が所有している。PAMジャヤはTPJとパリジャの株を持っていない。したがって、PAMジャヤはジャカルタの水管理に関して実質的に何の影響力も有していないのである。
(*1)都市の水供給に関する他の技術援助プロジェクトは、TA1713-INO:1992年6月15日に承認された60万ドルの「水企業の制度に関する支援」、TA2501-INO:1995年12月22日に承認された60万ドルの「水企業の水道料金構造と財政政策」、TA2837-INO:1997年7月29日に承認された85万ドルの「都市開発における民間セクターとのパートナーシップのためのキャパシティ・ビルディング」である。
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