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ADBプレスシートNO.4

実りある「対話」は可能か?
- ADBの政策とNGOの立場 -




アジア開発銀行(ADB)の加盟各国に活動基盤をもつ30前後のNGO諸団体は、数年前より年次総会の場で様々な提言活動を行ってきた。近年はその一環として、ADB総裁(佐藤光夫)との会合をもっている。昨年は、ADBの現行援助政策に関するNGOの見解を書簡にまとめて総裁に提出し、後日それに対して正式な回答を得ることができた。その中で浮き彫りにされた両者の主張の相違点を、以下、簡単にまとめる。

アジア開発基金
NGO:アジア開発基金の増資は、農村部インフラ整備、初等教育、予防医療など、社会・環境分野 への投資に援助が重点的に向けられる場合のみ受け入れ可能である。

ADB:部門別に貸付を制限するのは「非生産的」(counterproductive) であり、ADBの開発融資 にのうち、ADFに全面的に依存する諸国では開発戦略のバランスを損なうことになる。

情報公開と住民参加

NGO:現行の情報公開政策では、地域住民やNGOがプロジェクトの計画・準備段階で情報を 入手することはできない。ADBはこの問題点を早急に改善するため、現行の情報政策の改訂により 積極的な姿勢を示すべきである。また、情報公開の対象として、まずプロジェクトに直接影響を受 ける人々を優先すべきであり、少なくとも公開される情報は現地諸語でも提供されなければならな い。

ADB:情報公開の問題に関し、我々は常に話し合いの姿勢を示してきた。しかしながらプロジェク トの情報公開は、ADB、拠出国や借入国、そして民間部門のクライアント、それぞれの利益を損な わない限りでのみ可能である。また、文書の翻訳は援助対象国政府の責任事項である。

強制移住
NGO:強制的移住を伴うプロジェクトには融資すべきではない。ADBは移住を避けるべく代替案を 検討し、あらゆるプロジェクトにおいて移住を最小限にとどめるべきである。ADBは、住民の立ち 退きがやむをえない場合には、移住にともなって生じる地域社会の破壊や生活の糧の喪失をどのよ うに防ぐのかを明らかにすべきである。移住プロセスが適切ではない場合、ADBは、立ち退きを強 いられた人々や地域社会が抱える問題について、透明かつ参加型の意思決定に基づいて十分にその 対策を講じるべきである。

ADB:住民に潜在的または現実的な悪影響があるとしても、より大きな社会利益のために開発が進 められる場合、強制移住は不可避である。移転・再定住を最小限にし、移住させられる人々は、少 なくともプロジェクトが施行されない場合と同程度の生活が維持できるよう、援助が与えられるよ うにする。

エネルギー

NGO:ADBの融資状況は、再生可能なエネルギー技術や、需要を重視した管理 (DSM: Demand Side Management) をもたらすような方向へといまだ転換を見せていない。また、エネルギー供給 を確保するために民営化を押しすすめることは、都市中心的なマクロ経済偏重の発展モデルを是認 し、農村共同体を発展から取り残すことになる。

ADB:我々は、需要重視のエネルギー政策や再生可能な技術の支援のみならず、それらを進める上 での障害に対処するためワークショップも行ってきた。ADBのエネルギー政策は基本的に、市場競 争力のある電力を供給するため独立した電力事業者を育てることを目指すものである。したがっ て、民営化そのものは二次的な目的であり、すべてのエネルギー利用の解決策とは考えていない。 農村地域へのエネルギーの供給は、その利用が財政的な見地から成り立つ (financial viability) 場合のみ行われるべきである。

農業(林業、漁業)政策
NGO:1983年以降、ADBには包括的な農業政策が存在しない。また、個別の取り決めは全体とし て見ると一貫性を欠くものである。この部門への貸付は激減しているが、最近、資金供与されたプ ロジェクトは、「市場競争力のある農業」(competitive market-based agriculture) のための開 発や商業化されたプランテーション生産に偏っている。いずれも、最近ADB自身が宣言した「持続 可能な農業」(sustainable agriculture) と真っ向から対立するものである。

ADB:我々の現在の政策は、各々の農業サブセクター(水資源、灌漑、林業、漁業など)における 政策協議とプロジェクト決定のための基盤整備を積極的に行うための政策枠組みであり、農業部門 の包括的な政策と位置付けられている。農業部門への援助の削減はADBの戦略が変化したことの反 映である。各国の開発の必要性に応えるアプローチの採用も、ADBの業務の全体的な方向転換の一 環である。アジア太平洋地域において変化し続ける開発ニーズや優先事項を視野に入れるなら、こ の政策転換は妥当なものと考えられる。

査察機能 (Inspection Function)

NGO: 査察が施行されるのは公的セクターのプロジェクトだけであり、ADBが民間セクターの強化 を図っている現状では、ますます多くのADB支援プロジェクトが監視対象外となってしまう。査察 パネル (IP) は理事会に対しての責任を負っており (accountable) 、ADBから完全に独立したもの ではない。(注1)

ADB: NGO側の憂慮はわかる が、監視手続きは、地域共同体が持つかもしれないすべての憂慮点に 対処できるものではない。確かに民間セクターの業務は査察の対象外だが、それは銀行業務全体の 4パーセントに満たず、それ以外はADBの監督下にある。査察の領域を民間セクターにまで拡張す るかどうかは2年以内に検討する。独立性については、他の多国間開発銀行を見ればわかるよう に、査察機能の完全な独立というのは不可能である。


ADBに対するNGOの働きかけは、現在までに、いくつかの領域でそれなりの成果を挙げてきた。しかしながら以上見たように、両者の間の距離も決して小さくない。NGOは今後も、自身の見解がADBの政策内容に充分反映されるようさらに努力してしていかなければならない。同時に、それらが実施レベルでいかに運用され、その結果どのような問題が生じているのか、ということにも注視していく必要がある。いずれにせよ、私たちNGOは、こうした問題が改善していくため、ADBや加盟国政府が政策決定・実施のプロセスにおいて透明性とアカウンタビリティーを高めるよう、引き続き対話を通じて訴えていくつもりである。



(注1)パネルのメンバーにプロジェクトの是非を決定する権限はなく、最終的な決断を下すのは理事会のメンバーからなるBIC(Bank Inspection Committee)である。あくまでも、ADBのガイドラインに抵触した場合のみ提訴の対象となることから、その適用範囲には問題がある。また、IPが作られる前に融資が決まったプロジェクトは提訴の対象にならない。

◆参考資料
NGO Working Group on the ADB, Letter to the President Sato, Asian Development Bank (April 29, 1996)

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