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JACSESセミナー
「環境税 〜地球・国・地方の切り札〜」

2003年3月25日
於:星陵会館ホール

第1部 : 報告

第2部 : パネル討論
  1 - パネラーより
  2 - 討論
  3 - 質疑応答、コメント

 

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開演前の会場の様子

 

 報告者 : 諸富 徹 氏 (京都大学大学院経済学研究科助教授)

京都大学助教授、諸富氏

 今日はタイトルにもあるように環境税をいろいろなレベルから話をして、後のパネルディスカッションの論点を整理できればと思う。

 環境省が、2005年以降できる限り早期に環境税の本格的な検討を始めたいという報道がなされ、これから議論が本格的になっていくかと思うが、環境税にはどういう選択肢がありえるのか、実際に特にヨーロッパにおいてどのような環境税が導入され、どのような議論があるのかということをお伝えしたい。


I. 日本のエネルギー税制の現状と「エネルギー特別会計」の見直し

 最近、エネルギー関連税に関して、石油特別会計の見直しと電源開発促進対策特別会計の見直しが行われ、それに伴ってエネルギー関連税の税率変更が行われた。

見直しの重要な点は、(1)LNGとLPGに対する税率の段階的な引き上げ、(2)今まで非課税だった石炭への課税とその段階的な引き上げ、(3)それとは逆の電源開発促進税の引き下げ、の3点がある。さらに、現行の石油特別会計の使途を、地球温暖化対策とエネルギー安全保障対策に充てるとされ、とくに温暖化対策に関しては環境省と経済産業省との共管化も行われることになった。

ただし、これらの改革は温暖化対策税や炭素税や環境税とは別の物であり、温暖化対策税などの議論はこれらの改革とは別に進められているという現状にある。

 日本におけるエネルギー課税の現状を(表1) に示す。ここで言う課税段階の"上流"とは、化石燃料の流れの中で輸入元にいちばん近い所であり、"下流"は消費段階に近い所である。日本では"上流"で天然ガスや石油・石油製品に石油税がかかり、"下流"で個々の燃料・石油製品ごとの課税(ガソリン税など)がなされ、また電力に電促税が課税されている。石炭は現状では上流でも下流でも課税されていないが、今後新たに課税がなされる。さらにLNG、LPGも税率が引き上げられる。

表1  既存の化石燃料・エネルギーへの課税

 

課税対象

上流

課税標準

天然ガス

石油・石油製品

石炭

電力

税目

石油税(※)

   

下流

課税標準

天然ガス

ガソリン

軽油

LPG

灯油

重油

ジェット燃料

石炭

電力

税目

 

ガソリン税(※)

軽油引取税(※)

石油ガス税(※)

   

航空機燃料税(※)

 

電源開発促進税(※)

(※) は現行税制の下で課税されている課税対象を示す。

[出所]中央環境審議会地球温暖化対策税制専門部会(2001)

 

 この改革は、おそらく温暖化対策から見ればプラスの効果を持つであろう。そしてその改革が行われた上で、さらに包括的な形でかける税として、現在の温暖化対策税は構想されており、正にこれから議論になろうとしている。

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II. ヨーロッパでの環境税を巡る議論

 そこで、諸外国でどういう議論があったのか、とりわけ次々と環境税が導入されたヨーロッパにおいて、どのような議論があったか、また環境税の効果の有無について話す。

 まず税の話に入る前に、地球温暖化対策を巡る政策手段について。

 温暖化対策としての政策手段は、(1)排出量取引制度(許可証制度)、(2)税、(3)直接規制、(4)補助金、(5)自主的協定制度と、大体5つのカテゴリーに分けられる。欧州各国の温暖化対策は、イギリスのような環境税と排出量取引とのセット、自主的協定とのセット、補助金とのセットなど、環境税と他の政策のいくつかを組み合わせるのが主潮流と言ってよい。

