JACSES
English Page
 
プログラム
・開発と援助
・税制と財政
・気候変動
・地球サミット
・NGO強化
・フロン
・グローバリゼーション
・環境容量
・水の民営化
 
団体概要
・団体のビジョン
・理事とスタッフ
・会員募集
・インターン募集
・事務所へのアクセス
 
出版物
 
リンク
・開発と援助
・税制と財政
 
HOME

ADBプレスシートNO.7

アジア開発銀行(ADB)とメコン川流域開発
ダム開発がもたらす環境と地域社会への影響


1997年のアジア開発銀行総会時にNGOによって作成されたプレスキットです。




1992年10月、アジア開発銀行(ADB)は大メコン圏地域経済協力(Greater Mekong Subregion、通称 GMS)の第1回閣僚会議を主催し、以降、特にこの地域におけるダム、道路、鉄道などの大規模なインフラストラクチャー整備の推進において中心的役割を担ってきた。

ADBが資金供与を行ったメコン地域の開発調査は、今後可能性のあるプロジェクトとして、メコン川及びその支流における50以上の大・中規模のダム建設計画を特定している。このうちのほんの幾つかのダムが建設されるだけでも、この地域に住む何千人という人々が、住む土地を追われ、生活基盤を脅かされるこのになるだろう。また、この地域のかけがえのない耕作地や森林が水没し、世界でも最も豊かな漁場のいくつかが壊滅的なダメージを受けることになるだろうと言われている。

こうした様々な影響が予想されるにもかかわらず、ADBはこれまでのところ、地元の地域社会、先住民族の人々、あるいは地元地域で活動するNGOなど、この地域の市民社会を構成するセクターが、メコン地域の開発の計画策定プロセスに参加するように促すような努力の姿勢は示しておらず、このことは、ADB自身の「参加型開発」に関するガイドラインと、まったく矛盾している。この事実はまさに、いわゆる「開発機関」としてのADBの責任性(アカウンタビリティー)と法的・倫理的正当性について重大な疑問を投げかけている。

ADBが資金援助を行っている多くのプロジェクトが、不備の多いフィージビリティ・スタディ(実行可能性調査)や環境影響評価(EIA)を基に、実施が進められている。こうした調査またはEIAの問題点は、資金供与を受ける国の経済状況や河川・森林といった自然環境、そして地元の地域社会に与える重要な影響をまったく考慮しないか、あるいは認識しても十分に対処していないということである。特に、魚類生態学、メコン川支流及び本流の水文学、土砂堆積の力学、さらに地元の地域社会にとってのメコン川の重要性などに関連する多くの疑問が、いまだ明らかにされていない。

大メコン圏地域(GMS)の開発
1992年以来、ADBはタイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、ビルマ、ならびに中国(雲南省)の6ヵ国にまたがる大メコン圏(GMS)の開発を積極的にリードしてきた。ADBによれば、これらGMS諸国では今後25年の間に、主に運輸、エネルギー、通信関連の約100に及ぶインフラ整備事業を実施するため、およそ400億ドルの資金が必要とされている。そして、このうちの約200億ドルは民間セクターからの資金が期待されると、ADBは予測している。

現在までのところ、ADBはすでに、約3億ドル近くの投資をメコン地域の開発に対して行ってきた。そして今後3年間のうちに、さらに3億ドルの資金を投じる予定である。ADBは主に2つの目的の基に、この資金を活用しようとしている。1つは、この地域への開発融資に関心を持つ他のドナーとともに、フィージビリティ・スタディや詳細技術設計の実施、あるいはプロジェクトへの直接投資を行うことである。そしてもう1つは、公的援助機関や民間セクターからの資金をさらに動員するうえで「媒介」的な役割を果たすことである。

