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伊藤
康 氏(司会、千葉商科大学商経学部 助教授): 鈴木環境大臣が制度設計の具体案を7月までに発表すると述べ、昨年にはエネルギー税制が変えられるなど、環境税・エネルギー税のいろいろな流れが出てきた。これらは環境やエネルギーにはもちろん影響があるが、同時に我々の生活にも影響が出る。しかし市民の間で必ずしも議論が活発とはいない。そこで、具体的な制度設計がでてくるこの時期をとらえてどういういい点があるのか、どういう問題点があるのかを考えたい。今日は時間の都合で、主に炭素税、地球温暖化対策税に焦点を絞って議論を進めたい。 小林光
氏(環境省 大臣官房審議官): 環境省で、環境税や、環境と経済の統合を担当している。また、民間の力を国の政策に組み込んだ、政府と民間が共に環境をよくしていく循環型社会などの社会の実現に向けた政策も担当している。個人的にはCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議、京都)の時に温暖化対策の課長(当時環境庁)だったこともあり、温暖化対策にはいろいろな形で関わってきている。 特に環境税に関しては、1992年の地球サミット(環境と開発に関する国連会議、リオデジャネイロ(ブラジル))が国内外で大きく取り上げられた、その頃から担当している。10年が経ってもなかなか導入されないが、個人的には非常に必要だと考え、いろんな所で議論してきている。個人的な意見になるかもしれないが、今日はもっと踏み込んだ話も申し上げたい。 環境省の検討状況は、配布した資料に基づいて話をする。地球の使用料をきちんと支払っていく仕組みとしての、規制もあれば税もある、そういった手段の一つとして、環境税は非常に重要だという認識をしている。しかし、温暖化対策税に関しては環境省として今すぐ「導入する必要がある、こういう案だ」と言えない状況にある。世間には「環境省は必ず環境税を入れる」と言う話もあるようだが、現在、温暖化対策税を入れるのか、入れないと対策が進まないのか、という事も含めて検討を進めている。なぜなら、京都議定書の発効を近くに控え、2008年から2012年の5年間で1990年比6%の削減をしないとならないが、それに対して今からやみくもに対策をとるのではなく、"ステップバイステップのアプローチ"によって段階的に対策をとるのが、現在の環境省のみならず、政府の方針であるからだ。 その第一のステップが現在であり、100以上の対策が行われている。その中身の一部は例えば燃費についての自動車等の規制、経団連等の自主的取り組み、また一部は温室効果ガス削減への補助金などがある。そして2004年にこの対策の成果から2008年の排出削減可能性をレビューし、もし必要なら第二ステップで対策の追加/強化を行うことになっている。その追加対策の候補として温暖化対策税がある。2004年からの議論では第二ステップの開始(2005年)に間に合わないので、今から検討をしている。 地球温暖化対策税のこれまでの検討経緯は、平成2年から佐和先生(佐和隆光氏:京都大学経済研究所所長)や石先生(石弘光氏:一橋大学学長、政府税制調査会会長)の研究会を開催し、そして現在は中央環境審議会の専門委員会(温暖化対策税制専門委員会)において温暖化対策の検討を進めている。現在は、大枠として(9P)のようなものを考えながら、さらに細かい部分を検討している。つまりは規制や自主的取り組みの強化だけでは間に合わないようであれば、一つの方策として課税を考えてはどうか、という状況にある。 現段階の制度としては、税額がCO2排出量に比例する形で、全ての化石燃料に対して課税をする。燃焼なしにCO2が排出されるものにも、平等にCO2換算で課税するのが基本ではないかと考えている。 税収使途に関しては税率に依存する。高い税率で行うのが教科書的な環境税であるが、それ以外にもポリシーミックスを行う比較的税率の低い税なども考えられる。現在さまざまな施策が行われていることを考えると、高税率でなくていいだろう。また、税収を環境対策だけに充てるならば、もっと税率の低い税も設計可能である。経済情勢や既存の対策を踏まえると、低い税率で使途を温暖化対策とする、いわば目的税的な税が良いのではないか。歳出面では、幅広い分野の優れた温暖化対策を支援するための財源に充てていくべきではないか。