・ オランダの自主的協定制度
 これらの政策の中で、オランダの自主的協定制度の例について。
 自主的協定制度とは、化学、鉄鋼などの各産業セクターが「どれ位のターゲットを設けるか」「どの位エネルギー効率を改善するか」という目標を定め、あくまで自主的な形で政府との協定を結び、温室効果ガスの排出量の制限を行う仕組みである。ただし"自主的"と言うように、仮に守れなくても罰則があるわけではない。よって、現在の日本の経団連による、自主的な取り組みと呼ばれているものと、かなり性格が似ている。

・ デンマークの税と協定とのセット
 これに対し、デンマークは税と協定制度をセットにした形をとっている。今日の話の焦点であるCO2税がデンマークにはあるが、その税率の区分として"合意あり"と"合意なし"という区分がなされる。この"合意"とは協定の意味で、産業が何らかの温暖化対策上の措置を講じる、という政府との合意のことである。もし合意した場合には、必ずその対策を取らなければならないが、それを条件に税率が割り引かれる。例えば2000年であれば、合意がない場合には25クローナーだが、合意すれば3クローナーに軽減される。

 なぜこのような"合意"の制度ができたかというと、勿論25クローナーで一律に課税することが経済学から言えば理想的な課税形態ではあるが、そうするとエネルギー集約型の重工超大産業の税負担が大変重くなり、また、デンマークがCO2税を導入した時点ではまだドイツもイギリスも環境税を導入していなかったため、国際競争力上大変マイナスになる、という理由からである。彼らの税負担を和らげながら、かつ環境政策上の効果を保持しながらCO2税を実施し続けるにはどうしたらいいか、という事で考え出されたのがこの制度である。

 デンマーク政府の政策担当者たちは、オランダに自主的協定制度の調査に行ったが、デンマークではとても導入できそうにないと判断した。「協定制度が守られなくても罰則がないという制度の下で、どうやって温室効果ガスの削減を担保できるのか、という疑問が最後の最後まで解けなかった」と、政策担当者たちへの個人的なヒアリングで聞いた。

・ オランダとデンマークの評価の比較
 オランダの自主的協定制度については、結論から言うと一定のエネルギー効率性の改善という意味はあったのではないかと言える。エネルギー価格が80年代後半から90年代初頭にかけて急速に下がっているが、その間にもエネルギーの効率性は改善されている。これは、エネルギー価格の下落にもかかわらず効率性改善が行われたことを示しており、それは協定制度によるものであると見られる。ところが、生産一単位あたり(原単位あたり)のエネルギー使用量は改善が見られたが、CO2排出量の絶対量で見ると必ずしも良いパフォーマンスをオランダは示せていなかった。

 90年代におけるオランダの産業からのCO2排出量はほとんど横ばいである。それに対して、炭素税(CO2 税)を92年に導入し、95年にさらに産業に対する炭素税を強化していったデンマークでは、その間にCO2排出量も低下している。従って、オランダの政策を結論で評価すると、自主的協定制度は一定程度の効率性の改善には役立ったが、排出量の絶対量での制御には失敗している。それに対してデンマークは、税と協定制度を組み合わせることにより、CO2排出量の抑制に成功していると言える。

・ イギリスの制度
 イギリスは、(1)排出権取引制度、(2)環境税、(3)協定制度の3つを組み合わせた、現在に至るまでもっとも興味深い制度の仕組みを有している。

 普通環境税というのは、(図1) で言うと、OTの高さの税金をCO2の排出に対してかける。それに対して企業がCO2の排出の削減にかかるコストのカーブ(MC)が描かれているが、経済学の中で議論しているのは、Tという税金を課税することにより、排出量は当初のPから、ちょうど限界排出削減費用というものが税率と等しくなる水準のQまで排出が減るだろうという議論をする。

図1 税、排出権取引制度、協定制度のポリシーミックス
「費用」対「排出量」のグラフ。イギリスのポリシーミックスを例に。
大きなグラフはこちら。(pdfファイル、別ウィンドウ)

