アジア開発銀行とは?
アジア開発銀行(ADB)は「アジア・太平洋地域における開発プロジェクトを資金面から援助する」ことを目的に1966年に設立された多国間開発銀行で、現在アジア太平洋地域内の40ヶ国、およびヨーロッパ・北アメリカの16ヵ国が加盟している。
ADBの主な業務は、加盟発展途上国の政府あるいは民間企業による開発プロジェクトに対する融資や株式投資を行うこと、およびそれらプロジェクトの準備と実行に融資あるいは贈与ベースで技術援助を提供することである。その組織は、総務会、理事会、総裁、副総裁3名、各部局長、その他職員から成り、最高意思決定機関である総務会には各加盟国から総務および総務代理が1名ずつ指名される。(注1)各総務および総務代理はADBに常勤しないため、最重要事項を除く決定のほとんどは理事会に委ねられている。
理事会は、総務会に選出された12人(域内8人、域外4人)の理事から構成される。各国の出資額によって、単独で理事を指名できる国と、他国とグループを構成して、その中から理事を選出する国とに分けられる。理事会では加重投票制(出資額に応じて投票権も多くなる方式)が採られており、日本は最大出資国として最大投票権(96年6月現在、13.6%)を保有している。理事会の議長を勤める総裁も過去すべて日本人である。
ADBの資本構造
ADBの財源は、払込資本・準備金・借入金から構成される通常資本(OCR)とともに、主に加盟国の拠出金で賄われる3つの特別財源
- アジア開発基金(ADF)、技術援助特別基金(TASF)、日本特別基金(JSF)- で構成されている。ADFは、貧困削減などを目的として、後発の開発諸国に対しOCRの場合よりも緩和された条件で貸付を行う。TASFは技術援助業務への資金供与を行うが、JSFはそれだけでなく民間開発プロジェクトへの資本参加なども目的としている。後者は日本政府の拠出金が基本となっている。
各国の拠出金を主な財源とするこれらの特別基金に対し、より多額の資金を提供するOCRの大半は国際資本市場などで調達される借入金で賄われている(95年度は約70%)。したがって、ADBは、借金を返済するために利潤をあげなければならず、「援助機関」である以前に「金融機関」としての性格を必然的に帯びざるを得ない。
ADBの貸付活動
ADBは設立以来、総計1,294のプロジェクトに対して566億8680万ドルの投融資を行ってきた(95年12月31日現在)。年間総額は、多国間開発銀行中、世界銀行と米州開発銀行に次いで現在3番目である。
ADBの貸付は、個別のプロジェクトに対して行うプロジェクト貸付、政策改善や投資環境の向上などを目指すプログラム貸付、特定のセクターにおける組織の技術的な管理能力を強化したり、政策を改善することを目的にするセクター貸付、援助対象国内の民間企業に直接投資・融資を行う民間部門への貸付の四種に分類される。
80年代後半までは農業部門への貸付が3割前後を占めてきたが、近年各借入国内でのインフラ(生産的基盤)整備の需要が増大したことに伴い、エネルギー/運輸・通信部門への貸付が増加しており、地域社会や生活環境に大きな影響を与える大規模プロジェクトの比重が高まってきている。
また、社会インフラ部門(教育・保健・人口・水道・衛生・都市開発など)も80年代以降一貫して15%前後を占めている。
ADBの技術援助(TA)は、贈与および貸付、または双方を組み合わせて供与される。その財源は贈与の場合、TASF/JSFの他に国連開発計画(UNDP)や、2国間または多国間の財源から無償資金として提供される。貸付の場合は通常のプロジェクトと同様にOCRあるいはADFから供与されている。ADBは、設立以来95年度末までに合計3749の技術援助プロジェクトに対し総額43億1690万ドルを融資/拠出してきた。
これらTAは、投融資準備を進めることによって被援助国を支援するプロジェクト準備技術援助(PPTA)、機関の設立・強化、部門別政策・戦略に関する調査の実施や国家的規模の開発計画の策定を支援する諮問的技術援助(ADTA)、そして地域研究の準備や独自運営、会議やセミナーの開催、開発途上加盟国が参加するトレーニング・コースなどに対して資金を供与する地域活動に関する技術援助(RETA)の3つに分類される。最近の傾向として、経済の自由化やメコン河流域開発などで注目を集めているインドシナ諸国への供与額が増加している(メコン河流域開発については、Press
Sheet No. 7 「ADBとメコン川地域開発」参照)。
民間部門への投融資
ADBは中期目標として「民間部門の成長を促進する為に必要な環境を確立すること」を挙げ、加盟途上国における民間企業の開発関連プロジェクトへ直接投融資を行っている。設立以来ADBは途上国内の金融仲介者に対して信用供与を行い、政府保証貸付による中小企業への貸付に役立ててきた。1983年には株式投資機能が導入され、政府保証なしで民間企業や金融機関に対する株式投資が可能になるとともに、選ばれた金融仲介者にも投資ができるようになった。
企業の受注状況
1995年度における各加盟国の企業の受注額は、OCRは中国、インド、インドネシア、ADFはパキスタン、バングラデシュと、どちらも主要な援助対象国が上位を占めている。物品・役務調達に関する受注額は、80年代半ばまで日本の企業による受注が大変大きな割合を占めていたが、80年代後半以降は中国やインドネシアなど、現在の主要な借入国の割合が増加する傾向にある。一方、コンサルティング・サービスの提供は欧米諸国を中心とするドナー国が多くを占めている。技術援助業務
(TA)に関する受注状況はADB設立以来、欧米・オセアニアのドナー国の割合が日本に比べて高い。日本政府の拠出によって賄われている日本特別基金
(JSF)の場合も同様である。
協調融資活動
ADBは、域内の投資の促進を目的として、他の国際機関や援助国政府、輸出系金融機関、民間企業などとの協調融資を積極的に行っている。その狙いは、加盟援助対象諸国への開発資金の流れを増やすとともに、ADBが貸付業務を行うに際して公的および民間資金源から追加的な資金を引き出すことにある。こうした協調融資活動を通じて、ADBは資金の流れを増やす触媒の役割を果たしている。日本の開発金融機関は、世界銀行グループに対してと同様に、ADBにも多額の協調融資を行っている。
加盟途上国におけるADBへの債務
ADBの重債務国は主に南アジア諸国であり、いずれもADFの主要な援助受け入れ国である。各借入国のADBへの債務に関しては、金額が世界銀行などの場合と比較して低いため、さほど注目されていないが、ADBは各国政府や民間の協調融資を促す触媒として債務問題に大きく荷担していることを見落としてはならない。
(注1)日本では、大蔵大臣が総務を、日本銀行総裁が総務代理を勤める。
◆参考資料:Asian Development Bank Annual Report 1995
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