流域諸国の人々の暮らしを支えるメコン川の環境と自然
メコン川は中国のチベット高原に源流を発し、中国雲南省、ビルマ、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの6ヵ国の一部を通り、最後は南シナ海へと注いでいる。全長約4500キロ(世界第11位)、流域面積は日本の国土の2倍以上に当たる79万5千平方キロ(世界21位)に及ぶ。このアジアでも有数の国際河川は、この地域の貴重で豊穰な生態系を支える重要な源であり、食糧、水、交通、重要な生計基盤を流域に暮らす5000万以上の人々に提供している。

現在のところ、メコン川の年間ーーのうちのわずか5%がダムによって制御されているが、流域での水力発電の開発は、この地域の急速な工業化にともなって、そのペースは年々加速している。中国は、2000年までに3つの大規模ダムをメコン川本流に建設する計画である。また、ラオスでは2010年までに23に及ぶダム建設プロジェクトを完了する予定で、そのうちのいくつかは既に建設が始まっている。さらに、メコン開発計画のコーディネート役を担う「メコン川委員会(MRC)」の技術面部門であるメコン事務局??(Mekong Secretariat ) が発表したある調査では、メコン川本流に9基の流れ込み式ダムを建設することが提案されている。しかし、これらの提案されたプロジェクトや実施に移されつつある開発計画がメコン川流域全体に及ぼす「累積的な影響」について評価しようという動きは、計画に係わっているドナーや実施機関のいずれからも出ていない。

「ダム偏重」のエネルギー開発
ADBは1993年に、ノルウェーのコンサルタント会社であるNorconsult Internationalに対して、GMSのエネルギー分野に関する調査を依頼し、実施契約を結んだ。この調査の目的は「大メコン圏内の水資源、電力及び天然ガス分野(の開発に向けた)協力を推進する上での、範囲・機会・方法を特定する」こととされている。(注1)Norconsultはノルウェーで最大の、水力発電専門のコンサルト会社で、これまでメコン地域の多くのダム事業に関与してきている。

94年、Norconsultは最終報告書を発表したが、この調査結果は、Norconsultの水力発電に対する偏向が如実に現われている。報告書は、メコン地域の電力需要を解決するうえで最も環境にやさしい解決策として水力発電を提唱しており、一方、水力発電開発によって引き起こされる多大な負の影響については考慮されたまったく形跡がない。

Norconsultによるこの調査報告は、まるでダムのカタログのようである。大規模な水力発電に替わるものとして、分散型再生可能なエネルギーの開発についての検討はまったく行っていない。(注2)さらに、メコン地域における電力需要の大半はタイが占めているにもかかわらず、新たな発電所の建設に替わるものとして、タイでのエネルギー効率改善や省エネルギープログラムを拡大するという案も考慮していない。(注3)

メコン川流域に暮らす数百万の人々、無数の河川、そして氾濫原の動植物は、メコン川の年間を通じた氾濫・渇水のサイクルに依拠しており、あらゆる自然システムはこのプロセスに基づいて機能している。この自然のシステムの完全性は、現在、この地域に計画されている水資源開発によって、大きな脅威にさらされることになるだろう。また、大規模ダムの経済的妥当性についても、多くの深刻な問題が存在する。世界銀行の調査によると、世銀が融資した水力発電プロジェクトは、平均で約30パーセントのコスト超過(インフレ調整済みの計算)を被っており、これは同銀行の融資による火力発電所プロジェクトにおける平均のコスト超過の約3倍に当る。(注4)