燃料電池やバイオマス燃料の大量普及、都市改造、吸収源対策とくに森林対策、革新的技術の実用化、などが考えられる。いずれにしても税の導入が目的ではなく、CO2の削減が目的であるので、その他の既存の対策と整合性、連携をとる必要がある。 税についてはいろいろな利点があり、真剣に検討するに値する。いろいろな意見を頂戴しながら、より良い案を考えていきたい。税のメリットとしては、全ての人々に対策の動機付けが行われ、国民総参加であること、環境負荷に応じた負担という意味で公平性があること、また課税回避のための対策についてその対策の選択が自由であり、経済合理性があること、環境の観点から幅広い分野で優秀なものを選んで財政支援ができること、などが挙げられる。 既に行われている自動車税制のグリーン化では大きな成果を得ており、税的手段は有効ではないかと真剣に検討している。なお、今年の税制改正要項では環境省として申し上げず、来年末の税制改正の中で、もし必要であればこのような税の導入をお願いしたいと考えている。 田端
正広 氏 公明党が連立政権に参画して3年になるが、最初の年の2000年には循環型社会形成推進基本法の叩き台づくりに関わった。環境税の問題もその流れの中で捕えていきたい。また、地元の後援会にビラを配り、「誰でもできるエコライフ運動」を進めている。 昨年の地球環境サミット(持続可能な開発に関する国連会議、ヨハネスブルグ(南アフリカ共和国))にも行き、京都の水フォーラムにも行った。今回のイラク問題もそうだが、アメリカの問題が大きいと考えている。ヨハネスブルグサミットの前に、京都議定書を離脱した際にはアメリカ国務省でアーミテージ国務副長官にも会い、抗議をした。 ヨハネスブルクにはブッシュ大統領が来ずにパウエル国務長官が来て、演説の中で「今後もアメリカは京都議定書にコミットする」と言ったため、大ブーイングを受けて演説3回中断した。一方、小泉首相は6分程度の演説だったが、コンパクトに、持続可能な発展のために、野口英世を生んだ日本として、人間で今後貢献するというスピーチをし、大変な反響があった。 また、水フォーラムでは、アメリカの国会議員、政府関係者は誰も来なかったが、やはり来訪して堂々とものを言うべきだと思った。 イラク戦争は遺憾だが、与党としてはやむをえないという思いだが、国際会議できちんとしないといけないとの思いは変わらないし、また議定書離脱のわがままは許してはいけないという思いは皆さんと同じだと思う。 配布資料の中の環境税案は、党の考え方を自分なりにまとめた"田端私案"であって、党の案とは考えないでほしい。環境大臣は今回の所信表明演説で、環境省のイニシアチブを明確に述べ、京都議定書達成のために必要なら、2005年以降早期に温暖化対策税を導入できるよう具体的な制度案について検討していきたい旨を述べた。この環境大臣をサポートしながら環境税の実現を後押ししたい。 "田端私案"は、炭素トンあたり3千円(ガソリン1リットル当たり2円前後)で、税収総額で9000億から1兆円でやってはどうか、という考え。また、できるだけ「税率を低く、効果は厚く」としないと、タックスオンタックスになることなど、難しい面が出てくるだろう。徴収方法はいろいろあるが、効果を期待すると下流だろうと考えている。使途は新エネ省エネ開発等の技術投資、あるいは温暖化防止の実効性のある取り組みへの補助金など。価格による抑制効果と、目的税的な歳出活動による経済活動への影響をできるだけ少なくしたい。ポリシーミックスのトータルで目標2%の削減を設定したい。このような考えにたって私案として出させていただいた。 なお産廃税は、各県で実施されているが、県に任せるよりも、むしろ国としての導入するほうがいいと考えている。県を跨ぐ問題や、県がばらばらの対策(産廃税以外の協力金制度など)を取ると最終的に混乱する問題などがあるので、産廃税を導入する県がある程度出揃った段階で、国が一つのルールをつくるか、できるならば国が主体となって行ったらいいと考えている。 中川
