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世界銀行業務における借入国のシステムの活用
に関するNGOからの意見書


このレターには58カ国、200団体のNGOが署名し、2005年1月10日に世界銀行総裁へ送付されました。英語の原文はこちら

最近、世界銀行は「世界銀行業務における借入国のシステムの活用について」というペーパーを発表しました。以下のコメントは58カ国からの市民団体200団体が署名したものです。

○私たちが支持すること

私たちはしっかりとした開発モデルが社会的公正、環境保護、経済促進と民主的ガバナンスの土台となると強く信じています。持続性の原則こそが政府や金融機関の開発戦略の中で優先されるべきものです。影響住民がプロジェクトの意思決定に参加し、プロジェクトの利益を受け、そして彼らの環境が守られるよう、適切な環境・社会配慮のためのセーフガード政策が確保されなければなりません。

私たちはソサエティ自らが開発の道すじを決定し、コントロールすべきだと考えています。ソサエティはただプロジェクトの意思決定者となるだけではなく、その国で行われている経済やセクター政策の意思決定者ともなるべきです。「借り入れ国のオーナーシップ」とは政府のオーナーシップだけではないはずです。「借り入れ国のオーナーシップ」の概念は市民社会を含むすべてのソサエティのセクターのオーナーシップも含むべきです。さらに、「借り入れ国のオーナーシップ」は環境、社会、人権において世界共通の最低限の基準を設定しようという要請を否定するものではありません。実際、多数国の政府が社会、環境、人権についての国際会議で決まった責任を支持し、受け入れています。

私たちは世界中において、社会的公正を推進し環境を守る為に国家のキャパシティー向上を支持しています。しかし、すべての機関もそれぞれの行動に対して説明責任を負わなくてはなりません。世界銀行のプロジェクトは世界銀行の政策、国家の法律や規則、そして国際協定に従わなくてはなりません。世界銀行はプロジェクトが特に社会的公正や環境保護の面からの付加価値がつけられないのであれば、そのプロジェクトに融資すべきではありません。遵守制度は市民、特に影響住民が世界銀行や政府に対して、セーフガード政策の効果的な履行に責任を負わせることができるようにしなければなりません。

私たちは借り入れ国にとって不必要なコストやお役所的な手続きの遅さをなくすためにも金融機関の基準やセーフガード政策、ガイドラインのハーモナイゼーションを支持します。しかし、現在まで、金融機関が環境や住民の権利をその政策や実施のなかで「守りすぎた」事例は一つもありません。つまり、政策のハーモナイゼーションはつねに向上する余地があるのです。

○世界銀行の援助における潮流

世界銀行の社会・環境セーフガード政策は、たくさんの欠陥があるといえども過去20年間における重要な業績です。しかし、業務評価局の調査で分かった通り、世界銀行はそのビジネス活動において最初から最後まで環境・社会配慮を主流化してきてはいません。その結果、世界銀行は持続性のないプロジェクトを繰り返すことになり、セーフガード政策の目的も達成されていません。世界銀行はセーフガード政策を適用する手続きをとることもありますが、その目的自体を履行せずに終わることがしばしばです。たとえば、世界銀行はプロジェクトの環境アセスメントにおいてバランスの取れた代替案を検討することがめったにありません。また、世界銀行のプロジェクトにおいて移転させられた住民たちはほとんどが、以前より貧しい生活を強いられ、プロジェクトの恩恵を受けることがありませんでした。

世界銀行はリスクの高いプロジェクトに再度取り組み、インフラプロジェクトへの融資を実質的に増加させる事を決定しました。このような動向を受け、世界銀行にはその活動において環境・社会配慮を主流化すること、そして過去の失敗を繰り返さない為に作られたセーフガード政策を厳しく守ることがより強く求められています。私たちは「借り入れ国のオーナーシップ」の名のもとに世界銀行のセーフガード政策が緩和させられることに強く反対しています。

○世界銀行業務における借入国のシステムの活用についての全体的コメント

私たちは世界銀行の「世界銀行業務における借入国のシステムの活用について」というペーパーについて以下のような懸念を抱いています:

  • このペーパーは借り入れ国の環境・社会的影響に対処するために金融機関のキャパシティーを向上させることを主張しています。しかし、そのための具体的方法やその向上水準を測るための基準についての提案が何もありません。世界銀行の基準ではなく、単に国の基準(今までも世界銀行のプロジェクトは国の基準も守る必要があったのです)に頼るだけでは機関のキャパシティーは向上しないでしょう。
  • 2004年6月29日付けの手紙で、世界銀行総裁ジェームス・D・ウォルフェンソンはNGOに対して、「われわれは借入国のシステムを活用することが、豊かな経験と幾度ものコンサルテーションによって培われた既存のセーフガード政策を弱めることにはならないと強く信じています」と断言しました。このようなコミットメントは事あるごとに理事会でも確認されています。しかし以下で説明するように、このコミットメントは世界銀行のマネージメントの提案により崩れようとしています。
  • 新しい借り入れ国のシステムでは、インスペクションパネルは世界銀行のセーフガード政策ではなくそれぞれの国の政策を基準にして調査を行うとしています。これは世界銀行の自身の基準に対する説明責任を弱めることになるでしょう。
  • 提案によれば、世界銀行の既存の政策を国の基準とを比較する際に利用するだけでなく、これらの政策自体の改善も検討するそうです。しかし、法的拘束力のあるAnnex Bはもし必要な改善がなされなかった場合世界銀行はどうするのか、また、世界銀行のセーフガード政策と同水準にあると考えられていた国の政策が緩められた場合どうするのかについては言及していません。
  • 世界銀行の評価局は、ガバナンスが将来改善されることにプロジェクトの成功を委ねるのはリスクが高すぎるとしています。OEDの2003年のレポート「Factoring in Governance」には、「今あるガバナンス上の問題がそのうち解決され、開発がよい利益を生むようになると想定できるほど、ガバナンス改善へのサポートの結果は安定していない。(中略)(採掘産業への投資の増加を支援するという決定は)今まであった、現在のセクターや中央政府のガバナンスの状態を参考になされるべきで、世界銀行がいつかそうなってほしいと望むガバナンス状態を参考にすべきではない」(pp.13f.)とあります。
  • 提案によれば、他のアクターとともに政府自身がそのセーフガード政策が世界銀行の政策と同水準にあるか、国の制度をどれだけきちんと遵守しているか評価できるそうです。このことは本来の評価の目的とその独立性をないがしろにしています。
  • 世界銀行のメキシコでの最初のパイロットプロジェクトが示したように、基準が同水準にあるかどうかの分析とそれぞれの国のシステム別に適用された複雑なプロジェクトの監督はコストを増加させました。同水準にあるかどうか評価するコストは年々下がる傾向にありますが、監督に関してはそうではありません。
  • 今回のペーパーは、現状の環境政策の適用について全体的に楽観的すぎであり、たび重なる政策適用の失敗について記載してあるOEDレポートの重要な結論を無視しています。その結果、世界銀行のマネージメントはセーフガード政策を強化する必要があるにもかかわらず、それをなおざりにしているのです。

○政策が弱体化している数多くのケース

世界銀行のセーフガード政策、業務原則、銀行手続き、そして付録(Annex)すべてをあわせると65ページにわたります。ペーパーのAnnex Aの中にある表A1は、世界銀行の政策と同水準かどうかを評価する基準となるもので、3ページにわたっています。国際環境法センター(CIEL:アメリカの環境NGO)が表A1と政策を比較するマトリックスを作成し、それによると世界銀行業務に借入国システムを活用すると20ほどの項目で現在の政策よりも強化される可能性があげられていますが、同時に150の項目で政策が弱体化する可能性があると指摘しています。

CIELによるマトリックス
http://www.ciel.org/Ifi/Matrix_29Nov04.html

政策が弱体化される主なケース:

世界銀行プロジェクトの環境アセスメント、生態系、ペスト管理、再定住、先住民、森林、文化遺産、ダムの安全性におけるスタッフの役割と義務については、既存のセーフガード政策の方が新しい提案に比べてより明確で具体的です。

環境アセスメント:

  • 既存の環境アセスメント政策であるOP 4.01では、国際環境条約に基づく国家の義務に反するようなプロジェクトへ融資することが禁止されています。新しい提案にはこのような文言はありません。
  • OP 4.12ではプロジェクトにより社会や経済への悪影響が懸念される場合には、その度合いを軽減するためにも社会アセスメントが行われるべきとしています。借入国のシステム活用提案にはそのような規定はありません。
  • 借入国のシステム活用提案には、懸念される環境への影響度合いによるカテゴリー化の規定が抜け落ちています。その結果、プロジェクトがカテゴリーAかカテゴリーBかによって変わってくる必要条件が失われています。
  • OP 4.01はセクターや地域別に環境影響があると予想される場合、それぞれに対しての環境アセスメントが必要とされる、としています。借入国のシステム活用提案にはそのような規定はありません。
  • OP 4.01は環境への悪影響をはじめから予防することの方が、その影響を軽減したり補償したりすることよりも望ましいとしています。借入国のシステム活用提案はこのように「予防」を「軽減」より強調していません。

自然生態系:

  • 借入国のシステム活用提案は、OP 4.04の借り手は「天然資源の管理は予防的アプローチで行う」といった規定を受け継いでいません。
  • 現行のOP 4.04は生態系に対して悪影響を与えるプロジェクトは、十分な分析の結果、プロジェクトの全体的な利益が環境へのコストを上回るということが示された場合に限って進められる、としています。このような条件は今回の提案では抜け落ちています。

再定住:

  • OP 4.12は再定住先での人々の生活水準が以前の生活水準と同じ水準になるよう努力するよりも、より改善させることを目指すべきだとしています。今回の提案はこのような事項を盛り込んでいません。
  • 立ち退きと再定住が避けられない場合、OP 4.12にある再定住計画は開発プロジェクトの一部として実行されなければいけません。つまり、立ち退きにあった人々にもプロジェクトの恩恵が受けられるようにしなければならないのです。借入国システム活用提案はそのような要件を規定していません。
  • OP 4.12によれば、立ち退きにあった住民は再定住プログラム全体の計画設計、適用、モニタリングに参加し、コンサルテーションを受ける機会があると規定しています。今回の借入国システム活用の提案ではそのような機会を設けていません。
  • OP 4.12と違い、借入国システム活用の提案では、立ち退きに会った人々やプロジェクト現地の社会に適宜関連情報を与えるということが必要条件ではなくなっています。
  • OP 4.12には借り手の義務として、社会経済調査や制度・法的枠組みの分析を行うこと、再定住が現地の社会に与える影響を最低限に抑えること、を詳細に規定しています。借入国システム活用の提案ではこれらの義務は全て抜け落ちています。
  • BP 4.12には再定住手続きがすべて実施されるまではプロジェクトは完了したといえない、と明確に記載されています。借入国システム活用提案にはこのようなことは書いてありません。

政策が弱体化されていることを示すこれらのケースは、世界銀行の主張する社会的環境的キャパシティの向上という目的と、既存の政策を弱体化させないというコミットメントと、矛盾しています。

○結論と提案

以下に署名したNGOは国家レベルでの制度的能力向上と社会的環境的基準の向上を支持しており、これからも支持し続けます。同時に、私たちは借入国のセーフガードシステム導入による世界銀行のセーフガード政策の弱体化や政策に対する説明責任の低下に強く反対しています。借入国システム活用の提案は世界銀行のセーフガード政策を全体的に弱体化させる可能性をはらんでいます。このことは世界銀行理事やウォルフェンソン総裁の約束するコミットメントに違反しています。

特に、私たちは以下のことを提案します:

  • もし世界銀行業務に借入国システムが活用されるのであれば、国家基準が世界銀行基準と同水準にあるかをAnnex Aではなく既存のセーフガード政策をベースに判断すべきです。今までのセーフガード政策が引き続きインスペクションパネルの将来の調査における根拠であるべきです。
  • もし世界銀行業務に借入国システムが活用されるのであれば、世界銀行の基準と同水準にあるかどうかの判断は、これまでのプロジェクトにおいて適正な実施が行なわれた国の基準のみにおいて行なわれるべきです。これまでの実績もない改善計画をもとに判断すべきではありません。
  • 同水準にあるかの評価は独立したアクターによって、透明性があり皆が参加できる手続きを通じてなされるべきです。同水準にあるかどうかの評価は政府自身でなされるべきではありません。
  • 借入国システムを活用するパイロットプロジェクトをその国で実施するためには、市民社会を含む全ての関連する国内アクターの賛成がなくてはなりません。
  • パイロットプロジェクトの最終段階では、借入国システムを将来また活用することを決議する前に、その実行について独立したアクターが透明性があり皆が参加できる手続きを通じて評価すべきです。

賛同団体(略)

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