また、メコン地域の水力発電計画を注視する者のなかからは、この地域の水力発電プロジェクトによって期待される発電量の見積もりは非現実的かつ楽観的であると、厳しく批判する声が挙がっている。こうした批判は、特に、メコン地域の河川の水量がどのくらいであるか、それがどのように変化してきたかについての情報がほとんど存在しない事実を考えあわせると、まったく妥当なものといえる。流域の土地利用、あるいは気候温暖化による地域の気候などに生じるであろう変化は、将来の河川の流れのパターンや電力生産に関する不確実性を高めることになる。 また、ダムによって生み出される電力に対して、タイがどの程度の支払いをすることになるのかという点も不確かである。タイでは電力市場の規制緩和が進み、天然ガス燃焼を利用した独自の電力生産者が新たに参入したことによって、電力料金は下落している。また、タイの電力需要に関する当初の見通しも、減少方向に大幅に変更されている。ラオスが国家経済の将来を水力発電に頼ることは、非常に高いリスクを伴う戦略である。このことはスリランカ、パラグアイ、エクアドル、グアテマラなど、国家経済を水力発電に依拠した国々の経験を見ても明らである。こうした国々では、多額の資金がダム建設につぎ込まれたが、その結果、重債務を抱え、にわか景気と不景気が交互に訪れる不安定な経済サイクルを招くことになった。そして、干魃に見舞われればたちまちに、電力不足と直面せざるを得ないのである。(注5)

大メコン圏地域のダム開発プロジェクト事例
ADBが資金供与を行っているGMSの水力発電計画における幾つかの問題点を示す事例を、以下に紹介する。

a. トゥン・ヒンブン水力発電プロジェクト(Theun Hinboun Hydropower Project)  
1994年、ADBは、トゥン・ヒンブン水力発電プロジェクト(総工費2億8千万USドル、210MWの発電が可能)に対し、ラオス政府への6000万米ドルの融資を承認した。この計画はノルウェー政府の援助機関であるNORADによって協調融資され、ダムの建設は現在進行中である。このダムのEIAはNorconsultが引受け、1993年には幾つもノルウェー政府機関が批判を与えたにも関わらず、翌年無条件でADBに承認された。以来、調査結果のうち最重要とされるものの多く(例えば地域住民と漁業にダムが与える影響など)は、その後、NORADの依頼によりノルウェーの別のコンサルタントであるNorplanによって95ー96年にかけて実施されたEIAによって、ことごとくその誤りを指摘されている。(注6)こうした問題にも関わらずADBは、トゥン・ヒンブンこそが地域の水力発電開発における援助と民間セクター間の協力の「良い事例」であると、現在もなお主張している。

b. ナム・ルック水力発電開発 (Namu Leuk Hydropower Development)
1996年9月、ADBは、ラオス政府と日本の海外経済協力基金(OECF)の協調融資によるナム・ルック・ダム(総工費1億1000万米ドル)の建設に対し、5200万米ドルの融資を承認した。ADBは、フランスの技術コンサルタント、Sogreah Ingenierie によるEIAの調査結果は「不適切で虚為の」ものであるという指摘があるにもかかわらず、この計画への支援を決定した。(注7) 

河川生態学の専門家であるガイ・ランザ博士(Dr. Guy Lanza)は、アメリカに本拠を置く環境NGOのInternational Rivers Network (IRN)からナム・ルックダムのEIAの分析を依頼され、その結果、以下のように述べている。「プロジェクトによって環境に生じる多くの極めて重要な問題点が明かにされておらず、提供された不十分なデータを基にした誤った仮定、不適切な解釈しかなされていない」。そして、ナム・ルックダムは「深刻な影響を環境に及ぼし、地域の生態系、社会、経済にダメージを与えることになるだろう」とランザ博士は指摘している。

一方、日本政府はこのナム・ルック・ダムへの支援に際し、ラオスに対する円借款供与を20 年振りに再開した。これまで政府は、後発開発途上国に対しては援助の無償化(円借款ではなく無償資金による援助)を進めるという方針を打ち出している(第5次中期目標)いるにもかかわらず、後発開発途上国であるラオスへの借款を決定した事ーー矛盾。特にナム・ルックダムプロジェクトの経済的妥当性自体に大きな疑問があることを考えあわせると、このプロジェクトへの円借款供与はラオスの債務負担をさらに深刻化させることになると、NGOは強く警告している。

c. セコン/セサン及びナム・トゥン川流域開発調査
(Xe Kong-Se san and Nam Theun River Basin Study)