正春 氏(衆議院議員、民主党政調会長代理): 民主党からは、役者が代わりつつこの3年間、JACSESのセミナーに参加している。民主党はイギリスで言う影の内閣、ネクストキャビネットというのがあり、1年目は環境大臣の佐藤(佐藤謙一郎氏、衆議院議員)、2年目は税制担当の峰崎(峰崎直樹氏、衆議院議員)、3年目はそろそろジェネラリストでということで、政策調査会におり、ネクストキャビネットでは皆の意見をまとめる司会という立場にいる私が来た。 民主党は今国会で予算の組み替え動議を出した。「既存の感覚に捕らわれていてはだめだ」という考えから、緑のダム構想を大胆にうちあげ、環境対策、新技術、産業構造転換サイドに思い切った税のシフトをしていこうという提案を具体的に行った、ただ、結果的には数が足らないので動かなかった。 環境税も6%削減を本当に実現しようとすると、熱心に行っている環境省でさえこんな議論なのだから到底間に合わない。具体的に対策を行うことで実感として削減できた、とするものがないとだめだと考え、炭素税の導入についても国会の議論にのせて効果のあるものに作り変えていこうという意図で、具体的な提案をしている。 "環境税のイメージ"という民主党の資料を見ていただきたいが、石炭を含む化石燃料に炭素トンあたり3千円を課税し、税収は約9千億円を見込む。ただし、原料炭やナフサ等は課税しない。炭素トン3千円は炭素税研究会の提案よりも低いが、現在の景気状況の中で経済界の納得を得、具体性を持った話としてまず第一歩として進めるためには、これを制度として入れる事がまず大事だ、という議論の基でこの税率に設定した。使途は原則として一般財源にする。そういう意味では道路特定財源も一般財源ということが正しいと考えている。ただし、新エネ省エネに関する技術開発と設備投資には重点配分を行う、そうした予算構造に変えるべきだ。 現行制度との調整も考えている。電源開発促進税は使途の一部が新エネルギーの開発等に充てられててられているので、この際3分の1程度を環境税として組み替えてはどうか。また、環境税導入によって原子力発電が相対的に有利になるのを避けるため、石油税の税率を3分の1ほど引き下げて調整するとしたい。今まで非課税であった石炭には激変緩和措置をとる。 それから、ご批判があるところであるが、自動車関連諸税も整理合理化もする。これは税制分野から議論が出てきており、もともと自動車関連諸税は整理が必要なところであるので、その他の車両に課される税について合わせて減税を行いたい。景気対策にも配慮することになる。具体的には、自動車重量税の暫定税率を廃止し、本則に戻す。また従来道路整理財源とされているものを一般財源化する。自動車取得税も廃止する。トータルでは、増減税差し引きで多少の減税になる、というのを原案としている。 ただ、諸富氏の報告を聞き、もっと工夫する余地があると個人的には考えている。これまで日本は経済産業省の一声でそれなりの省エネ対策を産業界もやってきた。そういう意味ではヨーロッパ比べると恵まれた政府の環境であった。ここまで来たら、あとはぎしぎしとやっていかないといけない。それは環境税を含めた制度的仕組みでインセンティブを作り、削減効果をあらしめることが必要である。この民主党案は叩き台であり、まだまだ工夫していかないといけない。 中村
敦夫 氏(参議院議員、みどりの会議代表委員): 政党みどりの会議を一人で立ち上げ、依然一人で政党活動を行っている。21世紀は人類が今までの延長線上で生き延びるのは大変難しい極端な世紀に入った、という危機意識が根底にある。これまでの数百年の歴史を見ても、世界中が「経済成長が人々を幸せにする」との価値観を前提にして進んできた。その経済成長を無限の神としてあがめてきたことが、現実の生命環境と矛盾してしまった。なぜならば資源も生命環境も有限であるため。ある限界を超えると危険水域に入ってしまう。既に20世紀で、地域差があるにしろ、物欲による満足は危険な水準を越してしまったのではないか。そのままであれば大変な試練に直面する。そうすると、価値観の転換や経済そのものの考え方を変えないと、悲劇だけが待っている。経済成長を遂げ経済大国になるということは、工業国家になるということであり、その原動力が石油だった。今回のイラク攻撃も石油利権が基本的な動機だと考えているが、しかしながら、地球上に40年分しかないものを、戦争をして奪い合ったところで限界は知れている。人類は万能と勘違いしてきたが、かよわい動物であることを思い起こさなければいけないと思う。 21世紀の最大の問題は食料危機だと確信している。今農業は石油の海に浮かぶような、工業化された産業になっている。しかし、今後石油価格は暴騰するだろう。あと10年もすれば"終わりなきオイルショック"となり、今までの経済は大混乱の状況に入ると思う。