 しかし、(図1を参照) イギリスの制度では税率が一定ではなく、屈曲している。これはデンマークのように、政府と協定を結ぶことにより税率が5分の1に引き下げられるため、CO2削減のインセンティブが非常に効く仕組みとなっている。一方、協定上約束したことが守れないと判明した場合には、税率は元の水準に戻る。よって一旦協定を結べば、それを遵守しようという動機付けが非常に働く。

 それに加えて、協定を結んだ企業同士が排出量取引をすることができる。"排出量取引市場"に参入して相互に取引することによって、もっと費用効率的な削減ができる仕組みになっている。

・ ドイツの環境税に対する評価
 次に環境税の効果の実際について、ここではドイツの評価を紹介する(表2)。ドイツの特徴は、(これはデンマークやイギリスでも特徴的なことだが、)環境税を入れておきながら、税収中立的に、環境税と同額の税収を既存の社会保険料の削減に充てていることである。そうした制度とした背景については割愛する。"税収中立"とは増税額と減税額が同額になるということである。その場合の効果としては、
 ・ 経済成長率に大きなマイナスのインパクトは見られず、
 ・ 雇用は逆に増え、
 ・ ある程度のCO2削減が可能となり、
 ・ 低所得者層に対する逆進的な影響が懸念される使途分配に関してもそれほど大きな影響も見られない、
などの効果があるとの結論が出ている。

表2 環境税制改革の影響評価
 
経済成長率
雇用増加
CO2の排出削減
所得分配
RWI(1999) 影響はほとんどなし 平均で年7万5千人 2010年までに
 900万トンの削減
平均で0.7%の所得上昇
Bach et al.(2001)2005年時点で最大で2010年までに所得階層により、
−0.36〜2.90%の間で変動
 1)PANTA RHEI
−0.61%
17万6千人
1,000万トンの削減
 2)LEAN
+0.02%
25万人

 

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III. 日本における環境税導入の際の論点整理

 これからの日本における温暖化対策税に関する議論の論点を整理する。
 一つの大きな論点は、包括的な新税をCO2ないし温室効果ガスと呼ばれるものに課税していくアプローチである。

 もう一つは既存税の活用である。既に相当な化石燃料に対する課税が存在しており、(その多くは特定財源として道路などの特定の目的に使われているが、)これらの課税ベースを単なる重量ベースではなく、カーボントン当たり(炭素含有量当たり)に切り替えることで、事実上炭素税化していくというようなアプローチがある。これは包括的な新税の導入、というアプローチと一応区別されており、いわゆる特定財源の一般財源化の話と関連して、こうした既存税の改革を行うべき、という論点がある。

 さらにもう一つの大きな論点として、税収の使途に関する論点がある。仮に環境税、温暖化対策税が導入された場合、選択肢の一つは、今ご紹介したデンマーク、イギリス、ドイツなどのヨーロッパ諸国のような税収中立的な形での導入である。かたや環境税導入、かたや既存税の減税となるので、マクロ的に政府に入る純収入は増減税同額だから増えず、それによってマクロ経済的ショックはおそらく相殺されてしまう。加えて重工超大産業をはじめとする負担が相当重くなるであろう産業に対しては、減税ないしは税率の割引あるいは還付などでミクロ的な負担も相殺することによって、ドイツが評価されたような、マクロ的にもミクロ的にも望ましい形での環境税の導入が可能となるアプローチである。もう一つの選択肢は、比較的低い税率で税収も多くはないが、それを温暖化対策に充てるような形、要するに目的税化というアプローチも当然あり得る。税収の使途については大きく分けてこの2つのアプローチがあるかと思われるが、これをどうするかが一つの論点になる。

 最後にもう一つの論点としては、おそらく炭素税や温暖化対策税は"国税"と想定されているわけだが、実際に地球温暖化対策を行う際には、地方自治体が担うべき役割は相当大きいと思われる。そうなると税収を地方自治体に回す必要があるのではないか、という議論もあり得る。

