■現状・背景
私たちの預貯金や税金を通じて集められた一部のお金が、政府・開発機関による開発援助という形で途上国のダムや道路の建設に融資されています。しかし、これらの開発援助によって環境破壊や人権侵害が起こってきました。政府や開発機関は、環境・社会配慮ガイドラインなどの基準を設立させましたが、それらはまだまだ不十分で、以下のような問題が未だに発生しているのが現状です。
- 影響を受ける住民への情報公開の不備:開発計画の内容およびその影響が住民に早期から情報公開されておらず、重要な文書が現地語に翻訳されていないケースがある。
- 意思決定への不十分な住民参加:公聴会の実施なども不十分で、計画の修正や変更、代替案の検討など、意思決定プロセスにおいて影響を受ける住民が実質的に参加できないケースがある。
- 強制移転における補償の不備:住民の強制移転に際し、補償の不払い、不十分な支払い(農地に適さない代替地の提供など)が行われ、住民が生計手段を喪失し、貧困化を生み出しているケースがある。
- 環境対策の不備:環境影響評価やその対策が十分に行われておらず、プロジェクト設計の不備による洪水の多発や飲料水の枯渇など、住民の生活が脅かされるケースがある。
- 不十分な異議申し立てプロセス:強制移転や環境破壊などにより被害を受けた住民が、政府や国際機関に対して適切に異議申し立てを行うプロセスが確保されていないケースがある。
■活動内容
上記のような問題を解決するために、本プログラムでは、以下のような活動を行っています。
- 人権侵害・環境破壊を防ぐ早期段階からのモニタリング体制の確立:途上国のNGOのモニタリング能力を強化するためにワークショップを行ったり、ウェブサイトなどを通じて、援助機関や援助国政府の開発案件情報を早期に途上国のNGOへ情報提供する体制を構築しています。深刻な影響が起こりそうなプロジェクトに関しては早期から情報収集を行い援助機関や援助国政府に情報提供を行っています。
- 現場に密着した調査による問題点の明確化:途上国NGOなどと密接に協力し、南アジアの影響を受ける住民への聞き取り調査を行い、問題点を明確化した現地調査レポートを作成しています。
- 個々のプロジェクトの具体的な改善策の提案:現地調査をもとに、日本政府(財務省など)や国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行(WB)などの担当者に対して個別協議や定期協議を通じてプロジェクトの改善策を提案しています。
- 個々のプロジェクトの問題から政策の改善策を提案:個々のプロジェクトの問題をまとめ、援助機関や援助国政府の政策(環境・社会配慮ガイドライン、情報公開政策、異議申し立て制度など)の課題と改善策を提案しています。
■主な実績
- 開発援助に関する政府とNGOの政策対話を図るため、財務省NGO定期協議を立ち上げました。(年4回、開催しています)
- 他のNGOと協力し、日本の主要な援助機関である国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)の環境・社会配慮ガイドラインを設置することに貢献しました。(モニタリングを継続中)
- 日本が最大の援助国であるアジア開発銀行(ADB)の情報公開政策の改善(情報公開対象範囲の拡大など)や異議申し立て制度の確立に貢献しました。
- 急速な経済発展が見られる南アジア地域における開発プロジェクト(インド・オムカレシュワールダム、ネパール・メラムチ給水プロジェクト、パキスタンチャシュマ灌漑プロジェクトなど)における環境破壊・人権侵害などの問題の改善に貢献しました。
■今後の展望
- 途上国の急激な経済発展による資金需要の高まりにより、国際的な開発援助機関の環境・社会配慮基準の弱体化の動きが強まっています。JACSESでは、これらの弱体化を防止し、さらなる基準の強化を目指して活動していきます。
- また、経済発展著しい南アジア地域においては、巨大開発プロジェクトが急激に増加しています。これらのプロジェクトによる環境破壊・人権侵害・貧困化をなくし、特に問題の未然防止を図るために、現地NGOや影響を受ける住民との共同モニタリング体制を一段と強化していきます。
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