イラク攻撃がそれを10年前倒しして、それに火をつけたら大変だという危機感はあるが、それはもう決まっていると考えている。 一方では、なけなしの石油を使ってこれまでの経済成長あるいはマーケット争いを続けていけば、地球温暖化はどんどん進む。科学者たちは100年後には1.4〜5.8度気温が上がるとシミュレーションしている。すでに大陸部での砂漠化は著しく、また温暖化により砂漠化が進行すれば食糧生産にも影響が及ぶ。 環境問題の解決は全面的なライフスタイルから産業形態、経済に対する観念の大転換を図るという大変な課題であるが、大きな事を言うだけでなく、具体的努力をして解決をしなければいけない。しかしながら、今は危機について話し合っているだけで、実際には何も進展していない状況だ。実際には、企業側の努力、住民側の努力、政府のできること自治体のできることなどいろいろある。そして国の政治家のできることは環境税、それもわかりやすく、炭素税に絞って行うのが効果的である。これは「誰にとって損だ」というような話ではなく、とにかく一日も早くやらなければならない。 税の議論になると、税収をどうするかという話に移り、それがいろんな省庁の取り合いにつながり、ゆくゆくは大気汚染や温暖化をかえって進める予算に使われることになりかねない。炭素税設定の第一の目的は、温暖化排出ガスの根っこを止める装置として位置づけないといけない。先進国の経済は、生活に必要なものは全部作られており、「経済成長のために浪費を促進させる」という最も温暖化にとって害のあるところまで踏み込んでしまった。しかも生産力が高まっている一方マーケットは限られているので、今度は非常にアナーキーな、マネーゲームの世界、カジノ経済が始まってしまうが、こうした金や物欲を満たす方向自体に先がない、ということを知らないといけない。「大きくなりたい」「勝ちたい」という"競争による活力"というような発想そのものが間違っている。 少し乱暴な言い方をしてしまったが、この辺で。 有田
芳子 氏(全国消費者団体連絡会 環境政策担当): まず最初に、全国消費者団体連絡会(消団連)をどういう形で活動してきたかを紹介したい。全国的な連絡会組織で、中央消費者組織23団体と地域団体19団体が連絡会組織に入っている。それぞれ団体は独自に活動をしており、例えばパブリックコメントを求められる場合には、かなり幅のある意見がそれぞれの団体から出される事もあるが、一致点があれば消団連としても意見を出している。 また、"消費者大会"を毎年秋に開催しており、昨年度で41回目を数えた。その消費者大会で税の問題が毎年取り上げられている。売上税、最終的には消費税と言う名称になったが、大型間接税導入時には、導入前から数年かけて税に対する学習・研究など行なった。制度について議論し、広く意見も出してきた。その中で消費税を実施するにあたり、89年には共同の力で消費税廃止、と言っている。数年後、見直しがあったが、当時から、消費税についても「福祉目的税なら必要」という団体もあれば「とんでもない」という団体もあり、また例えば「生活必需品は免税して贅沢品にかけるのは仕方がない」など、その後も内容の見直しについての意見を出してきた。 税金のことは最近あまり話題にならなくなったが、それでも消費税率引き上げ反対あるいは不公平税制の是正という形で動いている。私は2000年6月から事務局として関わっているが、環境というテーマの中で環境税の学習会を行い、消費者大会でも取り上げ、今後議論が必要であろうと考えていた。その後、国の財政見直しをすれば、さらにいい方法があるのではないかと考えてきた。環境税については、どの消費者団体も消費者も、ほとんど反対はしないと思う。ただし、消費税のときの議論や導入の仕方、中身に不信感があるので、どうしても「一般財源よりは目的税に」という声になる。ところが中身をもっともっと見て行くと、本当に目的税化にしてうまくいくのか、という新たな疑問が出てきた。そこで今日は、あくまでも環境などに対するこだわりはあるがどうしようか、と思っている消費者の代表として参加させていただいた。 寺西
