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本書では、2004年4月に策定された、国際協力機構(JICA)のODAプロジェクト実施の際の環境及び社会面での審査手順を定めた「環境社会配慮ガイドライン」が、「日本のODAに伴う様々な問題を未然に防止し、あるいは生じた問題を解決・改善することに、どこまで有効なのか」を検討することに焦点を当てています。また新ガイドラインを超えて、今後日本のODAが環境・人権問題を引き起こさず、より平和を推進していくための課題について提起したいと思います。
国際協力銀行(JBIC)やJICAの新ガイドラインでは、旧ガイドラインに比べ、プロジェクトの「初期段階」から、住民との協議や情報公開を行うことが明記されたこと、現地住民などによる「異議申し立てメカニズム」が導入されたこと、など多くの点が改善されましたが、ガイドラインのさらなる改善・拡充に向けた今後の課題もあります。例えば、ジェンダー・先住民族・立ち退きや移住に伴う住民への影響など、被援助国の人々の人権や社会的影響への配慮は十分とは言えません。また、個別事業の計画・設計の、より早期の段階から環境社会配慮に対する意思決定を統合した「戦略的環境アセスメント」の実施をさらに拡充していくべきです。さらに、JICA新ガイドラインでは、緊急時の措置として、紛争後の復旧支援における環境社会審査を簡略化しており、「紛争後の支援」の名目の下、環境社会的に問題のあるプロジェクトの実施を可能とする抜け穴となることが危惧されます。
また、上記のガイドラインや異議申し立てといった手法だけでは、ODAが抱えるすべての問題を解決できないのも事実です。日本の経済的利益ばかりが重視され、途上国の貧困問題の解決に効果的でないODA
プロジェクトが存在する、というような根本的な問題を解決するには、日本の省庁も含めたODAの実施体制や援助機関が、自らとった行動とその結果について説明し、その責任を明らかにする制度(アカウンタビリティ)の強化などが、今後の重要な課題です。
本書では、あまりODAの問題を知らない方々にも広くご理解いただけるように、ODAの仕組みや動向について解説した「基礎編」をもうけ、基礎知識を持っている方々に向けては、問題関心をさらに高めていただくべく、「応用編」として、「JICA事業の問題点」「環境社会配慮ガイドラインの抱える問題点」「環境・人権・平和の観点からみた、今後の課題」を検討していくという構成をとっています。本書によって、日本のNGOや市民の方々のこうした問題への意識・取り組みが深まり、今後の日本のODAが少しでも環境・人権問題の解決、平和の推進につながるよう方向付けができるように、切に願っています。
監修:古沢広祐、斎藤友世
作成:石田恭子
発行元:特定非営利活動法人「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
A5版ブックレット 143ページ
定価:1000円 (+郵送料)
目次:
はじめに:ODAの課題
序論:ODA改革の一歩:環境社会配慮ガイドラインとは?
●基礎編●
日本のODAの動向と課題
地球規模の課題
日本のODA:途上国への多大なる影響力
借款が中心である日本のODA−その問題点
ODAの実施体制:専門性の不足
曖昧な責任の所在
囲み:平和・環境・貧困問題解決の潮流
〜世界のODA・開発協力の動向〜
●応用編●
1、JICA事業の問題とは?
はじめに:JICAの現状と問題
囲み:JICAが行う事業とは?
これまでのJICA事業による環境社会問題
囲み:漁場を奪い、住民を窮乏化する巨大開発〜メトロセブ開発計画の概要とその影響〜
西井和裕(フィリピン情報センター・ナゴヤ)
囲み:誰のためのODA? 〜ノン・プロジェクト型無償資金協力のゆくえ〜
今井高樹(食糧増産援助を問うネットワーク)
2、環境・社会配慮ガイドラインとは?
問題解決・回避に環境社会配慮ガイドラインは有効か?
JICA事業の実施体制:不透明性、責任の所在
囲み:プロジェクトサイクルと外務省・JICAの責任
開かれた策定プロセスを!
環境社会配慮ガイドラインの改善点
3、環境・社会問題の改善に向けた今後の課題
〜環境・人権・平和〜
環境社会問題の改善に向けた今後の課題
課題の概要 / 環境社会配慮ガイドラインの位置づけについて―個別政策と詳細規定
A.実施過程に関わるアカウンタビリティ
住民参加と情報公開
開発の実施プロセスにおける住民参加と情報公開の重要性 / 新ガイドラインの規定は? / 残された課題―詳細規定の充実や住民参加・情報公開の保障
異議申し立て機能
ガイドラインの不遵守による環境社会被害 / インスペクション・異議申し立て機能の開始 / 新ガイドラインの規定は?
/ 異議申し立て制度に残された課題
囲み:世界銀行のインスペクション・パネル〜融資が中止された中国西部貧困削減プロジェクトの事例
囲み:アジア銀行(ADB)におけるインスペクション・パネルの事例
第三期チャシュマ右岸灌漑プロジェクト(パキスタン)〜
田辺有輝(「環境・持続社会」研究センター)
B.個別課題
環境
地球環境の悪化―求められるガイドラインの改善 / 新ガイドラインの規定は?/ 具体的な配慮を進めるために―評価等の充実
/ 残された課題―調査の質の確保と独立監査
囲み:戦略的環境アセスメント
斉藤友世(「環境・持続社会」研究センター)
人権
社会配慮による人権の保障 / 日本のODAによる人権侵害 / 新ガイドラインの規定は? / 具体的な配慮を進めるために―詳細規定
/ 業務指針や個別政策の充実 / 国際的人権基準の尊重 / 人権の保障に向けて:残された課題
囲み:開発プロジェクトにおける住民の強制移転と世界銀行の立ち退き政策
斉藤友世(「環境・持続社会」研究センター)
平和
ODA大綱の規定と戦後復興支援の拡大 / 新ガイドラインの規定は?−「緊急時」 / ガイドラインにおける紛争影響の考慮の必要性
/ 「平和配慮」に残された課題―PNAの充実
囲み:バルーチャン第2水力発電所補修プロジェクト(ビルマ)
囲み:開発調査と紛争 〜「西部カリマンタン地域総合開発計画調査
の事例から〜
長瀬理英(アジア太平洋資料センター)
囲み:平和配慮に関する他国での進展状況
高橋清貴(日本国際ボランティアセンター
囲み:環境社会配慮ガイドラインと平和構築ニーズアセスメント(PNA)の関係
高橋清貴(日本国際ボランティアセンター)
残された課題〜まとめとして〜
●資料編●
JICA環境社会審査の流れ
JICA環境社会配慮ガイドライン改定委員会のプロセスについて
JICA環境社会配慮ガイドライン改定委員会提言<抜粋>
参考文献
略語
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