 1996年8月、中国雲南省のクンミンにおいて第6回大メコン圏経済協力会議(GMS)が開かれた。この会合でADBは、カンボジア、ラオス、ベトナムにまたがるセコン/セサン川(Xe Kong-Se San)及びナム・トゥン(Nam Theun)川流域の「流域水力発電開発計画」の調査に対し、250万米ドルの資金的支援を行うと発表した。
 ADBによる調査の業務指示書(TOR)によると、この調査の「主な成果」として、「早期の実施」を目指した、少なくとも6つの水力発電プロジェクトを発掘・選定することが挙げられている。水文学、気象学、地質学、生態学、そして河川流域の社会経済的な特性に関しての、信頼性のある情報がないにも関わらず、ADBのTORは、これらダムは「経済的に実現可能で、社会環境的に受け入れられるものである」という仮定の上に成り立っている。(注8)セコン/セサンの2河川を合わせると、メコン川下流の水量の10%以上を占めており、両河川流域におけるダム建設は、流域自体だけでなく、同時に、カンボジアとベトナムを流れるメコン川本流の社会、経済、そして環境に大変動をもたらすことになるだろう。

メコン開発関連のイニシアティブと日本の役割
ADBとともに日本は、二国間ODAや民間投資を通じ、メコン開発において非常に重要な役割を果たしている。日本は、メコン地域開発の中心的な資金メカニズムであるADBのアジア開発基金(ADF)に対して、全体の30パーセント以上の拠出をし、また「インドシナ総合開発フォーラム」の「インフラ整備ワーキング・グループ」の共同議長も務めている。「メコン委員会」(MRC)事務局長の的場泰信氏を始めとして、メコン関連のイニシアティブにおける重要な役職の多くも、日本の官僚が占めている。

日本のメコン開発への関心は、インフラ関連の開発に集中しているが、メコン地域への日本の関与を監視している日本のNGOは、流域開発に伴う社会的・環境的配慮に対して、日本政府や民間セクターはほとんど注意を向けていないと指摘している。デンマークやスウェーデン、オーストリア等といったMRCの主要ドナー国は住民参加や住民との協議について対策を講じるよう委員会に求めているのに対し、日本の政府と援助機関は、こうした問題に対して沈黙を守っている。

《文責:Aviva Imhof (International Rivers Network)/浦本美穂子(メコン・ウォッチ)》



注1) Norconsult International A.S. Subregional Energy Sector Study for Asian Development Bank - Final Report, }November 1994, Preface.
(注2)2. Imhof, A. ADB Energy Campaign Paper, NGO Working Group on the ADB, April 1996.
(注3)メコン地域のエネルギー分野に関する調査のために、Norconsultのような水力発電関係のコンサルタントを雇用する当っては、様々な利害関係が絡んでいる。ADBは現在、その内容についてまったく疑問を呈すること無く、この調査の提言を実施に移している。
(注4) A.W. Bacon et al, "Estimating Construction Costs and Schedules: Experience with Power Generation Projects in Developing Countries", World Bank Technical Paper No. 325, August 1996.
(注5)McCully P, Silenced Rivers: The Ecology and Politics of Large Dams, Zed Books, London, 1996.
(注6) NORPLAN A.S Impact Studies for the Theun-Hinboun Hydropower Project Laos, - Final Report, May 1996.
(注7)Guy Lanza, A Review of Nam Leuk Hydropower Development Project Environmental Impact Assessment Final Report, Environmental Sciences Program, University of Massachusetts, August 1996.
(注8) Watershed-- Report, "Asian Development Bank: Money and Power in the Mekong Region", Watershed, Vol. 2 No. 2 November 1996-February 1997, p39. プロジェクトの影響を受けると思われる住民との協議も無いまま、このような仮定が下された。

◆参考資料:
松本悟『メコン開発-21世紀の開発援助』(築地書館、1997年)

| BACK |

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
 〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-3-2 三信ビル401(事務所へのアクセス
 Phone: 03-3556-7323 Fax: 03-3556-7328 Email:

 

Copyright JACSES All Rights Reserved.

 

home