俊一 氏(一橋大学大学院経済学研究科 教授): 日本で環境税の議論が始まった、91年11月の環境税検討会以来、環境税に関わっており、この議論は13年目に入る。そろそろ議論の段階から、具体的な制度設計や導入の段階に入るべき時期に来ている。議論はこれ以上やっていてもある意味で堂々巡りするだけなので、いかに具体的な制度設計に踏み込んでいくか、その国民的合意あるいは政治的合意を作る必要がある。そのためには、誰もが「なるほどこういう税制が必要だ」と思う明快な理念やプロセス、考え方を示すことが必要だ。現状では、税制に対する国民の不満や税の歪みも大きいので、簡単に導入するのはむずかしいと思う。 言葉を区別したいと思う。1つは、環境省の言う「化石燃料への炭素含有率に応じた課税」という意味での"炭素税"。もう1つは、もう少し広い意味での、炭素税や自動車関係税の問題なども含めた"環境税"。3番目に、欧州で現実に進んできた、既存税制の見直しや改革を含む"環境税制"。つまり環境の観点から、既存のエネルギー税制や化石燃料税制、自動車税制や、ドイツの場合は社会保険料のあり方、それから法人税、個人所得税のあり方などの全てを環境の観点から改革していくという環境税制改革の議論である。 私自身は、環境税制改革論として問題を捉えるという視点を持っている。12年前の最初の検討会からそのように申し上げてきた。その観点から言うと、環境省の中間報告の案では、第一ステップで既存税制の改革であるグリーン化をまず行い、それでも足りなければいわゆる炭素税型の「地球温暖化対策を主目的とした地球温暖化対策税」を入れることを検討する、という基本戦略が示されている。私は、これでようやく欧州での議論のスタートラインに立ちつつあると評価しており、この戦略を後退させずに、どう具体的な制度設計に踏み込めるかに、今後の課題があると考えている。 もし、環境税制改革論として問題を捉えるならば、当然、入口での税の取り方の改革は、同時に出口側での、既存の補助金の改革も含めた支出側の改革をセットにしないと国民は納得しない。環境税制改革は、必然的に「環境税財政改革」として提案されなければならない。従って、「税財政のグリーン改革」のパッケージをきちんと示すことが必要で、環境省はそのビジョンの下で各論をつめていただきたいというのが私の意見である。 私の専門とする経済学の方から言うと、今日の経済学の源流ともなっているケンブリッジ大学の高名なアルフレッド・マーシャルが『経済学原理』を1890年に書いているが、彼は1897年に英国の王立委員会からの「地方税に関する諮問」への答申として、当時ロンドンで石炭消費によるスモッグがあった(ローカル・ポリューションだが、今日の地球温暖化問題にもつながる)に対して、「大気浄化税」(Fresh Air Rate)の導入、いわば今日の環境税の先駆となる提案を行っていた。しかも彼は地方税として導入しろといった。これは、先ほどの諸富さんの地方環境税の提案とも整合性を持つと思う。 私は、マーシャルの提案を100年後の今日にどうやって具体化できるか、経済学者として熱い思いをもって取り組みたいと思っている。マーシャルは「warm
heart and cool head」という有名な言葉を残している。私も、心の上では中村議員と同じく、環境から世直し改革をしなければならないという熱い思いである。しかし思いだけでは国民的合意はつくれないわけで、冷静なる論理に基づく提案を積み上げる必要がある。その意味ではきちんとした対抗提案を出していかねばならない。公明党さんと民主党さんの提案は、全面的に賛成というわけではないが、私としては、民主党さんの提案には税財政改革論が入っているという点で、比較的意見が近いと思う。 足立
治郎(「環境・持続社会」研究センター(JACSES)事務局長代行): このような形式のセミナーは今回で3回目になる。『炭素税研究会(セミナー協力)』という「NGOや企業人ベースの研究会」を立ち上げたが、地球温暖化防止対策を進めなければならないといった時に、だいたい政府の立場は原子力推進で国内での対策はなかなか取れず、産業部門の排出量が減らずに民生・運輸部門の排出量が増え続けており、産業部門は「民生・運輸が減らないのに産業部門の削減を促す政策を導入するな」と言う。こうした状況が今でも続いている。 我々は炭素税だけで地球温暖化対策が全て済むとは思っていないが、一つ一つの温暖化対策を実施していかなければならない、という意味で、少なくとも炭素税くらいは、しっかりと研究をした上できちんとした提案を出していこうという立場に立っている。ただ「導入しろ」と言うとか、ただ政府提案に反対するのではなく、なかなか導入されない環境税の案を我々から提案し、逆にその案を叩いて頂いて、さらにいい案を政党なり環境省に出していただくといった形を考えており、今日、ようやくそのような状況に達してきたと実感している。 