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IV. 地方環境税について

 最後に地方環境税にふれる。国のレベルでは温暖化対策税をめぐる議論がなかなか前に進まず、当然産業界の方々も反対をされている、そしてようやく環境省がかなり本格的に検討を始めるたわけだが、その間に日本では、地方自治体のレベルで環境税の導入が進む、という現象が起きている。議論の開始は地方自治体の方が遅かったが、1999年の地方分権一括法がきっかけとなって議論が進んだ。この地方分権一括法により、他都道府県が実施していなくとも、条例による"法定外普通税""法定外目的税"の導入が可能になり、それ以来、地方自治体の機運が急に高まって、条例が軒並み制定され出した。諸富氏

 これらの地方環境税は、主として2つのタイプに分けることができる。一つは産業廃棄物税(産廃税)であり、もう一つは水源環境税あるいは森林環境税と呼ばれるものである。

 産廃税に関しては、先陣を切って三重県が導入したことをみなさんご存知かと思う。産廃税については、排出者つまりゴミを出す企業に課税する場合と、最終処分場を管理している事業者に課税する場合の2つに分けられる。先陣を切った三重県の場合は排出者課税であり、それに対して最近条例を可決した、岩手、青森、秋田、広島などは処分段階でかけるという特徴を持っている。福岡県は、内々に検討中だが、三重県型であろう。

 三重県の場合、税を徴収する前の期間で、相当な廃棄物の削減が行われた。当初税収は11億ぐらいと言われていたが、激減し、おそらく3〜4億くらいと見積もられている。これは、産業廃棄物を削減あるいはリサイクルする余地が実はかなりあって、なかなかそれは進まなかったが、税が入るというアナウンスメント効果によって、削減やリサイクルが行われたというのが実情であろう。

 また、水源環境税/森林環境税にも2つのタイプがある。最近条例が可決されたと報道された高知県では、税収は森林の改良や森林の育成のために使われ、その課税の方法は、これが面白いのだが、なんと住民税の超過課税つまり既存の住民税の税率を引き上げるという形にしている。神奈川県では税収の使途は同様だが、水道の使用料に応じて課税するタイプをおそらく考えている。最終的な導入の形はわからないが、このようなタイプ分けができるだろう。

 いずれにせよ、日本の場合には地方先行型で議論が進んでいるという特徴がある。

・ 地方における炭素税

 最後に"地方炭素税"の可能性について述べる。環境政策に関しては、国際レベル、国レベル、地方レベルなど、(表3)のような政府間での役割分担ができると思う。

表3 環境政策の政府間機能配分
市町村一般廃棄物、水管理(上下水道)、都市計画(景観を含む)、大気汚染(固定発生源対策)、土地利用(土壌、地下水)
都道府県 産業廃棄物、大気汚染(移動発生源対策)、水管理(流域管理)、地域計画(森林保全を含む)
全国的な交通体系の管理、環境に関する最低要求水準の設定、広域的な大気汚染(酸性雨問題を含む)、地球温暖化問題

 都道府県の役割としては、産業廃棄物、大気汚染(移動発生源、つまり自動車)、自動車税制のグリーン化(自動車税は都道府県税であり、まさに都道府県レベルである。)、森林/水管理などの地域計画、などがある。国レベルに関しては、地球温暖化対策その他などがあり、市町村については、一般廃棄物(いわゆるゴミの有料化)、水道料金を使った上下水道の管理などの手法があり、現在も実施していることである。おそらくこのような役割分担になるだろう。

 ただし、地球温暖化対策には、家計部門や交通部門での対策など、地方自治体が主体的に行っている施策が随分多いので、国税として得た温暖化対策税を、税収還付という形で地方自治体に回しながら、地方自治体が責任を持って環境対策を行っていく、という形も十分考えられるかと思う。

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