1年半前に炭素税提案のVer.1を作り上げて以降、いろいろな方からご意見を頂き、今年12月にはVer.4を策定、今もさらなる改訂作業を進めている。ここで現時点での提案を説明する。 提案の目的・狙いは、「温暖化対策が進まないので炭素税が必要」というスタンスである。炭素税を消費者のみが負担し、産業が負担しないような制度になることも懸念されるが、そのような減免措置が通らないような、公平な制度にすることが非常に重要と考える。これは総合的な税財政改革の一歩であり、私たちは炭素税がただ導入されればいいとは全く思っていない。昨年、経済産業省等によるエネルギー税制改革が行われた。その改革において石炭課税の導入が決定したことは良い点である。一方で、原子力への重点化が謳われている。また、改革のプロセスは、ほとんど国民的議論なしに進められた。そういった意味でも、こういったところをどう手直ししていくかということも非常に重要で、炭素税導入と共にエネルギー税制改革やそれ以外の税財政改革全体も行うべき、と考えている。 現実的には温暖化対策の第2ステップの開始年である2005年以降でないと、炭素税の導入は不可能であるが、炭素税は、税導入後すぐに排出量が減る訳ではないので、とにかく早く導入しないといけない。早く導入すれば、ある程度低税率でも2008年までに効果があるが、例えば2007年に導入するとしたら、削減量達成のためには高い税率が必要になる。急激な社会の変革を引き起こさずにスムーズに導入するには、早期における導入が重要であり、遅くとも2005年には導入したいと考えている。 課税対象はCO2を考えている。環境省が考えている「地球温暖化対策税」では代替フロンなどの他の温室効果ガスも含まれるということだった。他の温室効果ガスへの課税も重要だが、おそらく制度設計が異なってくるので、この提案ではとりあえずCO2に絞っている。 課税主体については国を基本に考えているが全国一律の地方税とのセットも考えにおくべきだろう。税率は炭素トンあたり6000円から12000円だが、やはりこの程度の課税率でなければ、効果は見込めないだろうと考えている。 大きな論点となる使途についてだが、地球温暖化対策推進大綱関係予算の総額1兆3千億円のうち、3千億円は原子力予算になっている。環境省も含めて政府の方針は「温暖化対策としての原子力」であるため、炭素税の税収の多くが原子力に使われるという懸念が大きい。エネルギー税制改革でも、環境省は今年度で60億円、3年後(2007年度)には300億円くらいの温暖化対策予算を獲得する。経済産業省は「原子力の強化」「温暖化対策の強化」という方針を打ち出しており、炭素税の税収が原子力へ回る危険性は高い。また、"特定財源の既得権化"の問題もあり、一般財源にまわすべきだと考えている。温暖化対策にまわす場合には、1兆円から2兆円という巨額の税収の全部を温暖化対策に使うのではなく、できるだけ国民のチェックが効く形で税収の一部を使っていくのが良いだろう。 環境税の導入にあたっては、環境対策の他に社会的公正も重要であり、欧州等では、逆進性や失業・雇用対策などを考えて制度設計がなされている。日本の場合、市民が声をあげないと、おそらく環境省などではそのような案はなかなか出ないだろう。また、「環境税は景気後退、失業を増やす」という迷信があるが、欧州では失業対策としても環境税制改革を進めている。 また、欧州では炭素・エネルギー税と称しており、CO2に課税する際、環境に問題のある原子力発電や大規模水力発電(ダム)が有利にならないように、同時に電力にも課税し、自然エネルギーやコージェネレーションに関しては免税すると言う措置をとっている。日本ではそのような議論にまだ至っていないが、欧州ではCO2も減らすが、同時に原子力も減らすという発想だ。日本では、逆に原子力に予算が重点配分される懸念があり、議論のレベルがあまり高くないのではないか。市民の意見表明が重要になってくるであろう。 財政支出改革も大事で、温暖化対策予算の増額は、炭素税による財源調達だけで終わらせるのではなく、その他の財政支出削減による温暖化対策予算増額を真剣に考えないといけない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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